第41話 アルタイル ~side Kaito~
大型整備区画には、普段とは違う緊張感が漂っていた。
整備員達が忙しなく行き交い、各種モニターにはベヒモス戦の記録と損傷データが並んでいる。
戦闘は終わった。だが、格納庫の空気だけはまだ戦場の延長にあった。
その中央に置かれているのは、本来は白と青だった装甲を焼け焦がした試作機――アルタイルだった。
半壊状態。 左腕部は完全に失われ、胸部装甲にも大きな亀裂が走っている。
しかし、それでも異様な存在感を放っていた。
「これ、本当に動くのか……?」
カイトが呟く。 隣ではミオも機体を見上げていた。
「なんか……レヴァンと全然違うね」
レヴァン改修案が現行機の延命だとすれば、アルタイルは先行試験機だった。
そして、その先にある次世代LF計画は、さらに別の段階にある。
カイトはその違いを、目の前の機体を見上げながらようやく理解し始めていた。
アルタイルは、最初から別物だった。
フレーム構造、出力系統、装甲配置。
どれも通常のルミナス・フレームとは設計思想が違っていた。
その時、後方から足音が響く。
「当然だ」
レイだった。 その後ろにはリクトとカナデの姿もある。
レイはアルタイルを見上げながら言った。
「元々、対PT戦を想定して作られた機体だからな」
カイトが表情を変える。
「対PT……」
ベヒモス事件で確信した。 帝国側には、今までとは次元の違う兵器が存在している。
通常LFでは限界が近い。 レイは続けた。
「本来はまだ調整段階だった。だが予定を変える」
そう言って視線を向ける。
「次の戦いまで時間が無い」
空気が静まる。 誰も否定できなかった。
帝国は撤退した。
だが、終わったわけではない。
むしろ、ようやく本格的に動き始めたのだ。
その時、カナデが端末を操作する。 モニターへ新しい設計図が表示された。
レヴァン。 そして、その横へ別のフレーム図が重なる。
「これって……」
ミオが目を丸くする。 カナデは頷いた。
「レヴァン改修案」
表示されたのは、現在機とは大きく異なるシルエットだった。
追加推進器。新型出力ユニット。外部接続フレーム。
現状のレヴァンを土台にしながらも、かなり無理を通した設計になっている。
リクトが苦笑する。
「相変わらず無茶苦茶だな」
「仕方ないでしょ」
カナデは真面目な顔だった。
「ベヒモス級がまた出たら、現行LFじゃ止められない」
その言葉に空気が重くなる。 誰も反論しない。
実際、今回の戦いで全員理解していた。
今のままでは勝てない。 その時、レイがアルタイルへ視線を向けたまま口を開く。
「アルタイルは、あくまで先行試験機だ」
静かな声だった。
「本命は別にある」
カイトが顔を上げる。
「別?」
レイは少しだけ黙り込む。 そして低く言った。
「次世代LF計画」
その言葉に、カナデまで表情を変えた。
リクトが呆れたように息を吐く。
「本当にやるのかよ……」
「やらなければ終わる」
レイは即答した。 迷いが無い。 ベヒモス。
PT。
帝国艦隊。
あれを見た以上、もう以前の延長では戦えない。
レイはゆっくり振り返る。 その視線がカイトへ向く。
「カイト」
突然名前を呼ばれ、少しだけ身構える。
レイは真っ直ぐ言った。
「お前にも協力してもらう」
「……俺が?」
「ああ」
レイは頷く。
「実戦データが必要だ」
レヴァン。アルタイル。そして次世代LF。
今回の戦闘で得られたデータは、それほど重要だった。
カイトは少しだけ黙り込む。 正直、まだ頭の整理は追いついていない。
ユイの事。帝国の事。ベヒモスの事。
全部が急に変わりすぎた。
しかし、それでも一つだけは分かる。
止まっている時間は無い。 カイトは小さく息を吐く。
「……分かった」
その返事を聞き、レイは静かに頷いた。
その時だった。 格納庫全体の照明が一瞬だけ落ちる。
直後、大型モニターへ緊急通信が表示された。
『高次元反応を確認』
オペレーターの緊張した声が響く。
『帝国側転移反応……再観測されました』
空気が変わる。 誰も言葉を発しない。
レイは静かにモニターを見上げる。 その目だけが鋭く細められていた。
「……もう来るか」




