説得とは?
クリームくんの部屋に、わたしとアイスくん、クッキーくん、マカロンさんの四人が揃っている。ソーダさんは帰ってこないし、コンちゃんは地面がないから来られない。火の精霊さんも来ないみたいだ。
「僕は……なんていうか、本当に、思い上がってたんだ。アスナさんを救えるのは、僕だけなんだって。アスナさんをお嫁さんに、って言われて、自分だけすっかりその気になってた……。ごめん」
「いいよいいよ、そのへんはクッキーくんが悪いんだし。ね〜?」
「はわ〜〜〜、ごめんなさ〜い!」
クッキーくんは頭を押さえてソファの影に隠れちゃった。小さい子の姿をしてたら、怒るに怒れないよね。
「アスナさんの気持ちを、まず真っ先に確かめるべきだったんだ。だから、僕が悪い……」
「んっ、と……」
「アスナさんは気にしないで。僕が勝手に好きでいるだけだから」
う〜〜わ〜〜〜!
やりづらい! 告白してくれたら、「ごめんね」って断るのに、そんな言い方されたら何も言えないじゃん!
「その代わり、ちゃんと無傷で送り返してあげるつもりだよ。その首輪も、外さなくちゃね」
「外せるの?」
「正規の方法で外せるのは、殿下だけだ。できれば、アスナさんの体は傷つけたくないから……殿下と話してみてくれない? 首輪を外してくれるように説得してみて」
「ありがと……わたし、やってみる。この国を出ていくことも、ちゃんと話したいし。中途半端に関わっちゃったから、あの王子さまのこと、なんか放っておけなくて」
「うん。アスナさんらしいや……」
そんなに見つめられると、困っちゃうんだけどなぁ。
「それじゃ、僕たちはもう行くね」
「えっ」
「ええっ!? やだやだ、ボクまだ食べるもん!」
「はいはい」
アイスくんは立ち上がって、クッキーくんをつまみ上げた。イヤイヤしてるけど、さすがにかなわないよね。って、そうじゃない。わたしには、まだ用事があるんだった。
「待って、アイスくん。見てほしいものがあるの」
わたしはポケットからあの写真を取り出した。クリームくんの壊れたオルゴールに隠されていた、四つ折りの白黒写真。それにらアイスくんによく似た男のひとが写っている。
開いて見せると、アイスくんがハッと息を飲んだ。
「アイスくんの知り合い? もしかして、ご家族?」
「アスナさんには、どう見えますか……」
そう聞かれて、わたしは返事に詰まった。
写真の男のひとは、やっぱりアイスくんのお父さんに見える。年齢的にはちょっと若い気がするけど、お兄さんってほどじゃないし、若い頃の写真かもしれないし。
ただ、これはクリームくんの持ち物なんだよ。普通は、クリームくんの大切なひとの写真だって考えるべき。家族とか。だから、つまり……。ええい、考えてもしょうがない!
「あのね……わたしには、アイスくんのお父さんに見えるよ」
「やっぱり? そうだよね」
「じゃあ」
「これは、クリエムハルト殿下の父上だよ」
「あ……」
そっか。
断言しちゃえるくらい、このひとのこと、知ってるんだ。
やっぱりってことは、アイスくんもこのひとを父親だと思ってたんだね。
でも、クリームくんが王子様として育てられてるのに、アイスくんは奴隷なんだよね。それってつまり、さ……。
「僕は物心ついた頃にはすでに独りだった。他の奴隷の子たちとは別の房に入れられていたし、待遇も、今思えばとても良かったんだ。だから、他人とはまったく馴染めなかった」
わたしはなぜか、奴隷の村でアイスくんを「裏切り者!」ってののしった男のひとを思い出していた。そういう境遇のことを言われてたのかな……。
「僕がこのひとと会って話をしたのは数えるくらいしかない。それでも、なんとなく繫がりを感じてた。このひとが、父親だったらいいなって」
「そう……」
アイスくんは15歳、クリームくんは12歳。だから、アイスくんの方が三つお兄さんなんだね。このひとはもう亡くなってるから、アイスくんのお母さんについては聞けないんだね。もう少し早く気づいていれば……ううん、気づいてても、聞けなかっただろうね。
「この写真、クリームくんに返さなくちゃいけないの。黙って持ってきちゃったから。ごめんね」
「ううん。見せてくれてありがとう。……僕のために、持っててくれたんだよね?」
「うん」
「見られてよかった。本当に、ありがとう」
うう……。そんな笑顔をされちゃうと、心が痛む。
手元に残してあげられればよかったんだけど……そうはいかないもんなぁ。
「じゃあ、今度こそ、行くねアスナさん。首輪が外れたら、すぐに知らせて」
「うん、わかった」
「殿下をうまく説得できればいいけど……。無理はしないでね。そのときも、呼んでくれたら、すぐに駆けつける。ただ……」
「精霊さまの力を借りられたら、ね」
「うん……」
アイスくんが悔しそうに唇を噛む。でも、それは仕方がないよ。むしろ、手助けしてくれてるだけありがたく思わなきゃ。
「クッキーくん、マカロンさん、わたしのこと助けてくれる?」
「もっちろ〜ん!」
「まぁ、いいだろう。その代わり、大きな声で名を呼べ。ほら、ルキック、アイス、帰るぞ」
「は〜〜〜い」
マカロンさんの言葉に、クッキーくんが大きく手を上げて返事をする。クッキーくんは子どもっぽくてマカロンさんが保護者みたいだ。これでも世界の始まりからいたんだよね?
三人はわいわい帰っていった。急に静かになっちゃった。
わたしはベッドに寝転がった。
「説得、かぁ……」
それはつまり、あの王子さまを残して帰るってことだ。
アイスくんももう、首輪の支配から外れてる。きっとアイスくんはここには戻らないだろう。
毒殺を警戒しながら、こんな土地で、奴隷を使って……。
こんなやり方、早いところ改めた方がいいと思うけど、わたしにはどうしたらいいかなんてわからない。
ここを浄化したいと言いながら、兵器の工場を動かしてるんだよなぁ。あ、それは止めたんだっけ? でも、国の方針があるから、兵器工場はまたきっと動き出す……。
「あ〜〜、やめやめ! わたしにはわかんないよ!」
無い知恵を絞ったって、どうしようもできない。
わたしって、無力だ……。




