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▶【キャンディを連れて行く】
……キャンディに一緒に来てほしいなぁ。
でも、苦しい目にあわせちゃうなら、やめたほうがいいよね。
「キャンディ、わたし……」
「私も行きますわ。……そう言ったはずよ、アスナ」
「キャンディ〜〜!」
え〜〜ん、かっこいい〜!
わたしはキャンディにぎゅっと抱きついた。
「あの、抜け道は雑木林にあるので、さっそくなんですが行きませんか……」
「あ、うん。行く行く」
アイスくんについて雑木林に入る。すると、そこには大きな穴があった。普通に、地面に丸く穴が掘ってある。覗き込んでみると、真っ暗で底が見えなかった。
「え、ここが……?」
「入ってください。ひとりずつしか通れないので、アスナさんから」
アイスくんは真面目な顔でわたしを見た。
仕方ない……まるで不思議の国のアリスだけど、信じて飛び込んでみるか。
「えいっ」
穴に飛び込むと、まるで水に飛び込んだみたいな感じだった。音や光が洪水になって上に上に流れていく。ビックリしている間にわたしは地面の上に立っていた。
いつの間に夕方になってしまったのか、辺りが薄暗い。そしてとんでもなく空気が悪かった。
「いったい、なんですの……この場所。モヤがかかっているような気がしますわ。アスナ、ハンカチを口に当てましょう、ひどい空気よ」
「うん、そうだね」
キャンディがわたしの後ろに立っていた。
見回してみても、遠くに建物か山かわからないものが見える。足元の土はとても乾いていて、変な色をしていた。
「アイス〜、おかえり〜!」
アイスくんの名前を呼びながら、ぴょんと小さな子どもが飛び出してきた。金色の髪の毛をショートボブにしていて、男の子か女の子かわからない。
話しかけようとしたその時、キャンディのちょっと驚いたような声がして、わたしの顔に温かいお湯みたいなものがビシャッとかかった。
「あつっ、なに?」
わたしは咄嗟に顔に手をやっていた。
後ろで誰かコケたみたいな音がした。キャンディったら、何かこぼした? でも、何を?
手が、ぬるっとしたものに触れる。
見てみたら、真っ赤な水がついていた。……これは、血?
鉄臭い匂いに、体が震えた。
「よかった、これで何とかなりそうだ」
「アイス、くん……?」
アイスくんの嬉しそうな声がする。
わたしは振り返りたくなかった。だって、何かしてるんだもん……よくわからないけど、知りたくない音が聞こえる。
「もう大丈夫ですよ、アスナさん。これなら殿下も、納得してくれるはずだから」
「!」
アイスくんが真後ろに立ってる。
どうしよう……どうしたらいい? 足が震える。見下ろす靴が歪んで見える。もう立っていられない、立っていたくない……。膝から地面に落ちる。痛い……。でも、膝よりもっと心が痛い!
「キャンディ……」
思わず口から飛び出してきたのは、わたしがここへ連れてきてしまった親友だった子の名前だった。
「キャンディ……キャンディ…………、どうして!? どうしてなの!」
「アスナさん……」
半分振り返って、思い切り睨みつける。
そこには、血まみれで虚ろな目をしたアイスくんがいた。
片手にナイフ、もう片手には……血まみれのナニカを持っている。血が滴り落ちる。キャンディの血が。
「キャンディが何をしたのよ! どうしてこんなこと…………」
「あ……」
「わたしも殺すの? そのために連れてきたの? 誰かに命令された? それとも、自分の意思なの」
「違う!」
悲鳴みたいな声。
わたしの意識はナイフの刃に集中した。彼がわたしに向かってあれを振り下ろしたら、わたしもキャンディの二の舞だ。
カラン、とナイフが落ちた。
アイスくんは、わたしに駆け寄ってわたしに抱きついてきた。
逃げる暇もなく抱き締められる。
「いや! 離して!」
「アスナさん、聞いて……僕はただ、貴女を守りたかっただけなんだ……!」
「そんなこと知らない! 頼んでない!」
「アスナさん!」
「やだ! 離してよ! アイスくんなんか大嫌い!」
「アスナさ……」
わたしはメチャクチャに暴れた。
両手が自由にならないから、体をひねってアイスくんを振りほどこうとした。でも、ぎゅうっと抱き締められると、抵抗もろくにできない。あんなに細いアイスくんの体が、ビクともしなかった。
「もうやだぁ……なんで……なんでよぉ…………」
「こうするしかなかったんです」
「キャンディ……。あ……なに、これ……」
急に体から力が抜けていった。クラクラして目を開けていられない。アイスくんに何かされた……?
「魔力切れだ……やっぱり、アスナさんでもここでは生きられないのかな……」
アイスくんの声がする。
わたしは誰かに抱き上げられたのを感じた。
「アイス、お姫様はボクらが預かるよ。だから早く王子様のところへ行っておいでよ」
「それがいいだろう、アイスシューク。彼女は私が血を拭いて綺麗にしておこう」
「キレイなドレスを着せて、ガラスの寝床に入れてあげるよ! 大丈夫、お姫様は死なないよ、眠り続けるだけ!」
誰?
なに言ってるの? そんなのいやだ……。
「ありがとう、ふたりとも。それじゃあ、クリエムハルト様のところに、この心臓を届けてくるね。アスナさんも……また、後でね」
額にキスが落とされて、わたしはどこかへ横たえられた。
どうしよう、体が動かない……。誰か助けて!
叫ぼうとしても、声が出ない、動かない。
そういえば、もう、何も聞こえない。暗くて、寒い。
わたしはどんどん暗闇に落っこちていった。
END『硝子の棺と醒めない眠り』




