どう言ってあげればいいんだろ?
そんなこんなで、昨日のことは話し終わった。次は、今日の出来事について。
「今日は今日で、大変なことが起こったのよ。わたしが起きてごはんを食べたのは、ちょうどお昼頃だった。それで外を見たら、ソーダさんがいた気がして飛び出していったの」
「風の精霊様が? アスナ、貴女ってば本当に精霊様に縁があるのねぇ」
キャンディが頬に手を当てて感心したような声を出す。うん、わたしもそう思うよ。
「実はそれは人違いで、同じような髪の色をしたジェロニモさんだったんだけどね。ほら、アルクレオ先生のボディガードの。で、そのまま話の流れでソーダさんを呼んだら本人も来ちゃったんだ」
ふたりの視線が何か生暖かい……。
「コンちゃんも呼んだら来てくれたから、会わせてあげたりしてたのよ……。ゼリーさ、じゃない、ジェロニモさんも結界を越えたい事情があったから。あ、これ、内緒ってわけじゃないかもしれないけど、あんま言いふらさないでね」
「そんなことしないわよ。その事情とやらも知らないし」
「興味ないですし〜?」
蜂蜜くんはそう言うと思ったよ。
「それで、そのとき、急に結界が消えたの。何が起こったのかは、わたしにはわからない。でも、消えたのはすぐにわかったよ。一気に魔力の流れが変わったもん。拡散って言ってわかるかな、本当はちょっと違うけど、真冬にあったかい部屋の窓を開けたら風が吹き込んでくるやつ。あれって、部屋の中と外で温度が違うから、空気が勝手に移動して入れ替わっちゃうんだよね。熱交換っていうんだけど。それと同じで魔力も濃度が薄いところへ移動しちゃうの。そのせいでこの国の魔力はちょっと減っちゃったんだ。だから、結界がなくなったとき、蜜ちゃんは気分が悪くなったりしなかった?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、アスナ! 少し考えさせて!」
「えっ、っていうか、アスナさんって頭良かったんですね、この裏切り者」
「おいこら」
キャンディはおでこを押さえ、蜂蜜くんはどこか遠いところを見ていた。話聞いてよ。
っていうか、裏切り者はひどくない?
「勉強嫌いって言ってたくせに……」
「嫌いだよ。っていうか、文章を読むのが苦手なの。わたしは、耳で聞いたことはけっこう覚えてるひとなのだよ。えっへん」
「は~~、じゃあ落ちこぼれはボクだけですね~」
「いやいや、綴りは全滅だからね? 書くのも苦手だし、しょっちゅう間違えるからね? テストの点数同じくらいだったでしょ! 思い出して!」
「そういえば」
ポンと手を打って、蜂蜜くんは「じゃあいいや」と言いやがりましたよ。許さんぞこら。
「お父様が大急ぎで魔力を掻き集めていたのは、こういうことだったのね……」
「そうなの。ちょっとマズイよね」
そう言うなりキャンディは考え込んでしまった。たぶん、ジャムがいなくなってしまった上に結界もなくなっちゃって、どうやってこの国の魔工機械を動かしていこうと考えてるんじゃないかな。いつまでもこのままじゃいられないもんね。でも、キャンディの計算の中には、結界を通して送られてくる、この国のひとたちから集めた魔力が入ってない……。
このことは、いずれキャンディにも伝わると思う。だって、キャンディのパパであるアガレットさんは知っていたんだから。
それはさておき、結界といえばひとこと言わなきゃ気がすまないひとがここにいるわけだけども。
「結界が消えたってことは、あの陰険宰相はどうなったんです? アイツが死ぬはずないですもんね」
キャンディがぎょっとしてるよ蜂蜜くん。
ゼリーさんと同じこと言うんだね蜂蜜くん。
「やっぱそう思う?」
「当り前じゃないですか。それにしても、後生大事に守ってた結界をぶち壊すなんて、とうとうイカレました? アイツ今なにしてんです?」
「それがさ、いなくなっちゃったんだよね」
「はぁ?」
「結界が消えたのと同じ頃、消えちゃったの。アイツも。しかも、ジャムもいないの」
「はぁっ!?」
うんうん、当然そういう反応になるよね。でも、事実なんだから仕方がない。
「だから今、この国のお偉いさんたちは大変なんだよ。会議してたもん。みんな知らない話なんだけどさ、この国の魔工機械を動かしてたのはジャムの魔力だったんだよね。もちろん、他にも魔力を充填できるひとはいっぱいいるよ。大臣さんたちがお城に出勤するときに魔力球に触れてたみたいだから」
「え~~、あの大臣たちが~~?」
お、いい感じに権力に反発してるね、蜂蜜くん。わたしも思った。そしてそれは正解だよ、だってボランティア制だってジャム本人が言ってたもんね。強制じゃないからやんないヤツもいるって。
それを伝えたら、「やっぱり!」って深く頷いてた。
「結界使ってボクたち平民から魔力絞り取って、それでも足りずにあんな子どもから魔力をねだってたんですか、この国の大人は。とんだクソったれどもですね。これを機に上から順に殺していった方がいいんじゃないですかぁ?」
「みっ!」
「……え? あ、え、どういう、意味ですの?」
キャンディは混乱しているみたいで言葉につっかえていた。そりゃそうだよ、こんな過激な発言! 子どもに聞かせられないよ!
「だってそうじゃないですか? 常識的に考えて、こんな島国で貿易もせずにこれだけの人数養えませんもん。食べ物も服もその他の雑貨も全部、魔工機械に頼ってるんですよ、この国は! 水も明かりも食べ物も、働かなくたって最低限保証されてるんです。配られてるんです。働きたい人間は働いてぜいたくな物を手に入れる、その上に立つ人間は働かなくたってぜいたくができる! ぜいたくを覚えた人間は、くだらない悪事に手を染める……! この国の犯罪件数は少ないです、微々たるものです、それでも決してゼロじゃない。そのわずかな数字で表される犯罪の、事件の醜さが貴女たちにわかります?」
「蜜……」
「ボクはね、そういう土地から来たんです。だから、この国の人間を信用できない。今のボクは、罪人をどうこうできる立場にはありません。でも、命じられれば喜んで、クズどもの息の根を止めてましたよ」
そう言った蜂蜜くんの目はすごく冷たくて、同時にすごく傷ついてるように見えた。




