ふたりは過激派?
キャンディはげっそりした顔で帰ってきた。アガレットさんから全部聞いてきたみたい。
わたしはキャンディを呼び止めて、昨日のことも含めて説明したいって伝えた。
「アスナ……ひとまず、熱い紅茶が飲みたいですわ。ふたりとも着替えてから私の部屋へいらしてちょうだい」
「ボクも紅茶飲みたいですね~」
「こら、蜜!」
「いいですわよ。クッキーも残っていますし、ご馳走しますわ」
「やった~」
もう、ゲンキンなんだから!
「アスナさんだって嬉しいくせに~」
そりゃそうなんだけどね!
でも、それにしたってもうちょっと取り繕うよ!?
そんなわけで、蜂蜜くんが着替え終わってからキャンディの部屋へ行った。ノックの音に応えて、着替えてリラックスした状態のキャンディがわたしたちを中に入れてくれた。いつもは下ろしている髪を、今は後ろで一本の三つ編みにしている。かわいい~。
「どうぞ。今、ちょうど茶葉を蒸らしていたところよ。すぐに飲めるわ」
「ラッキーですね」
「そーね」
ダメだ、蜂蜜くんはお茶とお菓子のことしか頭にない!
でも、わたしも、ふんわり香る紅茶のいい匂いにリラックスできた気がする。ティータイムって、大事なんだね。
「それじゃ、アスナから話してもらいましょうか。私がお父様から聞いたことも含めて、彼女には伝えるつもりなのでしょう?」
「うん。それでいいかな」
「ここまで来て、今さらダメだなんて言うつもりないわ。お父様からも、アスナの希望を最大限叶えるように言われているし。貴女、何をしてそこまでお父様に気に入られたの?」
「いや〜、全然わかんない!」
「まったく、しょうがないわね……」
キャンディはツンと澄ました顔でティーカップを口許に運んでいった。わたしもお砂糖をたっぷり入れて、ミルクティーにして飲む。おいし〜。
「あの〜、キャンディスさん、ちょっと雰囲気変わりました?」
「あら、そうかしら」
「あ、ほら、お嬢様しゃべりをやめたからじゃない? わたしといるときだけだけどさ」
「そうかもしれないわね。令嬢どうしの会話は回りくどくって嫌いよ。ミシェール、貴女も遠慮せず私のことは呼び捨てに、そして敬語もなくて構わないわ」
「どうも。って言っても、最初から庶民の話し言葉でしたけどね、ボクたちは」
「うわ、一緒にされた」
って、事実その通りなんだけどね。
蜂蜜くんは出されたクッキーを遠慮なく頬張りながらそう言っていた。
「じゃあ、昨日あった出来事からね……」
わたしはアイスくんとの出会いについて簡単に説明してから、ギースレイヴンに行ってきたことを話していった。さすがにステータスを覗けることは言わなかった。……だって、「気持ち悪い」とかって思われたくないし。
起こったことを順番に、途中でシャリアディースから聞いたことや見せてもらった立体的な地図で確かめたことを挟みながら話していくと、その反応は正反対にあらわれた。キャンディは同情して、蜂蜜くんは怒ってた。
「そんなわけで、兵器があるって工場も見てないし、王子様も見てないんだよね。あの王宮に他のひとがいるのかどうかはわからない。場所も、自信ないなぁ。コンちゃんとソーダさんに頼りきりだもん」
結局、役に立つことは何も知らないって言ったら、キャンディは首を横に振った。
「今まで、誰もあの国のことを知らなかったんだから、アスナの情報は貴重よ。それに、危うく殺されるところだったんだから……そんな風に自分を卑下しないの」
「う、うん……ありがと」
「血と心臓で大地を浄めるとか、胸くそ悪いですね」
「蜜、地が出てるよ」
隠す気あるのかな、蜂蜜くん……。
今のところ、君はクラスメイトのミシェールなんだけど?
「それで、その風の精霊様とは今も連絡を取れるの?」
「どうだろ。用事もないのに呼ぶのはどうかなって思うし。風の結界を越えて移動するぶんには、コンちゃんにお願いすることもできるよ。来てくれれば、だけどね」
「コンちゃんですもの、きっと来てくれるわよ。さっきも女の子と遊んでいたし」
「いいなぁ〜。わたし、あれから撫で撫でするヒマなかったのに!」
わたしもモフモフしたいよ〜〜!
「ウサギ、ねぇ……。今度ボクにも紹介してくださいね」
「うん、もちろん!」
「それで、隣の国の話なんですけどね、手っ取り早く王子を暗殺しちゃえばいいと思うんですよ」
「蜜!?」
何を言い出すのかなっ、このひとは!
キャンディが目を丸くしてるよ!?
「ちょっと! 物騒なこと言うのやめてよね! わたしだってそりゃ、兵器の生産とか侵略戦争をやめてほしいけど、だからってそんな手段に出ることないでしょ? 先に手紙でも何でも送って、国同士で話し合うべきだよ!」
「そんなまどろっこしいこと言ってる場合ですか? この国の王様はあんなに若いんですよ? 国家間対話なんてやったらナメられておしまいなのでは?」
「別のひとが対話の席に立てばいいでしょ……」
「でも、確かにミシェールの案を採用すれば迅速にことが運ぶわよね。向こうは戦争中だし、こちらのことは警戒していないはず。奴隷を味方にして、兵器の工場も押さえてしまえば、かなり有利になるのじゃない?」
「キャンディまで!」
ガッツリ真面目に考え込んじゃってるよ、この子は!
「ふたりとも乱暴すぎ! 第一、相手の規模もわかんないっていうのに……」
「ボク独りでなら、そっと忍び込んで寝首掻いて来ますけど?」
「だから……! あ、でも待って、それは無理だよ」
「何でです?」
「あっちは魔力が枯渇してるから、たぶん、結界を越えられても蜜はすぐ気絶しちゃうと思う」
「…………なるほど」
ふぅ、蜂蜜くんがおとなしくなってくれて良かった!
「この国は今まで外国とかかわりがなかったけど、もしかしたらこれからは、交易とかもするかもしれないんだからさ……まずは話し合いから入ったほうがいいよ。甘いって言われても、わたしは戦争は嫌だよ」
わたしの言葉に蜂蜜くんはため息をついて、キャンディは肩をすくめた。ええい、過激派どもめ、誰が戦うと思ってるんだよ。
「まぁ、そうですね〜。この国の騎士団はだらけてますもん」
「同意ですわ〜。あ、でも、一部は有能ですわよ、一部は」
「ですね〜」
それはそれでどーなの?




