優しいのか厳しいのか、どっち?
「わたし、知ってます」
「そうか……」
「結界が魔力を吸い上げてたことは、一部の人間しか知らされてないんですね。どうして、国王なのにジャムは知らなかったの?」
わたしの言葉にアガレットさんは少し驚いたような顔をした。
「そう、だね。それが、彼の両親の意向だったから、かな。パルフェイドはあの結界のせいで妻を早くに亡くしたんだ、つまり、陛下の母親だね。だから、五年前、結界を破る方法を求めて旅に出た」
「破る方法?」
それ、わたしの聞いた話と、違う……。
「そうだよ。表向きには、綻びが見られ始めた結界を維持するため、その方法を求めて旅に出たことになってるけど」
「そう、それで……」
「だからね、どうして今、こうなったのか……皆目見当がつかないんだ。親友をふたりも、失ってしまった。だからせめて、オースティアンだけは守ろうと思っていたのにね……」
アガレットさんとジャムのお父さん、ドーナツさんのお父さんは親友だったんだね。
五年前にジャムのパパが旅に出た理由が結界を破るためだったってこと、シャリアディースは知ってたのかな?
ふたりとも綻びに触れて死んじゃったんじゃないかって話だけど、本当かな。ゼリーさんの例もあるし、うまく結界の外に出てくれてればいいけど……。
ん?
待てよ?
結界はまるでスノードームみたいにこの島を覆ってた。結界から外れた場所は、ほんの少しの海岸くらいじゃなかった? もし、ジャムのお父さんたちが結界を抜けることができていたとしたら、それってきっと、ゼリーさんの元いた村に行きつくんじゃない?
わたし、すごいこと思いついちゃった!
これは……後で、ゼリーさんに話そう。そうしよう。まだそうと決まったわけじゃないし!
「そういうわけだから、魔力の供給について、君にも協力してほしいんだ。陛下の信頼を受けて、それに、宰相閣下からも貴重な情報を明かされていた君にだからこそ、お願いしたい。この国の危機を救ってくれないか、アスナくん」
「アガレットさん……」
馬車の中だったけど、向かい合わせに座った席のあちら側で、アガレットさんは深く頭を下げていた。
「今のこの国の最高責任者として、君の願いをできうる限り叶えると誓うよ。我々が何とか態勢を立て直すまで、その力を貸してください」
「頭を上げてください、わたし、自分にできることはやろうと思ってましたから。……でも、本当にわたしの願いを叶えてくれるんですか?」
「もちろん、その努力は惜しまないよ」
アガレットさんはわたしの目をじっと見て頷いてくれた。優しく笑ってる。でも、わたしは不安だった。
「わたしの願いが、家に帰ることだとしても?」
「もちろんだよ」
即答だった。
この国の魔力供給のためには、わたしがいたほうが有利なのに……。
「いいんですか?」
「私にも同じ年頃の娘がいるからね。家に帰してあげたい。きっと君の家族もそう望んでいるはずだ」
うっ……。
優しい言葉に涙が出そう……。
本当は今すぐその胸に飛び込んで抱きつきたいけどそれはダメよ、アスナ! あ、涙ひっこんだわ。
「それは、キャンディをジャムと結婚させたくて言ってるわけじゃありませんよね……?」
「まさか! ……もしかして、嫌がってたかい?」
「ええ、すごく」
「そうかぁ。じゃあ、仕方ないね。あ、でも、娘から言ってくるまでは放置しよっと。内緒にしてね?」
「もちろん!」
優男系イケオジのおちゃめなウインクと一緒にお願いされたら、そりゃあOKするしかないよね!
でもよかったね、キャンディ。パパさん、無理強いしないってさ!
「それじゃ、しばらくお世話になりますね」
「それはこちらのセリフだよ。何でも言ってね、約束だよ。絶対に無理しないで」
「はい」
そんなに心配されると、ちょっとくすぐったいなぁ。
「本当はね、陛下が君に何も求めなかったから、私たちもそうしたかったんだ。でも、今はすごく大変な時期だから……。実は、君を送り届けるのだって、学園に用事があったからでもあるんだよ。生徒諸君に、魔力球への補充をお願いしたくってね」
「そうだったんですか。そっか、キャンディも魔力が高いもんね」
「全員に毎朝、予備の魔力球に触れてもらおうと思ってるんだ」
「えっ! 待ってください、すごく魔力の低い子もいるんですよ?」
「そこだよ。魔力球は触れた者の魔力を吸い取るだけじゃない、触れた者の体に一定以上の魔力がない時には、魔力を吹き込む力があるんだ」
つまり、チョコが魔力球に触れたら、チョコに魔力が行くってこと?
「そんな仕組みになってるんですか?」
「そうだよ。病院にも置いてあるんだ。魔力球はこの国に予備を含めて三つしかないから、気軽に個人に貸すことはできないけどね」
「そうなんですか……」
「これがあってさえ、死んでいく人間の多いことには、まったくため息が出るね。おそらく、魔力が少ないというだけで死んでいるわけじゃないんだろう」
そうなんだ……じゃあ、シャリアディースだけを責めるのは、間違いだったのかも。
でも、その責任の一端が結界にあることは確かだけどね!
「そういうわけで、魔力の補充をお願いに行くよ。魔力の少ない子も、この魔力球になら安心して触れられるだろう? もし、国の危機だからって我慢して倒れちゃったら可哀そうだ」
「それで、アガレットさんがお願いに行くんですね。でも、アガレットさんってすごく偉い人なんじゃないですか? わたし、偉いお役人さんって威張ってばっかりだと思ってた」
「未成年の子に協力してもらうんだ、一番偉い人が頭を下げないとね!」
すごい! かっこいい~!
「あ、でも、大人は? 全員に説明しに行くわけにはいかないでしょう?」
「そうだね。大人が国に協力するのは義務だから、通達するだけでもいいさ。ゴネて文句ばかり言う奴は、首をはねちゃう!」
「え……」
「なんてね! まあ、本気だけど」
わーお。
ハートの女王ならぬハートの大臣がここに!
でもまあ、いっか。ジャムをないがしろにしてた大臣みたいな人は、叱られちゃえと思います。




