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第67章 二回目の眞知とのデートの話

文芸部の部誌の制作も終わり、俺はようやく眞知と2度目のデートをすることになった。

 その年の桜は3月末にはもう咲き始めていた。大地市の自慢の、桜の名所である史跡公園は人でいっぱいだった。

 桜の季節に、待ち合わせの場所に、日本でも指折りの桜の名所を選んだのは、失敗だった。

 今度こそ眞知より早く着くつもりで、大急ぎで来たのに、俺は人の渋滞に巻き込まれてしまった。こんなに思うように進めなくては遅刻しかねない。焦りながら、行く人来る人をかき分けて、待ち合わせの場所へ急ぐ。

 結局、間に合うには間に合ったが、時間ぎりぎりになってしまった。

 眞知はもう来ていた。俺を見つけると、満面の笑顔で、手を振る。

 花柄の上品なワンピースに身を包んで白いカーディガンを着ていた。

 まるで光に包まれているように輝いて見える。

「すみません、お待たせしました」

「待っていません。まだ、約束の時間より前ですよ。私、迷子になると困るから、早く来ただけです。無事会えてよかった。ここって、ずいぶん、混んでますね」

「けっこう、県外からも人が来るみたいですよ。大地桜というのは、日本の名桜として有名らしいんで。この公園の奥にあるんだけど……」

 あらためて、俺は、眞知の美しさに見とれる。ストレートのロングヘアがよく似合う。化粧っ気がまったくないのに、というより全くないからこそ、非の打ちどころのない美しさは、奇跡のように思えた。言葉も失って見とれていた俺は、眞知が怪訝そうに首をかしげるのを見て我に返った。

「あ、あの、お昼はまだですよね」

「え、ええ。一緒に食べようって言ってたから」

「よかった。混んでるかもしれないけど、小さなレストランがあるので、予約しておいたんです。こっちです」

「あ、あの」

 行こうとすると、眞知は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「那加が、『ジラと手をつないで歩いたら』って、私のことそそのかすんです。混んでそうだから、はぐれないように手をつないで歩いてもいいですか?」

 胸がドキドキしてきた。これは、那加の俺に対するプレゼントのつもりか?

「もちろん、うれしいです」

 道は混んでいて、手をつないでいたのは正解だったかもしれない。長年、大地市に住んで、桜の季節に来たこともある俺も、こんなに込んでいる公園を見るのは初めてのような気がする。何かイベントでもあるのかもしれない。俺は眞知の手のやわらかく細い指の感触にドキドキしながら、人込みを抜けてレストランを目指した。

 レストランの座席に向かい合いにすわる。すごい混みようで、予約しておいたのは正解だった。奥の角の所にあるいい席だ。窓の向こうに、桜並木が見える。注文を終えて、俺は少し身を乗り出す。

「やっと会えましたね。会いたいって、毎日、思っていたんですけど、いろいろと忙しくて……」

 眞知は、少しはにかむように微笑む。

「知ってますよ。部誌を作っていたんでしょう? 私、実は、那加が持って来たの、読ませてもらってるんです。前の号のジラの作品、読みましたよ。ヒロインがかっこよすぎて、はまりました。なんか、孫悟空か桃太郎みたいな話ですよね。主人公の男の子はドジなのに、美少女たちが助けてくれちゃうなんて」

 おっと、あれを読んだのか、と内心焦る。額田が俺をエロ小説家に仕立て上げた、例の作品だ。実は、那加が、初めてその作品を読んだのは、当然、額田の解釈を聞く前だったのだが、那加にとっては、エロ小説というよりも、ギャグ小説だったらしく、ほんとうに珍しく爆笑していた。後にも先にも那加の爆笑を見たのはあの一度きりだろう。

「ジラ、もしかして、これ、あなたの願望なの? 私とあなたの立場を逆転させたような話じゃない」

 もちろん、そんなつもりは、全然なかった。まあ、ラノベの王道で、ドジな主人公が、美少女に囲まれる話を書いたつもりだった。主人公が目的を達するために、美少女たちをおともに、冒険する話だ。主人公は、ドジで、しょっちゅう美少女たちに愛想をつかされそうになるのだが、美少女たちは主人公にかけられたペンダントをはずすことが出来ず、主人公の命令を聞く羽目になる……という話だ。

「あなたも美少女の奴隷がほしいの? 私が美少女だったらね、なってあげてもいいんだけど……あいにく、私みたいな不細工じゃ、奴隷にしてもしょうがないわね」

 と那加が言うので、

「いや、ほんとうに、これは昔から考えていたストーリーで、那加のことなんか考えて書いたわけではありませんから」

 まったく、正直にその通りだったのだが、那加はそれでも笑っていた。まあ、俺がうそを言ってないことはわかっていて、冗談のつもりだったのだろうが、小説の出来とは無関係のところだとはいえ、気に入ってくれたのは少しうれしかった。そんなことを思い出していると、眞知が言った

「ヒロインがかっこよくてかわいいです。でも、額田さんが実はエロ小説だっていうことを暴露しちゃったという話ですね」

「そんなことも知ってるんですか? 俺はそんなつもりまったくなかったんですけど、額田さんが、勝手な解釈を加えたんですよ」

「面白いですね。その話を聞いて、わたし、もう一回、読んじゃいました。確かに、主人公の持っているガラスの羽根をなでるとペンダントから電流が走って、美少女たちがのたうち回るっていうシーンは、考えようによっては、相当エッチですよね」

「え、そうですか?」

「たぶん……そう思って読めば……ですけど。ガラスの羽根をなでるっていう発想はどこから出てるんですか?」

「どこからって言われても、適当に……きれいかと思って」

「ジラは、全く考えてないと思いますけど、ガラスの羽根って女の子のあそこの象徴かって思えないこともないですよね」

「え?」

 全く考えもしなかったぞ。似てるのか?

「ふふふ、ジラの無意識が、いつの間にか、作り出したものかもしれませんよ。だって、アイラが主人公のことを見捨てようとすると、主人公が、ガラスの羽根をきゅっきゅっとなでて、アイラの体に電流が走って、はあはあ言いながら『わかったわ、もうやめて』なんて言うんですもの。そういうふうに解釈して読めば、すごくエッチでしょ。私、ちょっとドキドキしちゃいました。作者の意図じゃなくても、結果的にはかなりエッチな作品になっているかも、ですよ……あ、いけない」

 眞知は両手で口をふさいだ。目を丸くして、少し慌てた感じだ。なんてかわいいんだろうと思う

「え?」

「私、今日こそ、おしとやかにしていようと思っていたのに……つい、エッチな話なんかしちゃった。この前は、うんこの話ばっかりしてたし、もう、私ったら、せっかくジラと二人きりなのに、下ネタの話ばっかりしてて、いやになります。なんだか、ジラには何でも話せるような気がしちゃって……あきれたでしょう。すみません。」


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