王様の諸事情?
「キャンディがどうしたって言うのよ」
「いや、キャンディスじゃない、その周りにいる人間だ。何もないか?」
「ないわよ」
「なければ、いい。……そんな顔しないでくれ。親の言葉を聞き流せる娘ばかりじゃないんだ。こればかりはオレの力不足のせいだ、責めるならオレを責めろ」
キャンディは元々ジャムの婚約者だったから、それに関係してってことなのかな。でもそれって学園の中ではタブーみたいに扱われてるんだよね。キャンディが大勢の寮生の前であんなカミングアウトしちゃったから。そういえば、テストが終わるくらいまでの間、チョコとキャラメルがきゃんきゃん言ってたもんね。そういうこと?
ジャムが口を閉じると、ちょうどタイミング良く料理が出てきた。濃くて美味しいオレンジジュースとカラフルな野菜のソテー。見た目もオシャレだけどかかってるソースが絶品! 続けてパスタ料理が出てきた。花がたくさん散らしてあって見た目がすごく個性的だ。……食べて大丈夫かなこれ?
「オレは、アスナを利用したんだぞ? 怒ってないのか?」
「えっ?」
パスタはニンニクのきいた塩味ですごく美味しかった! 感じとしては菜の花のパスタとかに似てる。ベーコンがアクセントになっていて、もうこれひと皿で満足しそう。けど、やっぱり量が少なめだから、メインディッシュに期待しちゃうな〜。なんて、思ってたら、ジャムがすごく真面目な顔してわたしを見てた。
どうしよう、何も頭に入ってない!
「お前を、キャンディスの身代わりにしてしまった。オレの力じゃ、結婚相手を選べないし、断れもしなかったんだ。キャンディスのことは妹同然に思っているが、血縁なだけで妹じゃない。向こうにもその気はないのがわかっていて、それでもどうしても断れなかったんだ」
「……前にも、そう言ってたね」
「ああ。だが、もうどうにも引き延ばせずに、キャンディスのマリエ・プティへの入学が決まってしまった。もう婚約式まで秒読みだった。そこへ、アスナがやってきたんだ」
マリエ・プティは花嫁修業のための学校だ。わたしは入学式前に無理やりねじ込まれたわけだけど、キャンディはわたしより先に寮に入っていたもんね。三年後には、ジャムと結婚するって決まってたのかぁ。
そして、今はわたしがジャムの婚約者なわけね。それもあくまで、非公式だけど。
「でも、どうして? 結婚相手を自由に選べないはずなのに、どうしてわたしをキャンディの代わりになんてできたの?」
あのときはなにも疑問に感じなかった。だって、王様ならなんでも好き勝手できるんだなぁって思ってたから。でも、今は違う。ジャムは仕事を頑張ってるし慕われてる。その分、立場が弱いみたいだけど。
「オレは王だ。だから結婚相手は限られる。キャンディスは家柄も魔力も年齢も、すべてが申し分なかった」
「じゃあ……」
「だが、アスナはディースの推薦だ。ジルヴェストの繁栄を約束する、精霊に愛された少女だとな」
初耳ぃ!
あんの銀シャリ!
「そんなの、言われてない……」
「そうだったか? とにかく、困っていたオレのところへアスナが都合よく現れたんだ。オレはそれを利用した。帰る場所もない少女なんて、贅沢な暮らしを約束してやれば簡単に頷くと思っていた。オレが口説いてなびかない女はいなかったしな」
「うわ……」
「だって王だぞ? それにこの顔、あふれる気品、誰だってオチるだろ!」
「ないわ〜」
ホントにないわ〜。
あと十五年くらいしてから出直してきてくれる〜?
「まぁ、オレのしようとしたことは言い訳できないくらい最低だったってことだ」
「ふ〜〜ん。あ、ステーキ美味しい」
「それは良かったな」
ジャムの話より何より、ステーキが柔らかくて美味しいことのほうが重要だよ。厚みがあるのにこんなに抵抗なく切れちゃうなんて!
お城での食事はいつも美味しいし、寮の家庭的な味も大好きなんだけど、このディナーは格別! 一番最初にこれを出されてたら、オッケーしてたかもしんない……あっぶない危ない!
「あ。待って、じゃあ結局わたしの立場って?」
「大臣たちに顔合わせもしていないし、婚約式もしていないから、今はただオレが勝手に結婚したがっている相手というだけだ。つまり候補なだけ。アスナはいつでも好きに出ていけるし、候補という立場も辞退していい」
「へー。じゃあキャンディは?」
「アイツも婚約式を挙げてないから、アスナと大体条件は同じだ。ただ、家のこともあるし、学園に通いたいから辞退はしないそうだ。あ、これは親書でオレだけに伝えられた内容だから、他所で言ってくれるなよ」
「もちろんだよ」
って、辞退したら学園にいられなくなっちゃうのか!
そりゃそうだ、花嫁修行のための学校だもんね。でも、キャンディスが学園に残る理由って……?
「アスナも、辞退するなら学園での用事が済んでからにしろよ? あの場所が一番情報が集まるんだ。それに、オレの保護を外れると、住む場所や働く場所まではなかなか行き届かなくなってしまう。手配はするが、あまり期待するなよ、贔屓になるからな」
「あっ、そうなるのか。でも、もう一度聞くけど、なんでそこまでしてくれるの?」
「…………怒らないか?」
ジャムは、イタズラが見つかった子どもみたいな顔になった。コイツも、日本にいればわたしと同じ高校生、まだガキなんだよね。わたしはつい笑顔になってしまった。
「場合によってはぶん殴る」
「場合によってぶん殴られるのか!? 拳で!?」
もちろんグーだよ。
「ほら、言いなさいよ」
「う……。そりゃ、最初はなびかない女をオトす遊びとしか思ってなかったけど」
「よし、グーだな」
「待てよ! ちゃんとアスナを見て、話をして、興味がわいたのも事実だ! だからちゃんと便宜も図ってやっただろ? ギズヴァイン教授にアスナの手助けをしてくれるように頼んだのはオレだぞ?」
「先生に? あ、そっか。確かに」
「そのおかげで、学園の教授陣はアスナに協力的なハズだ。帰る手段を探すことも、邪魔が入らないように頼んだんだ」
「じゃあ、結婚を断ったのに、わたしのことを学園に入れてくれたのって……」
でも、確かにそうだ。この国で生きていくために働いてお金を稼がなくちゃいけなかったとしたら、帰り道を探すための時間の余裕なんて、なかったかもしれない。もし両立できていても、今の何倍もの時間がかかっていたと思う。
「ありがと、ジャム」
「お前は、オレを利用しようとしなかったからな。まぁ、それは期待されてないって意味だから、ちょっと複雑な気持ちだが」
そんな風に考えたことなかったな。
ジャムはそれきり、その話題には触れなかった。その代わり、わたしが手作りして持ってきたマドレーヌや、学園での生活について聞いてきた。ジャムとの会話は、思ったよりも楽しかった。




