第65章ちょっとだけ文芸部の話2
那加の秘密を知りたくて、早く眞知に会いたいと思った俺だが、別の予定が入っていた。
なるべく早く眞知に会いたいと思いながら、すぐに会うことは出来なかった。文芸部の部誌の制作に追われたからだ。年度内に新入生歓迎号を作ろうということになっていた。今回は、那加の言う『美少女紙芝居』を作ることになったので忙しかった。
『美少女紙芝居』というのは、那加が考えたアイディアを俺から提案したもので、文芸部の二人の美少女、小尾先輩と額田が、大地市内の観光名所で、美しい背景をバックに、ストーリーに合わせたポーズで写真を撮って、それに文章をつけて載せようというものだった。
以前、文芸部の集まりで、4人そろって次の部誌のことを話し合っていた時、「俺の考えでは……」と言って、このアイディアを提案したのだが、そのとたん、額田に見破られた。
「ジラ、それって、考えたのは那加様っすね」
「え? どうして? 相談はしたけど」
「とぼけたって、だめっすよ。今、ヴィーナス様とわっしの二人の美少女が、って言ったよね。わっしが美少女であることを、ジラが見破れるはずはないっす。このアイディアを考えたのは、那加様に違いないっす」
「はあ、ということは、額田さんは、やっぱり、自分が美少女であることを知ってるんですね」
「ブスっすよ。こんな髪がぼさぼさでひげの濃い美少女なんてどこにいるっすか?」
「つまり、きちんと美容院に行けば、美少女になるんですね」
「ヴィーナス様のような美少女にはなれないっすが、エロっぽい、ちんけな美少女にはなれるっす」
「もしかすると、それを隠してるんですか」
「そう。わっしはこの企画には反対っす。わっしが美少女であることを、みんなにばらしたくないっす」
「えーと、ばれちゃ困るんですか? 女の子たちはみんな美少女になりたいのかと思ってました」
「わっしみたいな淫乱女が、美少女だとろくなことにならんす」
「そうなんですか」
「那加様もヴィーナス様も淫乱女を知らんでしょうから、淫乱女のリアルを、特別、ここで教えちゃうっす。言っときますけど、ここから18禁っすからね。先輩や那加様みたいな純真な乙女に聞かせるには早すぎますけど、将来の創作活動にはきっと役に立つっす」
「聞かせて」とヴィーナス先輩が身を乗り出す。「私、エッチな話、大好きなの、知ってるくせに」
「ジラには刺激が強すぎると思うけど、まあ、いいっす。男は、すました顔していても、淫乱女が大好きすからね。那加様もいいですか?」
「もちろんよ。とても興味があるわ」
「実は、わっしの下半身にはおしっこの穴とうんこの穴の真ん中に象が住んでるっす」
「象ですか。あの鼻の長い?」
「そうっす。そして、イケメンを見たり、美少女を見たりすると、それだけでパオーンと鳴くっす。それだけでなく、なんか、もぞもぞ、動き出すっす……下手すると、よだれ垂らしたりするです」
「かわいいね」と那加が言う。「その象さん、顔しか見ないの?」
「象が見るのは、まずは顔っす。でも、それだけでもないっすよ。体つきも見るっす。美少女だったら、胸のふくらみとか長い足も大好きっす。でも、他に見るのは、それくらいっす。性格なんかはあまり気にしないっす。性格の方は、わっしの頭の中に蟻がいて、そいつが腕組みをしながら見るっす」
「今度は蟻なの?」
「蟻は、働き者で、小さい脳みそで、一応、いろいろ、一生懸命、考えるっす。象のやつがイケメンを見つけて、暴れたくて口をぱくぱくしているのを、なだめるっす。『やめとけ、どうせあいつなんかろくなやつじゃない。おまえ、額田河合に飼われてるんだから、河合にとって大切なのは何かを考えろ』って言うんすよ。だけど、象のやつはなかなか言うことを聞かないで、暴れたくてしょうがないっす。……だから、あっしはブスでなくちゃいけないんすよ。もし、あっしが美少女だったら、顔につられて、淫乱男が寄ってくるっす。だいたい、ジラみたいな不細工なのは引っ込み思案だから、来ないんすよ。で、イケメンのチャラ男が、寄ってくるっす。するとあっしの象も、すぐ顔につられて、大喜びで興奮して暴れ出すんす。蟻は『だめだよ、そんなやつにパオパオするなよ。愛情なんてひとかけらもなくて、体だけが目当てなんだよ』って小さい声で言うんですけど、象は暴れ出すとまらなくてパオーンパオーンて喜んで、そいつに抱きついちゃうんだな。でも、パオパオ喜んでるのは一瞬だけで、すぐ捨てられるんだな。だって、顔しか見てない男と、顔しか見てない象が、長続きするわけないす。象は悲しくて涙を流すんだな。すると、次の淫乱男が、わっしの淫乱さにつけ込もうと寄って来るんだな。と、馬鹿な象がまたすぐにパオーンと鳴いて、大暴れして抱きついて、そして、また捨てられて泣くんすよ。どこかにぶっ飛ばされていた蟻が、そのたびに『だからね、もうちょっと考えなくちゃ』なんて慰めるんすが、次の男が来ると、また、象のやつ、パオパオって鳴きだして、もうきりがないす」
「河合……さん」と、俺がおずおず口を出す。「言いたいことは、だいたいわかるんだけど、それって、実体験なんですか?」
「もちろん、想像っす。わっしだって、まだ16だから。でも、世の中にいくらでも実例は転がってるっす。だから、わかるんす。だって、現実に、象と蟻を飼ってるのはこのわっしですから。今だって、半径30センチ以内に美少女やイケメンが来ると、もう、象がいきなり飛びついてしまうんじゃないかって、蟻はひやひやしてるっす。わっしが美少女になったら、必ず、そうなるってわかるっす。だから、わっしは、美少女になりたくないっす」
「俺、ずっと、美少女って得だな、と思ってきたんですけどね……」
「わっしが、男だったらよかったのかも、って思う時もあるっす。男には、淫乱さは時々、勲章っすよね。わっしが男だっら、経験した女の数を、自分のプライドに出来たかも知れないっす。そしたら、イケメンも誇りになるっす。でも、わっしは女がいいす。言っときますが、わっしは自分の淫乱さを嫌いではないっす。わっしは、象がとってもかわいいっす。わっしは女として、蟻もかわいいっす。どっちも大事っす。だから、わっしは『ほんとは美少女』のブスを目指してるんす。そして、ジラみたいに、どうしようもなく、もてないやつを最後に相手にしてやるっす。ジラみたいな不細工おたくは、今は、まだヴィーナス様や那加様のような美少女と結ばれるなんてことを夢見てるかもしれないけど、だんだん卒業する頃には『俺みたいなのを相手にしてくれるのは額田みたいなブスしかいないよな』って悟るんす。そこへ、わっしが『恋人になってもいいよ』と言ってやったら、泣いて喜ぶっす。だって、オスの生きる意味って、メスとセックスすることだけなんすから、わっしのおかげでジラも価値のある人間になれるんすよ。ジラはわっしの淫乱さに感謝して、わっしをを救世主として、もう、崇拝するっす。それが理想っす。そうなれば、ジラも、あっしの象も蟻もみんな、満足するっす。だから、わっしは、今は、美少女にはならないっす」
ちょっと待てよ。俺がブサ男の代表か。まあ、否定できませんが。しかし、俺みたいなのを最後に捕まえるには、ブスがいいというのは、正直、わかるようなわからないような不思議な話だ。
「ねえ、河合」と、那加が言う。「もし、最後はジラでもいいんだったら、ジラには美少女の素顔を見せてもいいんじゃない?」
「まあ、そうすけど、他の人には見せたくないす」
「大丈夫よ。河合のブス化粧、完璧だから、美少女になっても、写真を見ただけじゃ、誰にも河合だってこと気づかれないと思うよ。3月は入試とかで休みが多いから、学校へ来る日はしっかりメークしてブスになって、あとは春休みに、また髪の毛も産毛も伸ばせば、元に戻るから、ばれることはないよ。一度、きれいにセットした美少女になって、写真撮らせてよ」
「美少女という意味では、本当の美少女は那加様です。ヴィーナス様にも負けない美少女だってこと、わっしにはわかるっす。那加様の、素顔を見たいっす」
「悪いけど、それは出来ないよ。でも、そんなに私が美少女だって言うんだったら、河合が美少女になってくれたら、その代わりに、一度、抱きしめてあげるよ。それで、どう?」
「パオーン!」突然、額田が立ち上がり、そして、また座った。「さすがは、那加様です。わっしの弱点を、よく知ってるです。おっぱいの上からと、下の股間の上からおしりに手を回してと、合わせて5分間抱きしめさせてくれるって約束してくだせえ。だったら、那加様の言うとおりします」
「いいわ、5分ね。その代わり、美容院に行って髪と肌の手入れをして、ブスの化粧も一切なしだよ。河合、今、顔にほうれい線に近いものわざと書いてるでしょう。それもなし。良くするのも悪くするのも一切、化粧はなしでね」
「いいっす。約束っす」
「じゃあ、テストが終わったらということで」
というような顛末で、部誌の作成予定が決まっていた。眞知とデートした日曜日の翌週から「ロケ」が始まった。
額田がやってきた時、俺は、最初それが誰かわからなかった。




