22.増える住人
化け物は、スーッと普通の人間の女性の姿になりました。
「お、大家さん、ご、ごめんなさいね。癖で、どうしても」
姉御は、ふんっと鼻を鳴らしながら玄関へ向かい、ボスねずみの殻を引きずって戻ってきました。
「ここで保管してくれ」
「え、ちょ、何なのかしら、これは」
「部屋が殺風景だから丁度いいだろ。着てもいいから」
「え? 着る?」
戸惑いながら粗大ごみをつつく姿は、普通の女性に見えました。地味ですが、綺麗な顔立ちと、ほっそりとした体つき、弱弱しい声は、男前姉御とは真逆の女性らしい雰囲気を醸し出しています。何度か押し問答した末に、か弱さにつけこんだ姉御は、ごり押しで粗大ごみの遺棄に成功したようです。
か弱い美人に同情しつつ、先程の血みどろ怨霊でちびった大福ねずみは、声を掛ける気にはなれませんでした。むしろ、姉御のシャツが白なので、ちびった部分が確実にシミになるという恐怖で頭がいっぱいでした。
「やはり、あなたでしたか。どうもお久しぶりです」
粗大ごみを部屋の隅に押しやっている美人に、東村が話しかけました。美人は東村を見て首を傾げましたが、突然目を見開くと同時に、頭から顔へ、何筋も血が伝いだしました。
「ごらぁぁぁぁ」
姉御が再び、恫喝しました。
「ご、ご、ごめんなさいね。だって、因縁の霊能者だったから、びっくりして怨霊にシフトしちゃったみたい」
怨霊と聞いて、さっきの登場シーンを思い出した大福ねずみはビビリました。姉御の肩をグッと持つと、それに気付いた姉御が口を開きます。
「別に怖がらなくて大丈夫だ。えーと、名前は恨みが強かった頃に忘れたらしいから、怨霊のりょうちゃんと呼んでいる。りょうちゃん、こいつは、前世で人間の男だったときに、大勢の女に酷いことをした罰でネズミになった大福ねずみだ」
「……よ、よろしく~」
自分でも忘れていた過去を、一番ばらされたらまずいモノにばらされました。男に酷いことをされて怨霊になったりょうちゃんに、大勢の女に酷いことをしたとリークされた大福ねずみは、姉御に命を狙われているのではないかと様子を伺いましたが、姉御は平常運転でした。むしろ、仲良くしろよ、と親切に仲を取り持って満足した感じです。
昔いじめられっこだったけど、大きくなって超能力をマスターすることに成功したりょうちゃんに、こいつ昔いじめっこだったネズミだけど、仲良くしてやってな、と紹介したようなもんでした。お互いに、第一印象が最悪です。八割方、姉御のせいでした。
「よ、よろしくね」
りょうちゃんも、ただただ挨拶するしかありませんでした。
「しかし、驚きましたよ。なぜあなたがここにいるのです。しかも、普通の人間の姿を保っている……」
東村は、眉間に皺を寄せて、本当に怪訝そうにしています。
「私を祓った霊能者には、秘密です」
りょうちゃんは、プイッと横を向きました。拒絶された東村は、参ったな、と少し決まり悪そうに頭を掻きました。
「んじゃ、帰るか。邪魔したなー、また来る」
一番邪魔な物を残したまま、姉御は外に出ました。りょうちゃんに拒絶された東村は、速攻持ち直したようで、なぜか楽しそうに微笑んでいます。
「あー、疲れたから甘い物食いたいな……東村、たい焼き買ってきてくれ。内臓はクリームで」
姉御は突然、命令しました。
「いいですけど。その変わり、私もこのアパートに住んでいいですか?」
東村は、交換条件を出しました。
「いーよ」
姉御は気軽に条件を飲みました。
「ちょっと~~~~いーよじゃないよ。軽い、ノリが軽すぎる。二人とも、そんな簡単に……」
大福ねずみはまともなことを言いましたが、姉御と東村はピンとこないようだったので、諦めました。
その夜、姉御が寝静まると、大福ねずみは部屋の隅でごそごそし始めました。姉御のシャツの肩に出来た黄色い失禁染みに目と口を描いて、スマイルマークなアートを完成させて誤魔化す作戦です。
翌日バレて、普通に怒られましたが、洗濯機に向かう姉御は爆笑していました。




