第54話 ヴァイス・リッパー ~side Raven~
ナユを乗せてから、さらにしばらく後。
赤い警報灯が廃墟都市を照らしていた。
《アース・デッドエンド》。
帝国旧制圧区域。
崩壊した軍港地帯。
クロウヴェイルは半壊したドック跡へ強引に接続されていた。
「右側固定アーム保持!」
「おいそのまま動かすな!」
「ミサイルラック落ちるぞ!」
怒鳴り声が響く。
グリッドが整備区画で暴れていた。
クロウヴェイルは今、半ば解体状態だった。
アース・デッドエンド周辺から回収した帝国残骸。
放棄艦。
旧兵装。
その全てを無理矢理継ぎ足している。
元々輸送艦だったクロウヴェイルへ、少しずつ武装が増え始めていた。
右舷側。
旧式実体弾砲増設。
船腹には簡易ミサイルコンテナ。
さらに外装装甲も追加溶接されている。
当然、バランスは最悪だった。
「こんなの飛ぶの?」
リノヴァが呆れ顔で言う。
グリッドは工具を振り回した。
「飛ばすんだよ!」
「そのうち船体真っ二つになりそうなんだけど」
「その前に帝国に撃ち落とされる!」
いつものやり取り。
だが少しだけ違った。
クロウヴェイルはもう、“逃げるだけの船”ではなくなり始めている。
その時。
艦橋モニターへ警告が走った。
『帝国軍反応』
『戦闘区域接近』
空気が変わる。
カイルが顔を上げた。
モニター。
崩壊都市中央。
旧搬送区画。
そこへ複数のGD反応が集まっている。
リノヴァが眉を寄せる。
「……掃討戦?」
「いや」
カイルは静かに言う。
「処分だ」
映像拡大。
崩壊した高架道路。
その上を一機のGDが高速移動していた。
白銀に赤の機体。
損傷多数。片腕破損。だが異常な速度で動いている。
後方。
帝国側GD部隊。包囲。集中砲火。
普通ならとっくに落ちている。
しかし、
白銀機はまだ動く。
異常なほど。
グリッドが低く呟いた。
「……何だあれ」
次の瞬間。
白銀機が一気に加速する。
崩壊ビル壁面を蹴る。
残像。
そのまま帝国GDの首を切断。
火花。
爆発。
さらに二機目。
高速機動。
斬撃。
一瞬だった。
リノヴァが顔をしかめる。
「速すぎる……」
モニター内。
白銀機は止まらない。
まるで壊れる事を前提に動いている。
だが次の瞬間。
機体動作が急に乱れた。
片膝をつく。
出力低下。
限界だった。
帝国側通信が流れる。
『対象機体損耗率限界確認』
『PT-R系列、処分フェーズへ移行』
その言葉で空気が変わる。
ナユが小さく顔を上げた。
「……PT」
モニター。
白銀機。
コクピット外装一部損壊。
そこから一瞬だけ見えた。
鉄灰色の髪。銀というより、刃の背を思わせる鈍い灰色だった。
『対象は制御不能』
『回収不要』
『処分を優先』
感情のない通信。
完全に兵器扱いだった。
カイルは数秒黙る。
そして短く言った。
「出るぞ」
リノヴァが即座に振り返る。
「はぁ!?」
「今クロウヴェイル半分バラしてるのよ!?」
「飛べるか」
グリッドが顔を歪める。
「……ギリギリなら」
「十分だ」
「十分じゃない!」
だがカイルは既に格納庫へ向かっていた。
ナユも静かに立ち上がる。
崩壊都市。
白銀機はまだ戦っていた。
だが動きが鈍い。
帝国GD部隊が包囲を狭める。
『処分を継続』
『PT-R系列機、機能停止を確認する』
その瞬間。
空から砲撃が落ちた。
爆発。
帝国GD部隊が吹き飛ぶ。
全員が上を見る。
黒い艦影。
《クロウヴェイル》。
追加実体弾砲が火を吹いていた。
リノヴァの声が通信へ響く。
『本当に出しちゃったぁ……!』
『だから言ったのよこの船まだ危ないって!』
その後ろでグリッドが怒鳴る。
『右舷ミサイルまだ固定甘ぇぞ!』
『落ちたら誰が責任取るんだ!』
『知らないわよ!』
いつも通り騒がしい。
しかし、その砲撃だけは確かだった。
帝国GD部隊が後退する。
白銀機――リンが、ゆっくり顔を上げる。
赤い瞳。
その目に映る。
ボロボロの黒い船。
継ぎ接ぎだらけ。
煙まで吹いている。
なのに、何故かまだ飛んでいた。
カイルの機体が都市へ降下する。
リンは警戒する。
だが既に限界だった。
機体出力低下。
制御不安定。
それでも彼女は剣を握る。
壊れた兵器みたいに。
カイルは静かに通信を開く。
「もういい」
リンは動きを止める。
「……何」
「お前、捨てられたんだろ」
短い沈黙。
リンは答えない。
だが否定もしなかった。
遠くでクロウヴェイルの砲撃がまた響く。
その音だけが、静かな雪の街へ広がっていった。




