18話 ニュースと、戦争と、明日の予定
股間スレスレで、ハサミを「チョキン!」としてみましょう。
きっと没入感が上がりますよ!
※服を着てる状態で行ってください。怪我をしても、私は責任を取れません。
2025/8/26 加筆修正
ワンダの話が一段落すると、栗林が驚きの声を漏らす。
「ほぅ…、エルフが元々人間だったとは。森小人族なんて、初耳だぜ?里へ行った時も、全然気づかなかったしなぁ。」
「僕も最初は、エルフの子どもにしか見えませんでしたから。知らなければ見過ごしてしまいますよ。」
「だろうなぁ。こりゃぁ、歴史学者に聞かせたら、ひっくり返るような情報じゃねぇかい?」
「そうかもしれませんね。でも、族長さんからは『悪用しなければ、話しても構わない』と言われています」
うーむ、と唸りながら、考えを巡らせる栗林。
「しっかし、”物を見えなくさせる技術”なんてのが出回ったら、国同士のパワーバランスが一瞬で崩れるぞ?」
「あー、戦争に関しては『争いに加担するつもりはない』と言っていました」
「それなら、まだマシか…。そうだ、戦争と言えば、エルフに関して情報があるぞ。聞くかい?」
(まさか、あの人たちに喧嘩を売るようなバカが…?)
エルフの里での恐怖体験を思い出し、疑問に思う。人数が少ないので、戦力の評価が過小評価されているのだろうか?
「是非、お願いします」
「あいよ。まぁ、戦争に直接かかわってるわけじゃねぇから、安心してくれ。ある意味、直接よりヤバいがな…。まず、男捨離がなぜ生まれたのか、教えてもらったかい?」
「いえ、使い方を見せつけられた…ダけ…デ…す」
トラウマがフラッシュバックし、一瞬意識が飛ぶ。制御が甘くなった魔力が、頭の穴という穴から、黒いモヤとなって漏れ出す。突然、椅子にもたれ掛かるように脱力し、放心状態のまま黒いモヤを垂れ流し始めたワンダに、栗林が焦って揺さぶってくる。
「なんだぁ…?お、おい!戻ってこい!なんか出てるぞ!」
「っ!すみません。ちょっと嫌なことを思い出してしまって…」
「おぉ…そうかい。っと、男捨離が生まれた理由だったな。エルフが異種族と交流を始めてるってのは、知ってるな?特に、オークが積極的だ。大食いのせいで、食糧難になる度にエルフを頼ってる。生活圏が近いってのもあるかもな。『力仕事をする代わりに、食料を』ってわけだ」
「なるほど。ちなみに、オークはどれくらいの力があるんですか?」
「そうだな…。一抱えもある枝付きの丸太を、担いで歩いてるのを見たことがあるぞ」
(一抱えの丸太って…、そこら辺の木でも10~20mはあるんじゃないか?)
「エルフに、そこまでの重労働が必要とは思えませんが…」
「確かに、エルフは植物系なら加工も得意で、魔法もそこそこ使える。だが、石系の加工や運搬は苦手でな。手のひらサイズを超えると、厳しいだろうよ。あとは、馬の代わりだな。エルフの里には、馬車が無かっただろ?」
「そういえば、みんな背負子で運んでいましたね」
「台車はあるんだが、あんまり載せるとエルフじゃ引けなくなっちまうらしい。一度にたくさん運ぶ時は、エルフから頼んでいるみたいだぜ」
「なるほど。僕がいる間は見ませんでしたが、結構交流があるんですね」
「まぁ、結構と言ってもエルフからすると、だからな。年に2~3回。特に、食料不足になりやすい冬が多いんじゃないかね」
「冬は何かと入用ですから、持ちつ持たれつですね」
「だな。で、交流が進むにつれて、オークに興味を持つ者が出てきた。混血が生まれてきてるってのは、隠れ里で聞いたな?」
「そうですね」
ここまで軽快に話していた栗林が、少し深刻そうな顔つきに変わる。
「問題はここからだ。オークの大半は誠実で穏やか、不器用だが力はあって頼りになる奴らなんだが…。一部に、子どもができても知らん顔の無責任な連中がいる。見た目じゃ見分けがつかねぇから、なおさら質が悪い。そこでブチ切れたのが【陽炎の断姫】こと、美唄様ってわけだ」
(美唄さん、そんな呼び方されてるのか!)
「男捨離の開発者ですね」
「おぅ。でもな、最初は爪で斬り落としてたらしいぞ?おっかねぇ…。爪が尖ってる女性がいたら、気を付けろ。男捨離の最初の訓練は『爪で斬り落とす』だからな」
エルフの里での訓練風景を思い返すと、思い当たる節があった。
(爪が尖っているのって、そういう理由だったのか!)
あの頃は、尖った爪を里の風習だと思い込み、深く考えずに過ごしていた。今更ながら、恐ろしい場所にいたことに気づいて背筋が凍る思いだった。
「断姫は、見せしめとして、それはもう派手に粛清して回った。おかげで、素行の悪いオークたちは、かなり大人しくなったな」
「それが、なんで戦争に繋がるんです?」
「まぁ急ぐな。大人しくなったとはいっても、全員じゃない。中には、まだ逃げ回ってる奴がいる。そういうのを、探し出しては粛清していたんだが…。その標的が、たまたま戦争に参加していたらしい」
(それは…嫌な予感がする)
「断姫は、戦場で標的を見つけると、その場で処刑しちまったのさ。まだ開戦前で、陣地構築中の見通しのいい場所でな。断末魔が戦場中に響き渡ったおかげで、両陣営が処刑の様子をばっちり目撃しちまったのさ」
「今までも、処刑は目撃されていたんですよね?なんで今回は話題になってしまったんです?」
話が長くなって乾いた口を、酒で潤してから栗林は続ける。
「んぐっんぐっ、…ふぅ。そりゃ、ほとんどが人気が無い場所か、オークの領域だったからな。情報は入って来ていても、他人事だった…んだが。実際に目にしたことで、男捨離の残酷さと恐怖が、国の上層部に刻まれちまったのさ」
「なるほど…」
「オークが参加していた陣営は、間近で目撃したことで、そのまま壊走。相手の陣営も、断姫に目線を向けられただけで怖気づいちまって、士気が下がったことを理由に撤退したそうだ」
「心の準備も無く見せつけられたと思うと、同情しますね…」
「だな。殺し合いに来てる奴らがビビっちまうくらいだから、相当だろうよ。おまけに、エルフの里へ『戦場へ無粋な物を持ち込むな』と苦情を入れた国は、逆に断姫に直接乗り込まれて、DST活動への不干渉を約束させられたそうだ」
「DST活動ですか?」
「単なる略語だが、『出した責任取れ』だな」
「あぁ…。それにしても、美唄さんって強すぎません?訓練場の全員を連れて行ったとしても、国と交渉できるほどの戦力とは思えませんが」
「いや、交渉には一人で来たらしいぞ。そんな真似ができる奴が、ただの一般人ってことはないだろ。たぶん、精霊級の妖精憑きなんじゃないか?そうだとしたら、ここら辺の中規模の国なんて話にならん。まぁ、件の国がメンツを守るためなのか、ずっとだんまりを決め込んでいるせいで、詳しいことは分からんがな」
(精霊…ティーナカさん&エスズキさんの仲間かな?)
「妖精憑きっていうのは、そんなに強いんですか?」
「んー、妖精憑きだから強いって訳でもない。魔力操作の規模というか、精度というか…。妖精との相性もあるが、一般人では遠く及ばない存在だってことは確かだな。それが戦闘に使われれば、大国でも抑えきれるかどうか怪しいもんだ」
(美唄さん、そんなに強い人だったのか…。やたらと人気があるとは思っていたけど)
「そんなわけで近々、周辺諸国が集まって、エルフの里を『永久中立』に認定するらしい。中立と言っても、押しつけだがな」
「エルフの里に干渉しません、っていう宣言ですか?」
「いや、エルフと仲良くしたら叩きのめす。という、周辺諸国だけで通じる条約だな。エルフをコントロール出来ないから、他を縛るしかないのさ」
「仲良くしたらって…。里に、何か影響は出そうですか?」
「いんや、特にないだろう。ただ、エルフっていうだけで、しばらくは腫物扱いだろうよ。特に、爪が尖っているエルフはな」
(それはまぁ…元から警戒されててもおかしくないかな?それにしても…)
しばらくギルドの仕事で里に寄れなかった間に、そんなことが起きていたなんて――。美唄さんがそんなに強いなんて知らなかったし、妖精憑きかもしれないというのも知らなかった。
「里にはそこそこの期間お世話になっていたんですが、知らない情報ばかりでした。ありがとうございます」
「良いってことよ。森小人族の方がよっぽど価値ある情報だぜ?これでもまだ、貰い過ぎなくらいだ」
冷めてしまった料理をしばらく食べ進めてから、栗林が質問してきた。
「そうだ、お前さんギルドで働いてるんだったな?その体じゃ、事務仕事がメインか?」
「そうですね、出張の時以外は受付と裏方です」
「その手じゃ筆が滑るだろ。普段はどうしてるんだ?」
ワンダは手のひらを見せながら、説明する。
「本当は手袋を買おうと思っていたんですが、なかなか手に合うのが無くて。今は適当な布を噛ませています」
栗林は、しげしげとワンダの手を眺めると、頷く。
「サイズは人と変わらねぇな。よし、明日うちの店に来い。採寸してぴったりのを作ってやるよ」
「おぉ、それは助かります」
「出発はいつだ?」
「明後日の朝に出発しようと思っています」
「利き手だけなら、そんなに時間もかからねぇから間に合うだろう」
明日の予定を話し終えたころには、すでに夜も更けていた。気づいた栗林は慌てて帰路につき、その日はお開きとなった。
(予想以上の収穫だったな)
ギルドの情報網だけだと、情報の種類や視点にどうしても偏りが出てくる。独自の情報網が得られたのは有難い。おまけに『自分が貰いすぎだ』と言って、手袋まで融通してくれるとは。対等の付き合いが期待できそうで、今後が楽しみだ。
機嫌のいいワンダは、娘のためにと、消化に良さそうな特別メニューを厨房で作ってもらった。夜遅くの無茶ぶりにも快く答えてくれた料理人に、感謝と心付けを渡しておく。
手が滑るので布を噛ませ、素足なので一歩ずつ慎重に、料理をそっと運んだ。
鼻が良いのか、部屋に入る前から娘は気づいていたようで、尻尾をブンブン振りながらお出迎えしてくれた。あっという間に平らげると、満足そうな表情を浮かべたまま、すぐに眠りについてしまった。穏やかな寝顔を確認してから、明かりを消してワンダも寝床へ横になる。
食堂の客もそろそろ岐路に着く時間だが、まだ喧騒が漏れ聞こえてくる。さっきまでうるさく感じていたそれも、今は子守歌のように心地よく感じた。
明日の買い物リストを思い浮かべながら、娘にも何か喜びそうな物を買ってあげよう――。そんな楽しい予定を考えている間に、いつの間にか眠りへと落ちていた。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…
妖精憑きは、イタリア語で『魅力』という意味だそうです。




