第53章 眞知に会うために一番を目指す話
大大地フェスティバルが終わり、那加は「次のテストで一番を取れば、眞知とデートさせてあげる」という。
冬休みに入った。
しかし、生徒は全員学校へ来る。課外という名前の特別授業があるからだ。
大地市は地方都市、つまり田舎なので、塾や予備校はほとんどない。大手の予備校に行こうと思ったら1時間かけて水都市に行くしかない。大学受験の勉強をするには極めて不利だ。
だから、大大地高の先生たちは、たくさん課外をしてくれる。そうでもしないと都会の高校に比べて、大大地高生は、進学に不利からだ。そういう意味では、課外というのは、先生方の、大大地高生に対する愛情の一つなのだ。
「怠けものに合わせてレベルの低いことばっかりやっていたら、せっかくの才能を田舎で腐らせてしまうだけだ。もったいないだろう。自分の才能を信じて頑張れ」というようなことをよく言う。
課外はレベル別だが、十分にレベルは高いし、時間も長い。しかも正月の3日しか休まない。おかげで、数は少なくても、有名大学に合格する先輩が、毎年、それなりにいる。田舎に住んでいるために、大大地高にしか通えない優秀な生徒も一定数いるのだ。友部もまあその一人だし、内原先輩もそうらしい。そういう人のためには、課外が、役に立っているに違いない。
先生たちには頭が下がる……と、言うべきなんだろうな……俺みたいな怠け者には、少々、つらいのは事実だが……
毎日、学校へ来るので、俺のご主人様との朝のミーティングも続いている。
「ジラ、ハイレベルのクラスに入ったのね」
「分不相応ですよね。ミドルで希望出したんですが、先生に言われて」
「定期テストで、あんなダントツの成績とってミドルはないでしょう。先生たちも期待してるんじゃない?」
「まいりました。だって、ガリ先生なんか、東大も視野に入れて頑張れ、なんて言うんですから……」
「狙ったらいいよ。透子さんは狙わなくても、あたりまえに入れるレベルだから、その気になれば『東大にでもするか』って、入っちゃうかもよ。ジラも追いかけて入って、透子さんを追いかけてきましたって言えば、恋が芽生えるかも……」
「何を言ってるんですか。俺が東大に入れるわけないじゃないですか」
「いえいえ、もし本気で勉強する気があれば、ジラでも入れるわ。でも、まあ、ぎりぎりかな。あそこは、あまりぎりぎりで入るとこじゃないけどね。何しろ天才がいっぱい集まるから、ぎりぎりの人は、下手すると落ちこぼれちゃう。進振りもあるしね。その次ぐらいの大学にしておいた方がいいかも。それなら、上は切れてるから、そんなに、劣等感、感じないですむわ……」
なんか、夢みたいな話をしているな、としか俺には思えなかった。大大地校からも、東大に入った人はいるらしいけど、もう何年も前の話だ。那加は自分が何でも簡単にできるものだから、つい、人も簡単にできるだろうと思ってしまう癖がある。たぶん、那加にとっては、東大に入るなんて「簡単な」話なんだろうな。
「でも、それだと透子さんの恋人になれないわね」
そっちの方がもっと夢みたいな話だが……
「でも、ジラには、眞知がいるもんね。眞知は、運動神経と成績は透子さんにはかなわないかもしれないけど、美しさという点では負けないわ? 容姿だけでなく、心の美しさもね。……実は、最近、考えてたの。約束だし、そろそろジラを眞知とデートさせてあげてもいいかな、と思ってるんだけど……」
「え? ほんとですか?」
「ただし、今度のテストで、一番を取ったらね。それが条件よ」
「はあぁ……?」
一気に力が抜ける。
那加は俺をからかって遊んでいるのか? 前回、あれだけ頑張って、友部に遠く及ばなかった。友部はあと一点で全教科満点だったのだ。今度こそオール満点を取るかもしれない。俺が勝てるわけがない。結局、那加は俺を眞知とデートさせないですむように、無理難題をおしつけているだけなんじゃないのか?
「もしかして、無理と思ってる?」
「無理に決まってますよ。相手は東大に目をつぶってでも入れる天才ですよ」
「でも、定期テストみたいに、範囲が決まっていれば、勝負になるわ」
「うちのテストじゃ、彼女には勝てないって、この前も言ってたじゃないですか」
「いつものテストならね」
「今回は違うんですか」
「たぶんね。ほら、この前、透子さん、あと一点でパーフェクトだったじゃない?」
「はい」
「だから、先生方は、きっと、いつもより、満点阻止問題をいっぱい入れてくるはず……」
「そんなものですか」
「そんなものよ。先生たち、ああ見えて、っていったら失礼だけど、結構、優秀なのよ。ほんとは、難しい問題を出したいの。だけど、難しいのを出したら誰も解けないから、我慢してやさしいのを出してるの。だけど、透子さんがいれば、難しいのを出しても解ける人がいるわけだから、出せるでしょう? どこまで解けるかためしてみたくて、そうとうなのを出してくるかも。 ジラも、もしかして、試してみたい人の一人に入ってるかもよ、というわけで、今度は絶対に難しくなる。いくら透子さんでも、そうそう満点は取れないと私は読んでいるわけ。それなら、チャンスはあるわ」
「委員長が解けない問題があったとして、それが俺に解けるとは思えませんけど」
「チャンスは国語、数学、それと世界史ね。国語は、そもそも、初見の小説なら、ジラの方に分があるわ。たぶん、文章は、ジラの方がうまいよ。授業でやったことや、どこかに書いてあることを問題に出されたら、透子さんはノーミスで答えるでしょうけど、ゼロから答えをつくる問題なら、ジラにも大いにチャンスはある。世界史もそう。歴史だから教科書や資料集に載っている表面的な事実の裏にはそれを動かす『背景』がある。そういう部分まで先生たちは出したいのに、いつも出せないで来たから、今回は出そうな気がする。そこについては、私が教えてあげるから、うまくはまれば、透子さんを上回れる」
「数学は? 俺、苦手ですよ」
「数学は、さすがの先生たちも、全くオリジナルで、しかも、難しい問題は作れないと思う。ということは、どこかの難関大学の入試問題から問題を取ってきそうだよね。だから、山がかけられる。前の夢テストと同じよ。山が当たればチャンスがあるわ。というわけで1位は不可能じゃないわ。ジラは、これまで、だってたくさん奇跡を起こしてきたじゃない? 今度こそ1位をとって、眞知とデートよ」
「はあ、まあ……ご命令であれば、がんばるだけは、がんばります」
「それと生徒会のほうなんだけど、大大地フェスティバルの収支決算は出たの?」
「最終的にはまだですけど、おおまかには……かなり儲かってますよ」
「文芸部も、部誌が全部売れたしね。額田さんのトークのおかげで、エロ小説作家としてのジラの名声も、高まったんじゃない?」
「そんな名声、いらないんですけど」
「そうぉ? おかげで読者が増えれば最高じゃない」
「増えてないですよ」
「そう? ま、いいわ。今度の号の企画があるんだけど、ジラから提案してよ」
「どういう企画ですか?」
「美少女写真集」
「え? どういう意味ですか?」
「知っての通り文芸部には美少女が二人もいるわよね」
「先輩と額田さんですか?」
那加もマスクをとれば相当な美少女だろうなと思うが、もちろん、そんな気はないだろう。「そう、額田さんは、隠しているつもりかもしれないけど、髪をきちんとして、眉やムダ毛を剃れば、かなりの美少女よ。この二人の写真を載せるの。欲しがる人、多いと思うよ」
「でも、それって部誌としてふさわしいんですか」
「もちろん、ヌードや水着のグラビアってわけじゃないわ。誌上紙芝居という形にするの。ジラが純愛エロ小説を書いて、その挿絵として、二人の写真を載せるのよ。これなら、だれも文句はないでしょう。大地市の各種の名所を舞台に二人のラブストーリーを書いて、美しい背景の前の、美しい二人の写真を載せる。そこへ。ジラの得意技の、一見純愛風、実はよく考えるとエロ小説というストーリーが展開する。すてきだと思うわ。みんな、読みたがると思わない?」
「よくわかりませんが、二人は賛成するかなあ」
「そうね。あの二人の考えていることは、わたしにも読めないから、ためしにジラの考えとして提案してみて。河合がなんと言うか。たぶん、自分がかわいいことを十分に知っていて、自分を、ブスブス言ってるんでしょうから」
「わかりました。次の部活の時、提案してみます」
「よろしく。あと、生徒会のほうは、次の仕事は、生徒会誌の制作ね。これは順調?」
「マラソン大会とフェスティバルで、結構、地元の店ともつながりができているので、広告依頼はうまく行きそうです」
「何しろ、ジラ以外は優秀なスタッフだからね。ジラ、運がいいわ。そっちはみんなにまかせて、ジラは勉強に専念しなさい」
「まかせきりというわけにはいかないと思いますけど、出来る限り、そうします」
「それでいいわ。いよいよ、ジラも眞知とデート出来るわよ」
「頑張ります」
どう考えても、友部を抜くことは無理だとしか思えなかったが、俺はそれ以上何も言わなかった。




