ケーキと恋バナ? 何の話してたんだっけ?
「ほら、座って座って。お茶くらいオゴるからさ~」
「ここのお茶って飲み放題じゃありませんの! せめてケーキ!」
「ですわ、ですわ!」
「ちぇ、ちゃっかりしてるわね」
幸い、おこづかいにはまだ余裕があったので、わたしのと合わせて三人分のケーキを注文する。ホイップクリームたっぷりの苺ショートだ。
「で、ふたりはどのくらい知ってるの?」
シャリアディースに関して、と小声で付け加える。
「どうもこうも、お会いしたことがありませんもの」
「おいおい」
「記念式典などの行事でちらっと、くらいは」
「かっこよかったですわ~」
やめとけ、チョコ。アイツには関わらないほうがいい。
「かっこいいといえば、陛下ですわよね~」
「ですわですわ~」
「え~? ふたりともあんなのが好みなわけ~?」
「失礼ですわよ、アスナ!」
わたしはもっと、渋いナイスミドルがいいなぁ。どこか陰のあるようなイケメンでもいいし、にこやかな塾講師とかも捨てがたい。まあ、こういう話題で賛同が得られることは少ないから、ふたりとの趣味の違いは置いておこう。
「陛下を愛称で呼ぶことが許されてるなんて、羨ましいですわ~」
「本当です~!」
「いつでも代わってあげるよ」
「そんな恐れ多いこと無理ですわ!」
「ココには未来の旦那様がいらっしゃるの~!」
「それを言うなら私もですわよ」
そういえば、すっかり忘れてたけど、ここって花嫁修業のための学校だったわ。
「ふたりとも、婚約者っているんだね」
「ええ。私の婚約者は幼馴染なんですの。病気のことで心配をかけてしまっているけど、学園に通うのは必要なことだから……。無事に卒業すればココは、ココ・アーモルディ夫人になるのですわ」
そうだよね、病気の発作は心配だよね。でも、魔力回復の最終手段を考えれば、ちゃんと卒業して結婚する資格を得たいと思うのも当たり前だもん。頑張ってるんだね、ココ。
「私は政略結婚ですわ。卒業後はマキアヴェッリ家に嫁ぎますの」
「えっ、そうなの?」
「ですわ。でも、直前の顔合わせで意気投合してしまって、今ではすっかり戦友みたいな関係なんですの。いい成績で卒業して、盛大な結婚式を挙げますわ!」
「すてき! アスナ、私の式にも来てくださいね」
「私のもですわ!」
「ああ、うん……」
飛び級なしだと卒業は三年後、ふたりの結婚式に出てるってことは、わたし、ジャムの花嫁になってないソレ?
「わたしは結婚したくないんだけど、キャンディはどうするのかな……?」
そう言うと、ふたりは急に黙ってしまった。
キャンディは元々、ジャムの婚約者。お互いに「結婚したくない」と思っていたけど、その周囲はお祝いムードだった。横から割り込んできたわたしとキャンディが友達になっちゃって、それだけじゃなくキャンディはわたしに恋しちゃってて……。正直に言って、わけわかんない状況になってるのは確かだね。
「まあ、言っても仕方がないけどね」
わたしがそう言うと、キャラメルが迷いながら口を開いた。
「私、キャンディス様がなさりたいことをすればいいと思いますわ」
「そうですわ。わたしも、キャンディス様が幸せなら、それでいいですわ。相手が、たとえアスナでも」
「いや、そこはわたしが断るからね?」
何言ってくれちゃってんの!?
わたしもキャンディには幸せになってほしいけど、そういう趣味はないから全力でお断わりだ!
結局、時間をかけたわりには得られるものは少なかった。キャラメルもチョコも、どこかで聞いたような噂以上の情報は持ってなかったし。それにしても、結婚かぁ。キャラメルマキアートにアーモンドチョコ。美味しそう。
ケーキの代金としてデンショキについても教えてもらった。わたしの想像はだいたい合ってて、手紙や小包とかの軽いものを届けてくれる魔法道具のことを伝書機と言うんだって。作られた最初は鳥の形をしてたから、伝書バードって呼ばれてたみたい。本当かなぁ?
でも、今は色んな形をしている伝書機があふれかえっている。聞くところによるとキャンディスの伝書機は大きな白い鳥なんだって。チョコは茶色いクマのぬいぐるみ、キャラメルはトランク。実用的だね。
住所がわからないと使えないのかなって思ったら、そこは魔法のおかげか、思い浮かべるだけでいいみたい。伝書機は学園や寮でも貸してくれるって言うから、ドーナツさんには手紙を書いて、伝書機で届けようと思う。
調べ物をするなら、 学園の図書館が一番だってみんな口を揃えて言う。お城の図書館は法律の書類や記録でいっぱいだし、町の図書館は娯楽の読み物ばっかり。わたしの知りたいことのほとんどは、学園の図書館にある本が詳しいし、そういうことを調べている先生も学園にいる。
直接お金にならない研究でも、ここでならのびのびやれるって、なぜか図書館で年配のおじいちゃん先生につかまって熱弁をふるわれた。おかげで精霊に関する本は借りられたけど、読むヒマはなかったかな。
おじいちゃん先生の話をまとめると、この世界を作ったのが精霊というやつらしい。ギリシャとかローマみたいに神様がいっぱいいるところを想像して、その神様を精霊に書き替えたら正解。光とか闇とか、炎とか風とか、色んな役割を持った精霊がいるんだってさ。ゲームっぽくなってきたね!
精霊は世界のルールを作る存在で、人間の暮らしには干渉してこないの。どうしても雨を降らせてほしい時、お願いしても特に叶えてはくれない。でも、普通はできない、そういうお願いを叶えてもらえるひともいるんだって。それが「精霊のミコ」っていう存在。そういう一族が存在しているとかいないとか……どっちなの!?
「いや~、いるという噂なんじゃが、その一族は自分たちの秘密を一切もらさんもんでな。どこに住んでいるのかも、今まだ巫女がいらっしゃるのかも、まったくわからんのじゃ」
なんて意味のない……。
おじいちゃん先生はしゃべりたいだけしゃべって行ってしまった。オススメされた大量の本の中から「これだけは読んでおけ」と言われた三冊を借りて寮に帰る。調べもの調べもの、これ、いつまでに読み終われるかな?




