薄揚げポテトは魅惑の存在1
「あらーユウちゃん。昨日はどうしたの?大丈夫だった?」
ユウ……例の美幼女を見て、気軽な感じで話しかけてくるのは受付嬢だ。
金髪で妖艶な美女だ。エルフ耳もついてる。過去の人類が遺伝子で遊んだ時の産物だ。
ここは傭兵連合の支部の支店。
依頼を受けたり依頼を報告したりするところだ。
新人とのテンプレトラブルもここで行われる。
作業着姿の幼女はホロパネルを差し出した。
「ん……?!
これ、未払いじゃないの!」
「すみません」
「なぁんでユウちゃんが謝るの!
データ、見てもいいのね?」
幼女は頷く。
データとは、ホロパネルに記録された、いわゆる録画データだ。
面倒がってこの機能を使わない傭兵は多いが、実際、トラブルの際には確固たる証拠になる。
マーセナルズは客と傭兵間のトラブルには関わらないものの、一方的に不利益を被った際の情報共有はむしろ広める方針にある。
ノーコストで得た情報を広める分には、追加コストもかからないからだ。
受付嬢はゴーグルっぽくてVR機器っぽいゴーグルを着用すると、ホロパネルに触れた。
するとホロパネルのデータが送信され、ちょうど小説のような感じで文章化された状況を読むことができるのだ。
この辺は映像から文章への翻訳機能が働いている。正確さには定評があるぞ。
状況を読み終えた受付嬢はひとつため息をついて。
「……お疲れ様、ユウちゃん。
未払いはユウちゃんがなんとかするしかないけど……」
幼女は首を振る。
ほっといていいよとの考えだった。
「……まあ、ユウちゃんには3万ドルなんてはした金よね。
でも、ほんとによかったの?」
受付嬢の言うことは、幼女が昨日の依頼を受けた本来の理由だ。
先日、幼女が依頼を受ける際にも聞いたことだ。
そうしたら幼女は、「戦車に乗りたくなった」とだけ答えた。
受付嬢は意味が分からなかったし、なんなら戦闘は一切させてもらえなかった。
しかし……
幼女が頷いたので、おそらく不満はないのだろう。
まあ不満がないのならいいかと受付嬢も話を切り上げた。
「じゃあ、悪いのだけれど未払いでもマーセナルズの取り分は発生するから……
20%の6千ドル、いいかしら?」
「はい」
受付嬢がホロパネルに再度触れると、6千ドルの支払いが表示される。
これで、今回の依頼は全て終了だ。
「はぁ。もー。
たかだか3万の未払いって……てゆーか、あの街の連中の態度!
一体なんだっていうのかしら」
そんなこと言われても幼女には首を振るくらいしかできない。
本当にわけのわからない街だったのだ。
言い分が正しいからと言って、拉致監禁未遂に報酬の踏み倒し。
やっていることは犯罪だ。出るとこ出たなら逮捕者が出たかもしれない。
ユウがそうしなかったのは、ひとえに面倒だったからだ。
実際にあった被害と言えば、報酬未払いの3万ドル程度だ。
その程度でわざわざ手続きの面倒な警察機構への届け出など、するはずもない。
と言うかポリスメン共は傭兵を見下しているので、スムーズに手続きが進むかどうかすら怪しいのである。絶対に御免であった。
精々傭兵仲間に情報を流すくらいでちょうどいいのだ。
「何かない?」
ところで、他に依頼はないだろうか?
「そうねえ。色々あるにはあるのだけれど、ユウちゃんに勧めるにはちょっとねえ……
こんな雑用やってもらうくらいなら、”狩り”のほうをしてもらいたいし」
狩りとは、資源となる敵性機械体を倒してその体である資源を回収することだ。
回収とは言っても、HTで直接持ち運ぶのではなく、回収業者に依頼するのが普通である。
前回のように戦車で持ち運ぶといったことはあまり、と言うか全くしない。あれはあの街の狩り方が特殊なだけだ。
HTは人型という汎用性から、長時間にわたって多数のリギーを相手にすることができるため、獲物の回収はそれ専門の業者に依頼して行うのだ。
傭兵によっては専属契約を結んでいる者もいるくらいで、更に1日100万ドル稼ぐ傭兵チームなら、複数の輸送業者と契約を結んでいるのがざらである。
「ほんとは前のような賊の討伐もいまいちなのよ?……って。
そうそう、ごめんなさい忘れていたわ。
その賊から回収した物、全部捌けたから登録銀行口座に入れておいたわ。
全部で11万2310ドルね」
「けっこう高い」
「賊の割には何かいい武器持ってたみたい。
被害額を考えたら全く割に合わないけどね。ま、そこは政治家サマが考えることよね」
ついつい愚痴ってしまう受付嬢に、ユウは軽く首を傾げるだけに留めておいた。
権力者に対して忌避感はないものの、話について行けるかというとそうでもなかったからだ。
どうせ皆、自分の欲のために戦っている。
世界と、社会と、自然と、他人と。あるいは、自分と。
昨日の街の人たちのように、たまに他人のためと言い切る人もいるが、それならばその他人に一切の負担をかけないやり方でやるべきだ。
ユウにとってこの世界とは、そういう認識だった。
まあとにかく、ろくな依頼が無いのならば仕方ない。
いつもの狩りにでも行くか、と思ったところで、背後から声がかけられる。
「ちょっといいか?
そこな少女、あんたが”青狼”か?」
誰だよそいつ。
振り向いたらおっさんがいた。どこか精悍な雰囲気で、とてもいかつい。
しかし青狼なんて名前ではないので、ユウは首を振った。
受付嬢は青狼がユウの通り名のひとつであることを知っていた。
しかし何も言わなかった。どうでもいいから。
「む、し、しかし、情報では青い髪の少女だと……」
そう言って、いかつい男は受付嬢を見る。
受付嬢は「何か?」とだけ言って、自分に用があるんか?といかつい男の無言の質問をかわした。
「……その、彼女が青狼ではないのか?」
しかしいかつい男は引き下がらず、あるいは察しが悪かったのか、受付嬢に聞く。
受付嬢はため息をついた。
「我々からは、特別な理由なく個人の情報を出すことはいたしません」
つーか青狼とやらに用があるなら、掲示板でも使って青狼とやらに依頼出せばいいじゃん。
マーセナルズも通さないので手数料かからないよ。相手が見るかどうかは知らんけど。
そんな気持ちも込めて営業スマイルで対応すると、いかつい男は今度こそ焦りを見せ、「その、邪魔したな……」と立ち去った。
「青狼なんて名前の人がいるんだね」
「そうねえ。
親の趣味は色々だものねえ」
素朴な疑問を口にする幼女と、すっとぼける受付嬢のやり取りは、周囲の連中をほっこりさせていた。
ん?
当然、周囲の連中も知っててガン無視してたよ。
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さて、やることがなかったので”狩り”である。
雇った輸送部隊から索敵の報告が届いた。
長く赤い髪をサイドテールにした、青い目のワイルドな雰囲気の姐さんだ。
服の露出も多いタイプ。
もちろん美人だ。
「ユウ!周囲にはリギーだけだ!
派手にやっとくれ!」
「了解」
青狼なんて言われるユウではあるが、別に機体は青くない。
何ならその都度塗装を変えてもいる。実用主義者なのだ。
今日の塗装は砂と岩山の地形に合わせた砂漠迷彩だ。リギーは機械に見えるが、レーダーを積んでいない種類も多い。
そういう相手には迷彩が役に立つ。
例えリギー相手に役に立たなくとも、目立たないことはいくつかの意味で良い事だ。
バックパックに4つ並んだ推進器が一斉に青い光を噴く。
反発力を使った効率のいいスラスターは、HTの長時間稼働を可能にするにもかかわらず、陳腐化された技術だ。
過去には、「人型兵器を作るくらいなら、その技術を使って既存の兵器を強化すればよい」という提言もあった。
しかし結果として、持続的な瞬発力を得るスラスターが兵器に使われることはなかった。
HTに付けてこそ真価を発揮するパーツが技術ごと陳腐化したことは、HTの普及を助けた理由のひとつとなっている。
傭兵が扱う兵器としては、戦車はまだまだ現役だが、戦闘機や船舶となると少々難しくなってくる。
空港、港という、それなりに大きな拠点が必要だからだ。
傭兵が持つには大きすぎるそれらと運用される兵器は、パーツ分けができないため、整備にも割と人の手を食うという難点を持っていた。
HTは胴、腕、腰、足。
内部パーツはエンジン、スラスター、駆動パーツ、そして据え付け型のコンピュータと、とにかく規格化が進んでいる。
武装も同じだ。手と背部に共通のハードポイントがあり、パーツによっては腕や足、腰の側面に装着できるものもある。
そしてこれらは、HTがもう一機あるだけで付け外しができてしまう。
壊れたら壊れたパーツを買って付け替えればいい。
とにもかくにも人手がいらない。
大きくて大雑把なHTは、軍隊にはその性能からあまり歓迎されなかったものの、こと傭兵稼業においては非常に重宝された。
HTの普及によって、それまで軍隊と企業傭兵しか存在していなかった市場は、個人または少人数の傭兵チームを多数生み出したのだ。
そういうわけで、今日の乗機はバージェスティオ製HT「ヘリオトロープ」だ。
同社の低級から中級の間の製品で、ユウが初めて傭兵をやった時にレンタルして使っていた機体を、そのまま買い上げたものである。
15メートル級の無骨なデザインの機体は、傭兵が使うと言うよりは量産機のそれに近く、機体サイズのためにコックピットもかなり小さい。
だがユウにとっては調整要らずの便利サイズだ。初心者向けに振動抑制機能が付いているのもありがたかった。
武装は標準装備の100mm弾ライフルを右手に。
射突型鉄杭を左腕に装備している。
ヘリオトロープの腕にはハードポイントは無かったが、このために腕の装甲はハードポイント付きのものに張り替えてある。
標準装備のレーザーブレードのほうが当てやすいのは間違いないのだが、あんまりにもばっしばっしレーザーやビームで焼くと、倒したリギーの資源としての査定に関わるため、一番影響の少ない一撃必殺武器である、射突杭を使っているわけだ。
相手に近付いて杭をぶっ刺すなんていうこわい戦法とは裏腹に、背中に積んだ装備はレーダーと折り畳み式長射程レーザー砲で、シンプルな印象を受ける。
双方追加した装備で、レーダーは特に良いものを使っているが、レーザー砲ははっきり言って粗悪品だ。
長距離とか書いてありながら、ぶっちゃけかなり近くでないと威力が出ない。精度が悪く、収束率が低いのだ。
それでも実体弾があまり効かない敵に対しては十分な優位性を持てる。持ってる属性はできるだけ多いほうがいい。
そんな機体を総合的に評価するならば、中の下か下の上くらいである。
端的に言って、先日戦ったならず者集団の機体よりちょっと上くらいのものだ。
ユウ自身の荒い操縦に対応できるよう、エンジンと駆動系だけはそれなりに強化しているが、ヘリオトロープの割には良く動く、程度のカスタムだ。
ユウ自身、機体には大した執着はなく、動けばいい、狩れればいい程度の認識である。
できるなら性能アップも考えるのだが……
(……おいしい料理には抗えない)
1日平均20万ドルにも及ぶユウの食費は、集めれば最新のHTを数機買えるほどの出費になっていた。
「これで10」
操縦桿を巧みに操作し、踊るように射突杭を突き立てた。
40メートル級のリギーでさえもあっさりと沈むその理由は、ほとんどのリギーが持つ弱点箇所の存在にある。
ここに一定のダメージを与えると、リギーは動かなくなるのだ。
傭兵たちの間では、弱点とも、核とも呼ばれている。
そんなコアをぶち抜いて、ぶち抜いて、ぶち抜いてを繰り返すのが、普段のユウの狩り方だ。
弾を使わないので懐にも優しい。とてもエコな戦い方だ。
言うは易しだが、まあまあ難しい。
車の運転で言うなら、S字カーブをすいすいと言える雰囲気で走った先で縦列駐車を一発で決める、くらいの難易度だ。
ユウはこれでも年単位で傭兵稼業を続けているので、まあ慣れた物なのである。
で、次の獲物は……といったところで、通信が入った。
「ユウ!西からHTが1機こっちに向かってる!
平均射程まであと5分だ!」
「!
了解」
輸送部隊は何としてでも守らなければならない。
別に規定とか罰則とかがあるわけではなく、傭兵としての評判にも、今日の獲物を持って帰るという意味でも、そして人死にが出かねないという意味でも、その他諸々色々と関わってくるからだ。
ユウが輸送部隊と、近付いてくるらしいHTの進路との間に、全速力で入ったのが約2分後。
索敵班のものらしい無人ホバー飛行機がヘリオトロープの真上でふわふわしている。
砂埃が少しずつ見えてきた。
人型。確かにHTだ。
機体の色は黒字に赤のラインカラー。こういう砂地で、それも昼ではやけに目立つ。
機体の種類は……なんだろう?
「ありゃあ、”バンセル”か?」
「おそらく……
ユウちゃん、不明機は高機動タイプだ。
敵とわかったら射撃優先で戦ったほうがいい」
「わかった」
アタラシアンテクノロジー製HT「バンセル」。18メートル級だが高機動型をうたっており、装甲が薄い代わりにとても素早く動けるのが特徴だ。
標準装備ではマシンガンとレーザーブレード、小型ミサイルのザ・平均といった感じの武装だったが……
どんなふうにカスタマイズされているかは、まだわからない。
機体が見えてきた……ん?
なんだありゃ、武器持ってなくね?
いや、腰に何か一本……
「突然の訪問失礼する!
貴君ら、青狼とその一味と見受けるが!!」
だから青狼って誰だよ。
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