わたしはアホの子じゃないもん!?
アガレットさんと一緒に学園まで帰ってきた。ちょうど授業が終わった頃で、生徒たちは下校せずにそのまま待機していた。そして今は講堂でアガレットさんからの説明を受けている最中。わたしを送り届ける前に、伝書機か伝令かどっちか飛ばしてたんだろうね。有能!
わたしはというと、講堂の一番後ろでゼリーさんと一緒に座っていた。
「今日のこと、もちろん先生に話すんですよね?」
ゼリーさんはこくりと頷いた。
「カーリー先生にも?」
「ああ」
「三人で?」
「そうだ」
「わ~、全然想像できない」
わたしの言葉に、ゼリーさんは「そうか?」と不思議そうな顔した。
だって、あのカーリー先生とエクレア先生が双子ってことがまず信じられないのに、正反対の二人が同じ空間にいて話してるなんて、それこそ信じられない。
「あの、つっこんだこと聞くけど、あの二人って仲悪かったりする?」
「……どう、だろうな。互いに互いのことを苦手だと言っていた」
それを「仲が悪い」と言うのでは?
「詳しくは本人に聞け。……アルクレオは、俺のことを何も聞かずに受け入れてくれた。結界のことも、精霊のことも、まったく伝えていない」
「そうなの?」
「ああ。結界のことを知らなかっただろう?」
「そういえば」
そうだったそうだった!
結界について知っているのは、ほんの一部の人間だけなんだった。結界が魔力を吸い取るのを知っているのは、その中のさらにひと握り。ん~~、情報規制されてる!
「そうだ、ゼリーさん」
「なんだ」
「あのね、ゼリーさんの村にはいつ帰るの? わたしとの約束、忘れちゃやだよ」
「そうだな……」
ゼリーさんは腕組みをして考え込んだ。お城に行く前は「この件が終わったらな」って言われたけど、この件がいつ終わるのかわかんなくなっちゃったんだもん! それに、わたしの立てた仮説も確かめたい。もしもジャムのお父さんたちが無事に結界を越えてるとしたら、ゼリーさんの家族が住んでる村にいるはずだっていう仮説を。
「アルクレオと話し合う。俺の生い立ちを知れば、村に行きたがるかもしれない。アスナを連れて行くにしても、一緒の方がいいだろうから、日程をすり合わせないといけないしな。だが、あいつも父親の手伝いに回されるかもしれないし……。今すぐに答えは出せない」
え……ゼリーさんがめっちゃしゃべってる……。
今までこんなにしゃべったこと、あったっけ?
じゃない! 真面目な話!
「ありがとう。それがわかっただけでも助かる! わたしも、キャンディや蜜と話し合わなくちゃいけないし。オルさんとも話さなくっちゃいけないことがあるし」
「そうか。なら、伝書機を一台持っておくことだな」
「伝書機? あ、そっか。学園で借りればいいやと思ってたけど、そういえばまだ出せてない手紙もあるしなぁ。やっぱり一台くらい持っておくべきかなぁ」
「それがいい。俺も、持ち歩くことにする」
「どんなのがオススメとかある?」
「軽くて持ち運びしやすいのがいいんじゃないのか?」
なるほど!
「わかった、それも合わせて考えてみる」
「ああ」
わたしは前を向いた。壇上のアガレットさんが見えないくらいの距離だけど、なんとなく、そろそろ終わり頃だなとわかる。キャンディにお礼を言って、部屋の鍵を返さなくっちゃ。キャンディはもしかしたら、アガレットさんと親子で話をして遅くなるかもしれないから、蜂蜜くんと一緒に待ってようかな。
蜂蜜くんにも根掘り葉掘り聞かれるだろうけど、そこはグッとこらえてもらって、キャンディと三人で話をしよう。じゃないと、ま~た同じ話をしなくちゃいけなくなって面倒だもん。それに、頭のいいふたりが揃えば、いい知恵を貸してくれるかもしれないしね!
「ところで、アスナ」
「なぁに?」
「シャリアディースが消えた今、あの男を側に置く必要があるのか?
「あの男……?」
誰のこと?
側に置くって、どういう意味だろ。
「あのな……」
「え」
「ミッチェン・ガードナーのことだ。宰相の命令でお前の近くにいただろう」
「!」
蜂蜜くん!?
あ、そうか! ウッカリしてた!
「お前……」
「あはははは! いや~、もうすっかりルームメイトとして定着しちゃって! そっかそっか、そうだよね~」
あ~ん、ゼリーさんが信じられないものを見るような目で見てる~~!
違うの、本気で、本当に気づかなかったんだってば! もう、蜂蜜くんが美少女すぎるせいだよ~!
だから、そんな呆れた目でわたしを見ないで!
アホの子を見るような目で見ないでってば! いやもうホント、勘弁してください!




