ルート分岐 1
わたしたちは、エクレア先生の実家で作業を始めた。でも、絶対に上手くいく気がしない。だってまるで学校の図書室並に本があるんだもん!
「これ、終わるのか……?」
と、ドーナツさんが絶望的な顔で呟く。どんな敵にでも勇ましく向かっていきそうなドーナツさんが、まさかこんな表情しちゃうなんて……!
「手を、動かしましょう。まず、ジェロニモとオールィドさんは本棚から本をすべて下ろしていただけますか?」
「えっ、これ全部……?」
「どうせ今日中には終わりませんから、出来る限りで結構ですよ。アスナさんとアーシェイ君は、下ろしてもらった本に何か別の物が挟まっていないか、書き込みがないかを確かめてください」
「はい、先生」
「わかりましたわ」
「私は目録と本を比較し、おかしな所がないかを探します。お祖父様のことですから、わかりやすい場所に手記を置いておくとは思えません。しかし、紙類を保管するのには、やはりここが一番ですから、まずはここを制覇するのが近道かと思います」
木を隠すなら森の中って言うしね、本を隠すならやっぱ本の中だよ。タイトルと中身が違うかもしれないし、目録にない本があったりするかもしれないし。
よ〜し、やるぞ〜!
「って、思ってた時期がわたしにもありました〜」
「アスナ、口より手を動かしなさいな」
「へ〜〜い」
わたしは今、別室で本の中身を調べている。その横ではキャンディが同じ作業を、少し離れたところではエクレア先生が自分の作業をしている。
あの図書室、さすがに全部棚下ろしするとなると埃の量もすごくなるんだよね。だから、窓全開にして力自慢ふたりが大奮戦してるとこなの。
「先生、この確認作業が終わったら、次はどうするんですか?」
なんて、今の作業が終わる目処すらついてないのに聞いてみる。隣のキャンディが呆れたように首を振っているのは見ないフリ。
「そうですね、とにかく、すべて調べて書き込みや手書きのメモを見つけ出します。お祖父様ならきっと、どこかに手記を残したはずなんです。ただ、政治的に表に出すつもりはなかったと思うので……」
「隠しちゃったってことなんですね」
「ええ。明日から本格的に探しますよ。弟にも、手伝ってもらおうと思います」
「それがいいですよ!」
「ただ、ジェロニモはこういう作業に向かないので、彼は彼で行動してもらおうと思っています」
「それって……」
「ええ。彼の生まれた村への道を、探してきたらどうかと言いました」
そっか、別行動になっちゃうんだ……。
「適材適所ですよ。アスナさんは、明日の予定はどうなっていますか? もし良ければ、このまま手伝っていただけるとありがたいのですが」
「わたしですか? ん〜、正直、わたしもこういう作業は向かないんですよね。キャンディは?」
「私、明日は父を手伝うことになっておりますの」
「じゃあ無理かぁ。だったら、わたしは……」
▶エクレア先生を手伝おうかな
▷ゼリーさんと一緒に行こうかな
▷ドーナツさんとお話しようと思ってたんだよね
▷蜂蜜くんに聞いてから考えようかな
▷アイスくんに会いたいな
▷ソーダさんに会わなくっちゃ!
エクレア先生を手伝おうかな。
ここが一番、人手が欲しいところだと思うから。
「お役に立てるかどうかは、わからないんですけど……先生のお手伝いをさせてください!」
「え、いいんですか?」
「わたしじゃ、逆に邪魔しちゃうかもしれないんですけどね〜」
「そんなことありません。嬉しいですよ」
そう言って、エクレア先生は笑ってくれた。
ひとまず、蜂蜜くんにも声をかけてみようっと。
作業が一段落したから、日が暮れないうちに帰ることになった。大風呂も夕食も、魔力灯がもったいないから、時間がすごく前倒しなんだよね。
「アスナ、今日はありがとな。明日は俺、ジェロニモと一緒に出かけることになったんだ。アスナも一緒に来ないか?」
「ううん、やめとく。わたしは少しでも作業を進めたいから、先生のお手伝いをすることにしたの」
「そっか。じゃあ、頼む。俺はやっぱ、体を動かすほうが向いてる」
ドーナツさんは快活に笑った。ゼリーさんを見ると、無言で深く頷いている。
「明日で村が見つかるとも限らないし、風の膜を越えられるかもわからない。だが、行ってくる」
「うん。気をつけてね」
「ああ。アルクレオを、頼む」
「もっちろん! ちゃんとご飯食べたりお茶飲んだり、休憩取らせるようにするね」
「えっ、アスナさん、私のことでそんな心配をしていたんですか? 私だってそれくらいちゃんと……」
「どうかな?」
「無理だな」
「無理じゃないですか?」
ドーナツさんとゼリーさんとわたし、三人の声が重なった。エクレア先生が、口をパクパクさせている。ああ、皆そういうイメージなんだね。そしてゼリーさんが断言するってことは、イメージ通りのひとなんだなぁ。
「皆さん、ギズヴァイン先生をいじるのもそこまでになさいませ。ほら、もう帰らなくては」
「そうだね。帰ろ帰ろ。先生も、宿舎に帰るでしょ?」
「え……と……」
あ、そっか。ここが実家なんだし、先生は帰る必要ないのか!
「先生は帰る必要なかったですね。それじゃ、また明日~!」
「寮にお迎えに上がりますよ」
「え、でも……」
「移動手段がないでしょう? 明日、九時でいいですか?」
「はい!」
その日の夜、寮に帰って蜂蜜くんに話をしたら、ゼリーさんの家族がいる村に興味がわいたみたい。ついては行かないけど、尾けて行こうかなって言ってた。う~~ん、それは大丈夫なのかな?
夜、窓を開けてソーダさんを呼んでみたけど、返事はなかった。ただ風だけが、わたしの髪の毛を揺らしていた。




