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魔術学園寮で同室になったやつがおかしすぎる。  作者: 結城暁


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「今年はやめておいたほうがいいな」


 アレクのために作った生活技能修練課での時間だった。

 学期末の試験が無事に終わり、三回生への進級も確実になった日のこと。

 指示された繕い物をイザングランは黙って縫っていて、同じように上着のほつれを直していたアレクが思い出したように言った。上着は去年の夏休みにアレクの故郷を目指したときに持っていったものだ。

 だから、去年の夏休みにアレクの故郷を目指したあの旅のことだとすぐにわかった。

 けれども、イザングランは黙ったままでいるしかできなかった。

 アレクの言う通り、会話のない、険悪な空気のまま、二人きりの旅など行かないほうがいい。

 せっかくの夏休みが間近だというのに、去年のような晴れやかさは微塵(みじん)もない。

 イザングランはからからに干上がった喉元をかきむしりたくなるほど焦れていたが、結局、首肯を返す他なかった。

 今年はきっとアレクの家に辿りつくはずだったのに。

 無言で肯いたイザングランに、アレクは何も言わない。

 それがひどく悲しかった。


 謝りたかった。

 謝って、また自室で一緒に過ごして、一緒に読書をしたり、一緒にバイトをしたり、一緒に笑いあいたかった。

 けれど、自分の主張は間違っていないのだから、謝るのは違う気がするのだ。

 イザングランはアレクに自身を犠牲になどしてほしくない。それだけなのだ。

 だからといって、アレクが悪いわけでもない。

 アレクはただイザングランを守ってくれただけなのだ。

 方法はまずかったとしても、いや、おそらく。あの時とれた最善の方法でもって、イザングランはアレクに助けられたのだ。

 イザングランが油断していたせいで。弱いせいで。自分のことしか考えていなかったせいで。

 だから、きっと。

 悪いのは弱いイザングランだった。

 イザングランが許せないのは、腹を立て続けているのは、自分自身(イザングラン)だった。


***


 夏休みに入っても、アレクとイザングランの仲違いが改善されることはなかった。

 マデレイネもミゲルも国に帰る前にずいぶんと二人の仲を心配してくれたのにもかかわらず、である。

 イザングランは相変わらずミゲルとマルコの部屋で寝起きしていたし、朝の読書も別々で、朝・昼・晩の食事も会話をすることはない。

 マデレイネと談笑するアレクを遠目に見るのが夏休み前のイザングランの日課だったのが、夏休みに入ってからはバイトをするアレクを遠目に見るのに変わっただけだ。

 自分で招いた事態であり、改善をしかねているのも自分であるのに、ケンカをするまではあんなに一緒だったのに、とイザングランは日々臍を噛む思いでいた。

 アレクはどうしているのかといえば、日々鬱々とすごしているイザングランとは打って変わって、毎日溌剌(はつらつ)とアルバイトに精を出している。

 テーリヒェン師を始めとした各教員には雑用のバイトを、夏休み中も居残っている上回生には緑鱗(りょくりん)の翁にもらった竜素材を融通して稼いでいるらしい。

 バイトをしているアレクは楽しそうだった。

 アレクにはイザングランがいても、いなくても、関係ないのだ、と思い知らされた。

 胃の腑がむかむかする不快感にイザングランはなおさら苛立った。

 その時のイザングランには愚痴を言う相手など中庭の猫くらいしかいなかったので、拗ねているのだ、と指摘してくれる相手はいなかった。

 寂しさや虚しさやいらだちを考えないように、イザングランもバイトをしてみた。

 だが、アレクのように雑用をしてみたり、薬草の仕訳をしてみたり、と忙しく働いてみても、どれもつまらなく感じる。

 アレクと一緒にしたときはどれも楽しく、またしてみたいとすら思っていたのに。

 使い道もないまま貯まっていく硬貨を見ながら当たり前に思い至った。

 アレクと一緒だったから、どのバイトも楽しかったのだ。

 一緒にいたいだけだったのに、とイザングランはひとり、自室ではない、ひとりきりの部屋で鼻をすすった。

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