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第103章 絶対美少女と食卓を囲む話2

妹が友部を鯨岡家の夕食に招待し、俺は両親と妹とともに友部と一緒に夕食を食べ始めた。

 母親が席を立ったかと思ったら、デザートの果物を台所から運んできた。

「透子さんが、もし、将来、女優になるとしたら、東京に住むんでしょうね」

「え? そう、そうなるかもしれませんね」

「お母さんはこちらにいるんでしょう? 家のことが、ちょっと、心配ですよね」 

「そうですね」

 友部は首をかしげる。

「まじめに、女優って面白そうとは思ってるんです。でも、稼げればいいけど、現実は厳しいですよね。母親と、お世話になった女中頭の袋田さんをおいて、自分一人で勝手もできないし。いろいろ難しいなと思ってます。実は、昔は使用人だった袋田さんが、私たちが給料を払えなくなった後も、そのまま残ってくださって、今は、私たちのために、逆に、外で働いて家計を支えてくれているんです。大学卒業までは頑張るっていってくださるんですけど、もう若くはないので・・・・・・いつまでも、甘えてはいられないし……」

 もと使用人の袋田さんが友部家の稼ぎ頭になっているのか。友部も確かにつらい立場だな。やさしくされればされるほど、甘えてはいけないと思ってしまうんだろうな。友部はたぶん、そういう不器用な人だ。

「透子さま、いい考えがあります。うちの兄を差し上げます。兄が家を守ります。だめ男ですけど、なんとか近くで仕事を見つけるぐらいはできると思います。あの家とお母様と袋田さんを守るくらいの給料は稼ぐと思います。兄にあの広い家をまかせて、透子さまは東京で活躍するんです。兄は、世間的にはだめ男ですけど、忠実さだけは保証します。ひと月かふた月に一度帰ってきてくだされば、きっと忠実に透子さまをお慕い申し上げ続けると思います」

 これほど輝かしい美貌と有り余る才能を持ちながら、家のために、たとえば俺みたいなさえないやつと結婚して、誰にも注目されることなく、こんな田舎に一生を埋もれさせるしかないのかと、そう考えているとしたら、確かにつらいだろうな、などと思いながら、妹の突拍子もない話を聞いていた。

「透子さんの、結婚相手ってどんな人なんでしょうねえ。その気になれば、どんなすてきな人でも、よりどりみどりでしょうね」

「大企業の御曹司とか、有名俳優でも、こぞって結婚したがるだろうなあ。逆に選ぶのが大変そうだ」

「でも、透子様、お金持ちと結婚すれば、家の維持費はくれるだろうけど、家を継いでもらうというのは難しいでしょ? 友部家の当主として家を守るんなら、あの家に住まなくちゃいけませんよね。そういう意味でも、うちの兄がぴったりだと思いますよ。田舎者ですから、ここで一生暮らすのはごく普通です。家は兄に守らせて、透子さまは東京で活躍して、場合によっては自由に恋愛していいですよ。なまじスペックの高い相手はやっかいですよ。セレブなんて人種は、透子さまの価値が本当にわかって結婚するか、怪しいものです。兄の方が便利ですよ。純朴な田舎者ですから。透子さまにひたすらつくします」

 ちょっと待った。冗談のつもりなんだろうが、誤解されかねないじゃないか。どうも、俺以外の我が家の三人は、俺が友部に恋い焦がれて、結婚したがっていると思い込んでいるらしい。そして、俺の恋をなんとか実現させてやりたいと思っているようなのだ。そして、すべてをかねそなえた超のつく美少女を、ぜひ自分たちの家族として迎え入れたいと思っているらしい。普通ならとうてい実現しない、美女とドブネズミの結婚も、俺が友部家を継ぎさえすれば、できると思っているらしい。まあ、本気で実現するとまでは思っていないだろうが、あわよくば、ぐらいの期待はしていそうだ。

「あははは」と、友部が笑う。「静ちゃん、頭、いい。それもありかもね」

 まあ、露骨に俺が嫌いだとも言えないだろうから、冗談ぽく笑って、社交辞令を言うしかないだろうな。母親が少し調子に乗る。

「うちの高志でよかったら、いかようにも使ってくださいね。人付き合いに不器用なところはありますけど、誠実で何事、一生懸命にやりますから」

 そこで売り込んでどうする。コミ障と露骨に言わなかったのは許せるが・・・・・・

「前は、漫画ばっかり読んでたんですけど、最近はしっかり勉強して、成績もかなりいいんですよ。生徒会長も頑張ってるし・・・・・・これも、全部、透子さんのおかげかと思います。あの賭けに応じてもらって、父親としては透子さんに感謝しているんですよ」

 あ、そうか、と俺は初めて気がついた。この三人は、俺が、最近、いろいろ頑張っているのは、友部に恋しているからだと思っているのだ。確かに、「試験で勝ったらデート」とか、生徒会長に立候補して友部を誘ったこととか、その部分しか知らない家族からしたら、そう思うのも無理はない。まして、妹に誘われるまま家に遊びに来たりしていて、自分たちもすっかり友部の美しさに魅了されているから、なおさらだ。「友部に夢中なおたく高校生」像が勝手に定着しているらしい。友部への恋をかなえようと、必死になっている俺を見て、たぶん(どうせ、無理だろうと思うだけに)憐れみの気持ち半分で、俺の代わりにアピールしてくれているのだ。

 まあ、こんなだめ息子でも幸せになってほしいと願って、あれこれ気を遣ってくれているのは、ありがたいといえばありがたいと言うべきなのだろう。ダメな子ほどかわいいというが、俺がこの世紀の美少女の恋人にしてもらえると、ほんとに思っているとしたら、とんだ親ばかだ。

「ね、たかちゃん(母親は普段俺をこう呼ぶ)、もう一度、透子さんを抜こうと思って頑張っているのよね」

「やめてよ。そういう言い方、そんな大それたことは考えてないから」

 俺が友部の方を見ると、友部も顔を上げた。美しい瞳とほんのり赤い唇。本当に完璧に美しい。

「でも、委員長は、俺の永遠の目標です」

 友部は少し顔を赤らめた。

「違いますよ。私こそ感謝しているんですよ。ジラ、じゃなくて・・・・・・高志さんに勉強で挑戦されて、生徒会に誘ってもらって・・・・・・おかげで勉強する目標も、生きる目標もできたんです。高志さんこそすごいですよ。私の永遠の目標です」

 ダメ息子を持ち上げてもらって、母親は少し感動したらしい。少し声を詰まらせながら言う。

「透子さんって、本当に優秀なんですね。どんなにがんばっても、まだ上にいるって高志が言ってました」

「たまに負けてやってくださいよ。高志がデートできるように」

 父親は本当にお気楽だ。

「だから、もう、その賭けは、期限が切れたから・・・・・・」

 俺がそう言っても、お構いなしに続ける。

「じゃ、また、ここで賭けてもらえばいいだろう。次の試験で高志が勝ったら、デートしてもらうということで、どうですか、透子さん・・・・・・そうすれば、また、高志はがんばると思うので」

「ふふふ、いいですよ。そのかわり、私が勝ったらケーキよ」

 と友部は、少し意地悪な目で俺を見る。

「あのとき以来、一度も勝ってないんですけど……」

「負けるたびに、ケーキをごちそうすればいいだろ。パパが買ってやるよ。負けたら何度でも挑戦するんだよ。どうせ駄目だ、なんて思って、すぐにあきらめるのが、おまえの悪い癖だ。あきらめちゃだめだ」

 はいはい、恐れ入りました。パパのいうとおりです。それがこんなに難しく、深刻なことだと、最近、ようやくわかったところです。

 俺は最後の海老フライを口に頬張りながら、斜め前にすわる絶対美少女を上目遣いに見る。友部は、俺の家族の能天気な軽口をどう思ったのだろうか。友部は、俺と同じで、こういう軽口はどっちかというと苦手な方だ。でも、今は、にこにこしながら、デザートを食べている。

 この美しさ、この上品さ、賢さ、そして、心のやさしさ。こんな人が世の中にいて、俺と一緒に食卓を囲んでいる。それだけでも何か奇跡のような気がした。

 友部透子。

 あなたはきっと、俺にとって、手を伸ばしても決して届かない、永遠の目標です。


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