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第38章 新生徒会が発足する話

 数日後、生徒会役員の信任投票が実施され、全員が圧倒的多数で信任され、全員の当選が確定して、新生徒会が発足した。その日の放課後、俺たちは、最初の顔合わせを兼ねたミーティングを生徒会室で開いていた。

 生徒会室は特別棟の3階にある比較的大きな部屋だ。古い印刷機や、コンピューターやポスターも作れる大きなプリンターなどが雑然とおいてある。中央にこれも大きなテーブルがあって、それを囲んで七人の生徒会役員が座っている。

 俺は少し緊張していた。生徒会長としての初仕事だ。これまでの那加の命令は俺一人が苦労すれば、結果はともかく実行できた。しかし、生徒会長になった今、那加の命令を実行するには、ほかの生徒会メンバーを納得させなければならない。俺みたいな三流には、とても高度なミッションだ。まして7人のメンバーのうち4人は生徒会活動をやってきた先輩だ。那加の命令は、おそらく、実行できれば、評価されるのだろうが、ほかのメンバーに納得してもらうには奇想天外すぎるように俺には思えた。でも、とりあえずチャレンジするしかない。

 俺は用意しておいたマラソン大会の計画書を生徒会メンバーに配った。そして、それを見て、生徒会役員たちの顔に驚きが広がるのを見守った。

 みんな半信半疑の様子でお互いに顔を見合わせる。それはそうだよな、と思う。初めて那加にメモを見せられたときは、俺も開いた口がふさがらなかった。計画書はそれを忠実にワープロ打ちしたものだった。

「ちょっと聞いていい?」

 と後台先輩が顔をあげた。派手さはないが、おとなしそうで優しそうな、ほっそりしたきれいな先輩である。前期は書記をやっていて、後期は副会長の予定だったが、友部が副会長に立候補したため後期も書記をやることになった。放送部のエースで、よく学校行事で司会のマイクを握って美しいきれいな声で鮮やかに行事を進めていく、校内でも有名な美少女である。

「この最初に書いてあるコンセプトなんだけど、楽しいマラソン大会にするというのは、まあ、わかるとして、田舎の高校であるメリットを最大限に生かすってどういう意味なの?」


「つまりですね。こういうことです」


 計画書は、那加の書いたメモ書きをそのまま写しただけなので、詳しいことは書いてない。那加に聞いたことを俺なりにまとめて答えるしかない。


「まず、今回のマラソン大会では、出場者全員に豚汁とか、ジュースとか、軽食を用意しようと思っているんです。そこで問題になるのは費用です。あとで話すように予算のやりくりで一定額は出せると思うんです。その額でみんなに喜んでもらえるような食事を提供するために、ここが田舎であることを利用するんです」

「田舎であることがどう関係するの?」

「うちの学校は田舎の地方都市にありますが100年近い歴史を持つ伝統高校ですよね。深くこの地域と結びついて、みんなに親近感を持たれています。そもそも、昔は、みんな、地元の高校にあたりまえのように行ったので、この市内にはうちの学校の出身者がいっぱい住んでます。卒業生でなくても、みんながふるさとの学校だということで親近感を持ってくれています。そもそも、うちの学校の生徒も地元出身者が多いですよね。たしか、後台先輩も市内ですよね」

「そうよ」

 と後台先輩は少し首をかしげた。

「実はうちの父親も母親もこの学校出身なの。確かに母校愛は強いわね。私、水都二高に行こうかな、と思ったりもしたんだけど、大大地に行けっていうんだもの」

「もしかして、友部さんもおうちの方針でここに来たの?」

 と多賀先輩が口を出す。多賀先輩は、前期に引き続き会計の職に就いた。ちょっと小太りで、愛嬌のありそうな、おおらかな感じの女子だ。

「この学校にダントツの一位で入ってきたんでしょ? 一高でもトップとれたんじゃないかって噂を聞いたわよ」

「いえ。そんな。電車で1時間もかけて水都に行かなくてもここで十分と思ったんです。うちは田舎で、ここまででも1時間近くかかるんで……

「なるほど、水都まで通うと、毎日2時間、往復で4時間、いくら何でもきついですね」

 と、口を出したのは内原先輩だ。ポニーテールで、めがねをかけたガリ勉風女子で後輩に対しても敬語を使う。めがねと言っても那加のように顔を隠すわけでなくすっきりしたクリアさががよく似合う美少女だ。

「というわけで」

 と俺は話を戻す。

「うちの学校を愛してくれている地域の人は多いはずなので、きちんとお願いすれば、うちの学校を援助してもらえるという意味なんです」


「で、豚汁-下妻食堂、と書いてあるのは、下妻食堂が豚汁を作ってくれるという意味なんですか?」

「そうです。実は、もう勝手ながら内諾は得てあります」

「手回しがいいな」

とさっきから黙って聞いていた赤塚先輩がぽつんと言う。

「最初、豚汁を自分たちで用意することも考えていたんです。寒いだろうし、何が一番喜ばれるかなって考えたら、豚汁かなって思ったりしたもんだから……だけど、自分たちで用意したら、鍋やコンロを借りるだけでおかなり金がかかりますよね。それで、下妻食堂の豚汁がおいしい、という話を聞いたのを思い出したんです。食堂なら、鍋もコンロも自前で持ってるし、豚汁を作る腕も最高だし、午前中とか三時頃なんて食堂がすいている時間に作ってもらえれば、あとは自分たちで配ればいいんだから、お願いしてみようと思って、昨日、味見をかねて行ってみたんです。とってもおいしかったですよ。それで、とにかく豚汁さえ作ってくれれば食器はすべてこちらで用意するし、よそって提供するのもみんなこちらでやるから安く提供してもらえないか、と話したんです。そしたら、快諾してもらえました。何百食も一度に売れて人件費もかからないとなれば、向こうとしても、相当安くしても、もうけはあるみたいですよ。あと、こちらも、提供は「下妻食堂」と宣伝するから、宣伝費だと思って安くお願いしますとも言いました。マラソン大会で、おなかがすいているときに食べれば、何だっておいしいに決まってるんですから、すごい宣伝効果がありますよね」

「なるほどね」

と赤塚先輩がぽつりと言った。それから少し身を乗り出してあごに手をやった。

「俺は会長のいうとおりやってもいいと思うよ」


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