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第87章 絶対美少女と一緒に写真を撮る話

友部は男子との100メートル競走の対決には敗れますが、女子の県の記録を破る走りを見せました。次はバスケットボールで男子と競います。

 昼休み、体育館は黒山の人だかりだった。友部がバスケットボールを構えるとしんと静まり返る。今日はツインテールに髪を縛っている。ちゃんとバスケットボール部のユニフォームを着ているのは後台先輩の妹が某中学校のバスケ部だからだ。「いったい何人、妹がいるんです?」と感心したら、もう一人いて、全員一つ違いだというから驚きだ。

 赤のランニングに赤の短パン、昨日と言い、今日と言い、なんて赤のユニフォームが好きな学校なんだ。しかも昨日のブルマに負けないぐらい、短い短パンだ。足の付け根から見えるくらいだ、この露出度の高さ、絶対、先生の趣味だろう。上はノースリーブのタンクトップで、へそは見えないので、昨日ほどではないにしろ、この美しいプロポーションは観客を魅了していることだろう。しかし、今、観客を魅了しているのはその美しさだけではなかった。

 観客が息をのんで見守る中、友部は少しかがんでゴールをねらう。しなやかな腕が美しい。真剣な顔の友部の美しさはあいかわらず完璧だ。

 ボールが手を離れる。きれいな曲線を描いてボールはゴールに吸い込まれた。

 歓声がわきあがる。

「ゴ――ル」

 後台アナウンサーが声を張り上げる。

「すばらしい。ノーミスで四〇本連続ゴールです。我らが友部透子も、一歩も譲りません」

 友部が歓声にこたえて手を上げる。高浜信也先輩も拍手している。彼が今日の対決の相手、一九〇センチ近い男子バスケ部のエースだ。彼もここまで連続四〇本、フリースローを決めている。フリースローの名手らしいが、こんなに大勢の見ている前でプレッシャーと戦いながら、なおかつノーミスというのは、確かにただものじゃない。

「残念ですけど、昼休みの時間がなくなるので、今日はここまでで、結果は引き分けとしまーす。時間がないので大至急、友部さん、ひとことお願いします」

「緊張しましたが、ノーミスでできてうれしいです。ありがとうございました」

「高浜君もひとことどうぞ」

「こんなに応援してもらえて、最高でした。うちは弱いので、こんなに大観衆に見てもらえたのはじめてです。友部さんはすごいと思います。おかげ様で、俺も、ベストパフォーマンスができたと思います。ありがとうございました」

 高浜先輩は友部と握手した。友部も笑顔で握手した。でも、満面の笑顔ではなかった。これだけのパフォーマンスをしながら、なお勝てないことが悔しかったのだろうか。昨日の言葉が頭で鳴った。「届かないってこと思い知らせてくれたんだなって……」

 俺を含めた生徒会メンバーが彼女を包む。

「すごいよ。友部」

「すごすぎる。さすが絶対美少女」

 胸の中に悔しさが残っているらしく、友部は少し曖昧にみんなに笑顔を向ける。

 内原先輩が泣きながら、友部に抱き付く。

「透子ぉー……すごすぎます! 三五本目くらいから涙が止まりませんでしたわ」

 ぎゅうぎゅうに抱きしめている。友部が少し笑う。

 俺は、何と言っていいかわからずに、友部のツインテールの後れ毛を見つめていた。この天才も、一人の人間なのだなあと、改めて思う。昔、俺たちに、残酷なくらい厳しかったのは、彼女自身の心に不満があって、それでも完璧を演じようとした反動なのかもしれないと思ったりする。これほどのパフォーマンスが出来る完璧な美少女であっても、人はそれだけでは、必ずしも、しあわせにはなれないのだろうか。小尾先輩の言っていた通りだ。彼女だけが自分の美しさを見られない。彼女にも、望んで届かないものがある。

 でも、だからこそ、彼女は魅力的なのかもしれない。届かなくても、悲しくても、なおまっすぐに前を見つめる、あの瞳が。そう、いつも感じていた。真剣な目で俺をにらむ友部が、一番、美しいと。

 友部も大泣きしている内原先輩をやさしく抱きしめた。

「ありがとうございます。まあ、上出来かな。私にしては」

 明るい笑顔が戻ったので、俺は、ほっとする。

 みんなで入口に歩き出したとき、体育館の入り口で、友部はバスシューを脱ぎながら、俺の腕につかまって体を寄せるので、俺はドキドキした。

「ジラのお望み通り、今日も勝てなかったわ」

 耳元でささやく。汗のにおいと体温が人間としての友部を感じさせて、ドキドキが止まらない。

「でも、次は負けない。ジラのみなみんに勝って見せるわ」

「私も負けないよ」

 不意に、目の前に酒出が立っていた。手にカメラを持っている。

「次の勝負には私が勝つわ。そして、オーディションにも勝って、透子の言うとおり『ジラのみなみん』になってみせる……なんてね……あはは」

 酒出の笑顔がまぶしい。「太陽のように輝く」と、いつか小尾先輩が言っていた。あれ、いつの間にかまた背が伸びている? と思う。毎日、教室で、何となく会っているのに気がつかなかった。俺と同じくらいか。

「嘘だよ。ああ、この人には勝てないって思っちゃった。透子、かっこよかったよ。ほんと絶対美少女ね。……あのね、一緒に写真撮ってもらっていい? バスケットのユニフォーム姿がすてきなんだもの」

 差し出されたカメラを構えて、二人のツーショット写真をとる。いずれ劣らぬ美少女達が、笑顔でⅤサインをしている。この写真、俺も欲しいかも。

「ジラと透子もとってあげる。並んで」

 俺は友部と顔を見合わせる。俺はうれしいけど、友部はいいのか? 一瞬、ためらうが、催促される。

「急いで、並んで。時間ないから」

 言われるままに並ぶ。酒出がカメラを構える。

「ジラ、透子の肩に手をまわして」

 え、そんなことしていいのか? ふいに、誰かが、ためらう俺の手をとって友部の肩にのせた。振り返ると後台先輩だ。俺は友部のきゃしゃな肩にそっと手を置く。少し汗ばんだ、なめらかな肌だった。

「はい、にっこりして」

 撮った写真を見せてくれる。みんなでのぞきこむ。わっと歓声が上がる。たぶん、友部の美しさに。

 よかった。友部は満面の笑顔だった。

「急いで着替えなくちゃ」

 友部が更衣室に駆け込む。

 俺は生徒会のメンバーと一緒に外で待っていた。予鈴が鳴った。

 俺はうれしかった。後台先輩に手をとられて、肩に手をまわして友部の素肌に触れて写真をとったことが。友部は嫌がらなかった。俺は、その時、何となく、みんなの一員になれたような気分だった。

 俺は那加の奴隷として、会長になり、副会長の友部とも近しくなった。生徒会の仲間はいい人ばかりで、何をやるにも和気藹々とできていた。友部や先輩たちといろいろやるのは、とても楽しかったが、俺の中には、ずっと、これは本物の俺じゃないというわだかまりがあった。本当の俺は、友部のような超一流の人間には口もきいてもらえないような三流男子だという後ろめたさが、いつも、つきまとっていた。だが、その時の俺は、本物の俺が、みんなの友達として、対等な存在として、みんなの輪の一部になれたような、そんなワクワクした気持ちだった。

「ね、ジラ、写真撮ってよ」

 また、酒出がカメラを差し出す。見ると、どこから連れてきたのか、青柳が恥ずかしそうに笑っている。

「撮るよ」

 カメラを構える。

「握手しようよ。ライバル同士」

 酒出につられて青柳も笑顔になる。カメラを構える。手は握手して右手はこぶしをぶつけている。

 青柳がとてもうれしそうだ。酒出の明るさにつられたのかもしれない。なんて素敵な笑顔だろうと思いながらシャッターを押す。まったく、この二人の美しさもとびきりだ。この写真も、俺、欲しいんですけど。だめですか?

 友部が更衣室から出てきた。

 チャイムが鳴り始めた。

「ダメだあ、急げ」

 みんな駆け出す。俺は、みんなにまじって走りながら、この瞬間をすてきだと思った。しあわせだと思った。みんなが大好きだと思った。大好きなみんなと、こうして走っていることがうれしかった。

 気がつくと、一番後ろにいたのは那加だった。結構、真剣に走っている。神のように完璧なご主人様も、こういう場面では、慌てて走ったりするんですね。やっぱり神様でなく、一人の人間なんだ、なんて思ったりする。

「尊敬するご主人様。あなたが神様でなくてよかったです」

 俺は心の中で言った。


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