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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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これはデートに入りますか?

 デザートを食べ終えて、コーヒーを飲み始めたときには、もうかなりいい時間になっていた。後はもう、帰って寝るだけしかできない。泊まっていくかと聞かれたけど、明日も授業だから帰れるなら帰りたい。……宿題もあるし。


「なら、ヴィークルで送っていこう。あれなら馬車と違ってすぐに動かせるしな」

「へぇ~、って、ジャムが送ってくれるの? 直接?」

「ああ。着替えて待ってろ、すぐ持ってくる」

「でも、本当にいいの?」

「アスナを送る分はディースも許してくれるだろ」


 そう言うとジャムは行ってしまった。

 フットワークが軽い!


 わたしは言われるままに部屋へ戻って、メイドさんにメイクを落としてもらい、渡された制服に着替えた。


 ヴィークルって、遠くからしか見たことないけど、確か魔力で動く乗り物だ。見た目は遊園地にあるコーヒーカップそっくり。取っ手とソーサーがないだけ。


 これが空を飛び交ってたらSFなんだけど、実際にはあまり使われてないみたい。制限とかがあるのかな。


 着替えてすぐに、準備ができたからと呼ばれた。二階のバルコニーから飛び立てるみたい。わたしはジャムに手を引かれて、白いコーヒーカップに乗った。


「なんか……ちょっと怖い」

「安心しろ、オレの魔力は多いから、途中で落っこちたりしない。できるだけ、低く飛ぶし」

「うう〜。わかったぁ……」


 おそるおそるカップの中に足を踏み出す。カップの真ん中にハンドルはなくて、代わりにわたしの頭くらい大きな水晶玉がハマっていた。


 ジャムがそれに手を置くと、虹色の光があふれ出す。綺麗だなぁ。シートベルトがないのが気にかかったけど、コーヒーカップ自体がまるでシャボン玉みたいな丸いものに覆われてて、これが壁になるんだと直感する。触ってみたら、ふにゃんとした弾力のある壁だった。


「動くぞ。いいか?」

「うん、大丈夫」


 コーヒーカップは音もなく浮かび上がって、たくさんの明かりが見える街の上まで移動した。なんだか本当に遊園地のアトラクションみたい! 


「怖がらないんだな」

「事故したら怖いけどね。それに、シートベルトもついてないし、これ」

「ベルト? ああ……あったほうがいいのかもな。考えてみる」


 ひえっ!?

 シートベルトしないのが普通なの? こわっ!


 コーヒーカップが真っ暗な道の上を飛んでいく。余計な明かりが少ないぶん、この世界は星がとても綺麗だ。振動も騒音もないし、こんな便利なものがどうして流行ってないんだろう。そう思ったけど、これも魔力で動いてるんだよね……。あんまり使わないほうがいいのかな?


「ねぇ、ジャム、これって魔力で動いてるんでしょう?」

「ああ、そうだ。心配しなくても、魔力切れを起こしたりはしない。もう夜だから朝使った魔力はもう回復してる。それに、オレの魔力は量が多いんだ」

「朝、何かに魔力を使ったの?」

「ああ、なんだ、アスナは知らないんだな。この国で使う魔力は、王であるオレが(まかな)ってるんだ。朝、城の中枢にある水晶球に魔力を吸い取らせて、それによって国中の魔工機械に魔力を行き渡らせてる。だから、日中のオレはほとんど魔法が使えないんだ」

「なにそれ! 初めて聞いた!」


 なんだそりゃ。そんなのほとんど生贄じゃん!

 それに加えて結界を通じて国民から魔力を搾り取ってるんでしょ? それでも足りなくて、チョコは魔力切れを起こしてるんでしょ?


 ヤバい。早く魔工機械を止めないと……。


「ジャム、魔工機械止めようよ……。アンタがそこまでする必要、ある?」

「必要ではあるさ。使い道については、色々議論が紛糾してるけど」

「贅沢してる貴族たちから絞っちゃいなよ」

「ははははは! 面白いな、それ! 大丈夫、アスナが心配しなくとも、ギズヴァイン卿を始めとして、王室派の中心貴族は魔力を補充してくれている。もちろん、強制じゃないから全員じゃないがな」

「へ~、そうなんだ」


 先生、いつお城まで行ってるんだろう。学園にもあるのかな?

 

「もうすぐ着くぞ。最後だからスピード上げてやる!」

「えっ、やだやだ、怖い! ジャム〜〜!」


 急に動きを変えたコーヒーカップにビックリして、わたしはジャムに抱きついた。だって、他に掴まるところがなかったんだもん! ジャムのヤツ、笑いながら危険運転をやめなかったので、地面に降り立ったときには背中をグーで殴っといた。


「いてっ!?」

「バカ!」


 コイツはやることがホントにガキだ!

 寮の玄関に横付けしてくれたので、暗い中を歩かずに済む。わたしはジャムに手を振った。


「送ってくれてありがと。おやすみなさい」

「アスナ、あのマドレーヌ、本当に美味しかった。次も期待していいか?」

「暇があって、気が向いたらね」

「よしっ!」


 嬉しそうにガッツポーズするジャム。まったく、お菓子なんて普段から選びたい放題食べ放題だろうに、そこまで嬉しいもんかな。……悪い気はしないけどね。


「それじゃあ、またね」

「今度は城の外でデートしよう、アスナ」

「は?」

「今回、アスナとの時間を作るために仕事を見直したんだ。遅れてくる奴や先延ばしにしようとする奴を、睨んで脅して左遷したら、かなり仕事がやりやすくなった」


 そりゃ良かった。


「今日みたいにまとまって時間が取れるようになる。だから、外へ出かけよう。この国の色んなところを、アスナに見せたいんだ」

「でも、お茶会の日は学校が……」


 日曜日にジャムと会うとなると、調べ物が……。


「今までどおりでいい。朝から晩までとなると、気を使うだろ? だから、学校が終わってからでいい。オレに時間をくれ、アスナ」

「それなら……いいよ」

「絶対だぞ! 言質は取ったからな!」


 すごく嬉しそうな顔をして、ジャムはコーヒーカップに乗って帰って行った。やれやれ。今日は、あんまり深い話はできなかったなぁ。また来週、そのときには、シャリアディースも結界のことを話しているだろうし……。


「まぁ、いっか」


 なんだか、どっと疲れた。

 色んなことを一度に知りすぎちゃったから。


 わたしは玄関を開けて、コッソリ中へ入った。ただいま、は心の中で言う。今は、ここがわたしの家だ。

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