第37章 マラソン大会の最下位賞の話
生徒会会長になることが決まった俺は、那加にマラソン大会の計画を指示されます。
「あ、それから、大事なことを忘れていた」
「え」
「ジラ、マラソン大会では1位を狙うよ」
「え?」
俺は耳を疑った。
「まさか、俺が1位を狙うんですか?」
「そうよ」
那加は当然というようにうなずく。
「テストだって1位を目指したんだから、マラソンで1位を目指したっていいでしょ。これは命令よ」
「目指すだけならできますが、こればっかりは……俺は才能ゼロなんで、小学校のころからかけっこは、いつもびりですから」
「まあ、その話は、また、あとにして、賞品をどれくらい用意するかを考えておかなくちゃ。一応、生徒会予算の通信費を使おうか。2万あるから、10人なら一人2000円、まあまあ豪華よね。20人なら一人千円、それでもうれしいかもね」
「たしか上位30人はメダルがもらえるんですよね」
「たしかそうね。上位者はメダルで十分ね」
「え、どういう意味ですか?」
「どういう意味って、賞品は、まず下位者に出すのよ下位10名でいいかな」
「えーっ!?」
俺は耳を疑った。
「上位者でなくて下位者に出すんですか? 最下位から10名に賞品をあげるって言うんですか。ほんとに? そんなの聞いたことありませんよ」
「だって、マラソン大会よ。上位者は全校で一番とか二番とか、とにかく素晴らしいアスリートだという栄誉と称賛を得るのよ。とっても幸せよね。それ以上の賞品がある?」
「はあ、そうですか。だから下位者には残念賞ですか?」
「下位者は、元々足が遅かったり、持久力がなかったりで速く走れない人たちよね。もともと運動が苦手なのに、学校の行事だからといって走らされて、必死で頑張っても、笑いものとは言わないけど、最後に同情の拍手を送られてやりきれない思いをする人たちよ。でも、この人たちに走ってもらわらないと、マラソン大会は成立しないのよ。そうでしょ。全員が走ってくれなければ全校で一番とは言えないもの」
「まあ、そうですね」
「普通の市民マラソン大会なら、最初から順位をつけてほしいって思って走りたい人だけが参加するんだから、それで文句はないんだけど、校内マラソン大会は違うわよね。走りたくもないのに走らされて、それで『お前、最下位か、もっと頑張れ』なんて言われるんだから、全然、割に合わないよね」
「まったくそうですね」
それはまさしく俺のことなので異論のありようはずもない。
「だから、下位者には、こんな割に合わない大会なのに、『よく必死で走って上位者の名誉を高めてくださいました、あなたはえらい』という賞賛を込めて賞品を出すのよ。立派なことをした人に賞品を出すのは、ごく自然だと思うけど、違う?」
「はあ・・・・・・」
考えてもみなかったことなので、俺は、まだ、少し半信半疑だった。
「まあ、確かに、そうだと思いますが……でも、そうするとやる気がなくて途中から歩いて、結局、最下位になっちゃったという怠け者に賞品を出すことになりませんか?」
「あげればいいわ。わざと順位を落として商品をもらおうとするものもいるかもしれないけど、そいつにもあげればいいよ」
「はあ……それで、いいんですか」
「賞品の意味をよく理解してもらうように、みんなによく説明しておくの。マラソン大会というのは、足の速さで優劣を決めるために行うのではありません、てね。上位の人の名誉は讃えられるべきですけど、それは下位者の不名誉を意味しないと生徒会は考えますって言うの。それぞれの人が、自分の限られた、持って生まれた能力の中でどれだけ努力できるかということこそがその人の栄誉です。人に比べて、運動が特別に苦手な人、持久力に劣る人が、最下位に近くなることがわかっていてなおかつ参加して、この大会を通じて精一杯努力してくれたことに対して賞品を贈りますって言えばいいの。それで、本当に努力したのに、なおかつ最下位に近かった人が一人でも喜んでくれれば十分よ。わざと怠けて最下位になって商品をもらえて喜んでいる人がいたら、勝手に喜んでなさいって思えばいいの。それでうれしいなら、その人が幸せになってるんだからそれでいいじゃない? それだけ。わかる? 要するに、最下位になりそうってわかっていて、よくぞ参加してくれましたっていう、ごほうびみたいなものよ」
「うーん、俺なんか、まさしくその賞をもらえそうな立場ですけど、何となくそれでいいのかなという感じはありますね。努力したというなら最下位でない人も報われるべきのような気がします」
「下位でない人は、それなりの順位という賞をもらえていると思うけど、努力賞も別に用意しましょう」
「努力賞ですか。どういう人がもらえるんですか」
「これは自己ベストを更新した幅が大きい人にあげる賞よ。2、3年生は去年の順位と比べて大きく伸びた人にあげるの」
「1年生は?」
「実は、そこが悩んでいるところ……体育の時間にマラソンの練習をしてるから、その時のタイムと比べて大きく伸びた人にあげるとか、かなって思ってるんだけど……そこら辺、いい考え、ない?」
「え? 急に言われても、わかりません」
「まあ、もう少し考えるわ。そうそう、さっき言った、ジラが狙うのはこの賞の1位よ。ジラは今の実力は最下位に近いでしょうから、伸びしろは一番じゃないの?」
「まあ、ご命令とあれば、目指すことだけは目指します」
「細かいことは生徒会のメンバーと相談してみて……それから、全員に飲み物と軽食を用意するから、この紙をよく読んで、生徒会のメンバーみんなで用意して」
「全員に?」
俺は紙を受け取りながら聞いた。
「予算はどうするんですか」
「紙に書いてあるわ。うちの学校が田舎の高校であることを最大限に利用するのよ」
「田舎であることを?」
俺は受け取った紙を読む。文字通り開いた口がふさがらなかった。
「え、こんなことやるんですか。こんなマラソン大会ってあるんですか。できるのかなあ」
「やるのよ。。反対されても押し通すのよ。ジラなら、きっと、できるわ」




