まるで氷を溶かすように?
「皆、勝手なことばっかり言いすぎじゃない? っていうか、わたしは誰のお嫁さんにもならないよ? そんなつもりないし。元の世界に帰るし」
「結婚、しないのか」
「しない。わたしの好みは、イケてるオジサマで、しかも不倫はお断りだから!」
「そうか……。好みに合わないのでは仕方がないな。しかし、もう少し夢を見せてやれないか? せめてお前が帰るまでは……。このままではアイスは、自分の預かり知らないところで知らないままに振られることになるのだが……」
「無理なものは無理。ちゃんと振ってあげなきゃ可哀想だよ、逆に。次の恋に生きて、アイスくん!」
「不憫な……」
そう? 流れでそうなっちゃったんだからしょうがないよ。
だいたい、勝手にお嫁さんセッティングしたクッキーくんが悪いし、そのことをわたしにバラしたのはマカロンさんじゃん。
「それにしても、わたし、勝手に結婚相手セッティングされすぎ。シャリアディースはジャムとわたしをくっつけたがってて、クッキーくんはアイスくんとわたしをくっつけたがってて、コンちゃんは……よくわかんないけどさぁ」
「確かに。しかもわりとハズレのヤツばかりだな」
「ひどい! 思ってても言わなかったのに!」
コンちゃんとアイスくんが入っててそのセリフは本当にヒドイと思うよ?
それはそれとして、そろそろ帰る方法を教えてもらおうかな。知っているからこそ、わたしのところへ来たんだろうし。
「ところでマカロンさん。そろそろ帰る方法、教えてもらっていい?」
「……私は人間に肩入れしない」
「わたしが早めにいなくなった方が、クッキーくんのためにはよさそうだけど?」
「…………」
マカロンさんは諦めが早かった。
コクンとひとつ頷いて、最後のピスタチオクッキーに手を伸ばした。
「……首輪を外して、アイスと和解しろ。話はそれからだ」
「首輪かぁ〜。血を、流さないといけないんだよね? う〜〜、やだなぁ」
「王子をどうにかすればいい」
「まぁね。穏便にね」
わたしがそう言うと、マカロンさんは肩をすくめた。
やな三歳児〜。
「オッケー。でも、首輪を外す前に、アイスくんに見せたいものがあるの。どうにかして、会えないかな」
「今すぐここに呼んだとして、和解できるか?」
「それは、わからない。でも、もう一度、アイスくんと話がしたいよ」
マカロンさんは黙って頷いていた。
わたしから見ると、マカロンさんだってかなり入れ込んでるように見えるよ? アイスくんのことが大事なんだね。だって、わたしとアイスくんを仲直りさせようとしてるんだもんね。
アイスくんが、「時間がない」って言ってたのはきっと、わたしの精霊化のタイムリミットのことだったんだと思う。それはそれとして、許せないことはたくさんあるんだけどね。でも、アイスくんと拗れたまま「さよなら」するのは嫌だから……。
そして、わたしが気にしているのは、クリームくんのオルゴールに入っていた写真について。あの写真に写っていた、アイスくんそっくりの男のひとのこと、アイスくんは知っているのかなってこと。
もしかして、もしかしたら……
アイスくんとクリーム王子って、兄弟なんじゃないの……?
アイスくんがやってきた。
クッキーくんに付き添われて。肩を落として元気がなさそう。まぁ、それはコンちゃんに閉じ込められてたせいもあるかもしれないけど。
「アスナさん……。ごめんなさい!」
目が合って、一番最初に深く頭を下げられた。そのままじっと、わたしの言葉を待っている。
ソーダさんやマカロンさんに会ったことで、わたしはかなりホッとしたし心も落ち着いたけど、首輪がはまったままっていう事実は残っている。許せるか許せないかで言えば、…………許せるラインかな。
「そのごめんなさいは、何に対してのごめんなさいなの?」
「すべてに対して。僕は、アスナさんに説明せずに勝手に先走って、怖い思いをさせてしまった。それに、ジルヴェストで問題なく暮らしていたところを連れ出して、危険な目にあわせて、殿下の奴隷の首輪まではめさせてしまった。
そして、アスナさんの話も聞かずにジルヴェストの人間を悪だと決めつけて、無理やり彼らから引き離してしまったことと、何より伝書機を渡さなかったことは、本当に許されないことだと思ってる……」
「…………」
「だから、許してくれなくて構わない。だけど、ここから先、その首輪を外して自由になるまで協力させてほしい」
「顔、上げなよ、アイスくん」
わたしがそう言うと、ゆっくりと頭が上がる。
アイスくんは疲れ切った顔をしていて、目の下の隈がひどくなってた。真っ赤な瞳が揺れている。
「アイスくんは、わたしに協力してくれるの?」
「……アスナさんが、それを許可して、くれるなら」
「わたし、ワガママだよ? 首輪を外してジルヴェストに帰って、ジャムを探して、シャリさんをぶん殴って、それから、友だちにお別れして帰るつもりなの。だから、長くかかるかもしれないよ?」
「構わない。どれだけ長くかかっても」
「なら……仲直り、しよ? わたし、許すよ。ちゃんと謝ってくれたから。わたしが怒ってたのは、わたしがお世話になった国の、大切なひとたちを貶された気がしたからだし」
「……いいんですか?」
手を差し出すと、アイスくんの目が大きく見開かれる。
許すって言われて驚くなんて。
「ほら、敬語はナシナシ。よろしくね、アイスくん」
「はい……アスナさん」
仲直りの握手をする。
アイスくんの手は固くて、ちょっと冷たかったけど、しっかりと握られた。




