9.魔袋
まずこの世界の普通がわからないからな…
少しずつ聞いていくしかないか。
「普通はもっと目に見えて強くなるはずなのか?」
「効率は悪かったかもしれないけど倒せてはいたんだからその分の魔子が増えて
同じ相手にずっと苦戦することなんてないはずなのよ…
倒せない相手にずっと挑んでたんだったらわかるんだけど。
同じくらいの時期に冒険者になった人達はシマロバも倒せるわ。」
あれだけ効率が悪かったら他との差があっても不思議じゃない気もするが…
「成長の限界が来たとか?」
「人は戦い続ける限り成長するはずよ。そんな例は聞いたことがないわ。」
仮にラナを解析してみても他と比べられなければ
俺には違いがわからないだろうしどうしたものか。
「組合の人に相談してみたけど考えられるのはそもそも魔子が増えていないか
増えた魔子が体に馴染んでいないかのどちらかだろうって。
どちらにしろ原因は見当がつかないって言ってたけど。」
「うーん、調べてみないと何とも言えないな…
少し冒険者の体を調べたいんだが協力してくれそうな人はいないか?」
「この町の冒険者にロクなのはいないわ。
どいつもこいつも成長が遅い私を見下してたもの。
地竜の縄張りで素振りをしてたのは他の冒険者に見られたくなかったからよ。
体を動かしていれば魔子が馴染んでくれるかもしれなかったし。」
ただの変わり者かと思ってたがそういう事情があったのか。
「じゃあ心当たりはないのか?」
「ゴンザナシさんとその相方のマトンさんはそんなことしなかったから
きっといい人なんだわ。協力してくれるかも。」
ゴンザナシ…冒険者組合の受付で俺の指を斬り付けたあいつか。
まぁ被害はなかったし受付の労力を減らそうとしてのことだったしな。
「じゃあその2人に頼んでみてくれ。」
「でもまさか私みたいな目に遭うんじゃないでしょうね!?
あんなことをするなら誰にも頼めないわよ?」
「あれは完全に俺の趣味だからな。手を握るだけでいい。1秒もあれば充分だ。」
「それなら大丈夫そうね。時間が空いてるといいけど。」
「なら今日はここまでにしようか。
動物を倒しても強くならないんじゃその原因を取り除く方が優先だ。」
「鹿牛が楽に倒せるようになっただけでも収穫だと思うことにするわ。
それじゃあ私は組合に戻って2人に頼んでくるわね。」
「ああ、頼んだ。」
その後、特にやることもないので町に戻り酒場で時間を潰す。
夜の帳が下りてきた頃、ラナが酒場に入ってきた。
「あー、お腹減った!おっちゃん、いつもの!」
「あいよっ!」
明るい表情でラナが話し始める。
「2人に話してきたわ。協力してくれるって!」
「おお、よかった。時間と場所は?」
「明日の朝9時に町の南門を出た所で待っててくれるって。」
「そうか、遅れないようにしないとな。」
これでどうにかなるといいが…
どうにもならなかったらアカネに権現でもしてもらうか。
翌朝、目を覚ましたラナが呟く。
「あんな恥辱を毎日味わわなきゃいけないなんて…」
今朝も満面の笑みを浮かべながら挨拶する。
「おはよう、いい朝だな!」
「こっちは全然いい朝じゃないんだけど。もういいわ…」
昨日の失敗を反省したのか夜は着衣の状態だったし、
今朝は具が見える蹴りも放ってこなかった。少し残念だ。
時間に余裕もあるし、朝飯を食べてから待ち合わせの場所に向かうことにする。
しかしこの世界の人達は本当に野菜を食わないんだろうか。
ラナに聞いた話だと食事でも少しは魔子が増えるらしいので、
野菜の魔子含有量が低いとか何か理由があるのかもしれない。
そんなことを考えながら朝食を済ませ、
町の南口を出るとすぐ右にゴンザナシとおそらくはマトンがいた。
マトン…?角こそないがロングヘアで豹柄のビキニ、ブーツを着用している。
危ねぇ!ギリギリの線をついてきやがる!語尾が【だっちゃ】でないことを祈る。
しかし現実で見ると凄い格好だな。防御力は大丈夫なのだろうか。
「おはようございます!ゴンザナシさん、マトンさん、
今日は時間を取っていただいてありがとうございます。」
俺の時は敬語のけの字もないラナが丁寧な挨拶をした。
「おはよう、ラナちゃん。すぐ済むって言ってたしこれくらいは問題ないさ。」
「おはよー、ラナちゃんー。悩みが解決するといいねー。」
「はじめまして…ではないが俺の名前はポノだ。
よろしく。協力してくれて感謝するよ。」
「おっ、あんたは受付で血を出すのに手間取ってた…
あの時はすまなかったな、あそこで時間がかかる人が結構多くて
アマンダさんがぼやいてたことがあったからつい…」
「あー、あの時のおじさんかー。よろしくねー。」
「いや、時間をかけてた俺も悪いさ。気にしないでくれ。」
「そう言ってくれると助かるよ。で、俺達は何をすればいいんだ?」
「そうだな、みんなで輪になって隣と手をつないでくれ。
肌に直接触れていれば手でなくてもいいんだが手が一番楽だろう。」
「それだけでいいのか?それじゃマトンが俺とラナちゃんと手をつなごう。
ポノさんも俺とラナちゃんと。これでいいか?」
「ああ、バッチリだ。それじゃ始めるぞ。」
ラナ、ゴンザナシ、マトンの体を解析し、把握する。原因らしきものは…これか。
「わかった。協力感謝する。」
「もういいのか?ラナちゃんの悩みは解決しそうか?」
「おそらく原因は魔子が溜めてある器官から体へ供給される部分に
蓋のようなものがあるからだ。
これを取り除けば他の人と変わらない成長速度になると思う。」
「魔袋に蓋がー?そんなことがあるんだー?」
この器官は魔袋というのか。
「ああ、ただ…今まで供給されていなかった魔子が急に供給されるから
体に負担がかかるだろうし馴染むまでに時間がかかるかもしれない。」
「それが本当なら確かに考えられるな。」
ゴンザナシは納得した様子で頷いた。
「それと体が強化されるから今まで通りの感覚で動くと多分危ない。
全ての動作をゆっくり行うつもりで動くようにな。ラナ、こっちに来てくれ。
ゴンザナシとマトンは少し離れていた方がいいかもしれん。」
「わかったわ。」
「わかった。」
「わかったー。」
ラナの胸に手を当て、魔袋の蓋を取り除くとラナが慌て始めた。
「何これ!体が熱いわ!」
慌ててはいるが苦しそうではないな。よかったよかった。
「そのまましばらくじっとしているといい。
もし動くならさっき言った通りゆっくりな。」
魔子が馴染むまではどれくらいかかるんだろうな。早めに終わるといいが…




