8.ラナの戦い方
ラナは驚いた様子でこちらを見る。
「シマロバを?冗談でしょ?」
さすがに相手が弱すぎたか。肩慣らしにいいかと思ったんだが…
「もっと強い動物の方がいいか?」
「逆よ、逆!シマロバなんてまだ倒せるわけないじゃない。」
「そうなのか、鹿牛ならいけるのか?」
「鹿牛は相当苦戦するわ。…というか死にかけることもあるわ。」
マジか…
「それでも見てみないと指導もできない。鹿牛を探しに行くぞ。」
「わかったわよ…危なくなったら助けてね。」
「即死さえしなければどうにでもなるさ。」
「怖いこと言わないでよ…でもお願いね。」
いつもの勢いがないな。それほど怖いのだろう。
しばらく歩くといつも通り草を食んでいる鹿牛を発見した。
「いたいた。それじゃ始めてくれ。」
「わかったわ、骨は拾ってよね。」
本当に弱気だな。鹿牛ってそんなに強かったのか?
「大丈夫だ、任せておけ。」
ラナは剣を構えながら鹿牛に近づいていく。そして剣を振り上げ…
「やあっ!」
首に剣を振り下ろした。しかし骨で止まったらしく、傷は浅いようだ。
鹿牛はこちらの番とばかりに方向転換し、後ろ足で蹴りを放つ。
ラナは避けられず直撃をもらい、軽く吹っ飛んだ。
あの程度なら死にはしないだろう。
鹿牛の様子を見るとラナから距離をとり、草を食べ始めた。
食欲旺盛すぎるだろう…と、首の傷が見る間に治っていく。
俺は即死させてたから気づかなかったがこういう仕組みなのか。
ラナの方は…なんとか立ち上がり、
また鹿牛に近づいていく。そして剣を振り上げ…
「やあっ!」
首に剣を振り下ろした。しかし骨で止まったらしく、傷は浅いようだ。
既視感ってレベルじゃないぞ!
鹿牛はこちらの番とばかりに方向転換し、後ろ足で蹴りを放つ。
ラナは避けられず直撃をもらい、軽く吹っ飛んだ。
あの程度なら死にはしないだろう。別の意味で心配にはなるが。
…その後3回ほど同じことを繰り返したのでついにストップをかけた。
「待った待った。その調子で本当に倒せるのか?
ラナだけが疲弊していってるように見えるんだが。」
「たまに一発で首を落とせるのよ。運がよければ最初で倒せてるわ。」
事も無げに返された。まさか運任せとは…
とりあえずは思いついたことをアドバイスしてみる。
「他の場所を攻撃することは考えないのか?
草を食べるのをやめさせるために口元を斬り落とすとか。
機動力と攻撃力を奪うために脚を傷つけるとか。
あるいは首じゃなくて心臓を突くとか。」
それを聞いたラナは心底嫌そうな顔をしている。
「そんなまだるっこしいことしてられないわよ…
うまくいけば一発で倒せるならそれが一番いいでしょ?」
「確率がそれなりに高いならそれでもいいだろうが…
結果的に時間がかかってるなら見直した方がいいだろう。」
「わかったわよ…じゃあ口元からね。」
先ほどまでの戦いなどなかったとばかりに草を食んでいる鹿牛に近づいていき、
その口をめがけて剣を振り下ろす。狙い通りにいったようだ。
しかし絶命はしていないので先ほどまでと同じように反撃してくる。
それを先ほどまでと同じように避けきれずにくらって軽く吹っ飛ぶ。
鹿牛はラナから距離を取って草を食べ始めるがうまく食べられないらしく
傷の治りが遅い。しかし部位が欠損した場合は再生するのか…雑魚なのに。
起き上がったラナが鹿牛に近づくと鹿牛は再びラナから距離を取る。
ラナの足では追いつけないので、やがて鹿牛の損傷は完全に癒えてしまった。
渋々従ったのに倒せなかったので腹が立ったのかラナがこちらを睨みつけている。
「言った通りにしたけど倒せないじゃない!」
こりゃ完全に俺が悪いな。素直に謝ろう。
「すまん、これは俺の見当違いだった。
完治するまでは距離を取ることを優先させるんだな。」
「まぁ私も初めて知ったけど…」
「気を落とさず次の方法を試してみよう。きっとうまくいくさ。」
「だといいけど…」
すっかり信用を失ってるな。それも仕方ないか。
ラナは再び鹿牛に近づき、後脚に狙いを定めた。今度はうまくいくといいが…
「やあっ!」
気合いと共に剣を振り下ろし、後脚を2本とも切断することに成功した。
後脚を失って反撃することができない鹿牛は前脚のみで逃げようとするが
速度が出るわけもなく、追撃を受けて絶命した。
「おお、うまくいったな!」
「思ったよりあっけなかったわね!」
うまくいったことが嬉しかったのか、その表情は明るい。
「水を差すようで悪いがたまたまだったのかもしれない。
もう一度同じ方法を試してみよう。」
「そうね…首の時のような糠喜びはごめんだわ。」
首も初回でうまくいってたのか。それじゃ固執するのもわからんでもないな。
その後鹿牛を見つけたので同じように攻撃したところ、うまくいった。
2回連続で成功したなら首よりうまくいく確率は高いだろう…たぶん。
「これなら効率良く倒せるわね!
…でも最近いくら動物を倒しても強くなってる実感がないのよ。」
明るかったラナの表情がいつの間にか暗くなっていた。