第78話 倉庫 ~side Yui~
ルクス・ヴァルキュリア内部。
第三居住ブロック下層。
そこはまだ、ほとんど探索されていなかった。
巨大すぎるのだ。
10km級艦。その区画数そのものが異常だった。
未使用エリアだけで、小都市規模はある。
その薄暗い通路を、レータが静かに歩いていた。
後ろにはイリス、少し離れてユイ。
そしてクロエ、クロエが端末を見ながらぼやく。
「ほんと何なのこの艦……」
「構造図と実際の空間が噛み合ってない」
レータは壁へ軽く触れる、真顔だった。
「……ここ、おかしいです」
ユイが即座に返す。
「気のせい」
クロエが振り返る。
「いや早くない?」
レータは気にせず続ける。
「内部容積が合いません」
「この壁の向こう、空間があります」
ユイが少し視線を逸らす。
「気のせい」
その時、イリスが静かに壁を見る。
数秒、そして小さく言った。
「……います」
ユイが止まる、クロエが眉を上げる。
「いる?」
イリスは小さく頷く。
「いっぱい」
ユイが露骨に焦った。
「イリス」
「はい?」
「それ以上言わなくていいから」
完全に怪しい、クロエがニヤけ始める。
「へぇ?」
レータも静かに追撃する。
「ユイ、知っていますね」
「知らない」
「心拍上昇しています」
「レータ」
「はい?」
天然だった、悪気ゼロ。
ユイが頭を押さえる。
数分後、隠蔽隔壁前。
クロエが端末接続。
「うわ、本当に隠されてる」
「しかも帝国上層暗号式」
ユイが諦めたようにため息を吐く。
「……別に大したものじゃない」
クロエが笑う。
「絶対大したものじゃん」
隔壁がゆっくり開く、そして。
全員止まった。
広い。
巨大格納区画だった。
しかも、中身が異常だった。
廃棄予定GD。
修復途中機、旧型帝国機。
解体前試作機。
大量の旧型パーツ、さらに。
PT保護用簡易カプセル。
生活維持ユニット、医療設備。
完全に“隠し避難区画”だった。
クロエが呆然とする。
「……何これ」
レータは静かに周囲を見る。
「保護区画ですか?」
ユイは少し気まずそうに目を逸らす。
「……捨てられる予定だったから」
「だから持ってきた」
「廃棄搬入リストに紛れ込ませて、解体待ちの名目でここへ回したの」
「ルクスの深層倉庫なら、誰もすぐには確認しないと思ったから」
クロエが振り返る。
「持ってきた!?」
ユイは少しムッとする。
「しょうがないでしょ」
「解体されるって聞いたし」
「PTも一緒に処分されそうだったし」
その時、イリスが格納機体を見る。
「……一機ずつ足りません」
空気が止まる、クロエが端末を見る。
「ほんとだ」
「型番連番なのに、何故か一機ずつ欠番になってる」
レータがユイを見る。
「ユイが?」
ユイは観念したように言った。
「……抜いた」
クロエが吹き出す。
「何やってんの!?」
ユイが少し言い返す。
「だって廃棄されるって言われたから!」
「まだ使えたし!」
「あとちょっと可哀想だったし!」
クロエが頭を抱える。
「帝国の最重要機密艦で何してんのこの人!?」
その時。
レータが一機の試作GD前で止まる。
白銀装甲、未完成頭部。
どこか女性的シルエット。
レータが静かに聞く。
「……これも?」
ユイは少し黙る、やがて小さく頷いた。
「試験失敗機」
「でも処分されるだけだった」
イリスがその機体へ触れる。
「寂しそうです」
ユイが少し苦笑する。
「イリスまでそんな事言うようになったんだ」
イリスは少し考える、そして静かに言った。
「……ユイの影響です」
ユイが少し止まる、その言葉が、
妙に嬉しかった、その時。
クロエが区画奥を見る。
さらに大型隔壁、その奥にも何かある。
クロエが苦笑する。
「……まだあるの?」
ユイが視線を逸らす。
「……少し」
「少し?」
「本当に少し」
レータが静かに言う。
「増えますね」
「何が」
「ユイの秘密倉庫」
クロエが笑い出す、イリスも少しだけ笑った。
その空気を見ながら、ユイは小さく息を吐く。
隠していた。ずっと。
捨てられるもの。壊されるもの。消されるもの。
だから拾っていた。
助けられるなら、助けたかった。多分、それだけだった。
巨大なルクス・ヴァルキュリアの奥で。
帝国が隠していた箱舟の中に、さらにユイだけの、
小さな避難所が眠っていた。
その時、後ろから小さくため息。
「……やっぱり」
ミオだった、クロエが振り返る。
「え、ミオ知ってたの?」
ミオは少し呆れた顔でユイを見る。
「昔からこうなのよ、この子」
ユイが即座に反応する。
「こうって何」
「壊れる物とか、捨てられる物見ると放っとけないの」
レータが静かに頷く。
「理解できます」
「増やさないで」
ミオは格納区画を見回す、廃棄予定GD。
修復途中機、保護カプセル。
全部整理されていた。
雑に隠しているようで、妙に丁寧だった。
ミオが少し笑う。
「……ほんと変わってない」
ユイは少し視線を逸らす。
「別に」
「どうせ誰も助けないなら、拾うくらいするでしょ」
その言葉に、ミオの表情が少し柔らかくなる。
昔からそうだった、敵とか味方とか関係なく、
ユイは“捨てられる側”を放っておけない。
だから今ここには、こんな秘密倉庫まで出来ている。
クロエが苦笑する。
「いや規模がおかしいのよ」
「普通こんな隠し区画作らないから」
ユイは少しだけ小さく笑った。




