第314話 レグナリア包囲
研究中枢外層から取得した記録は、すぐに隔離端末へ移された。
オリジナル六名の記録。
ノクス・リリス封印理由の一部。
命令層思想記録。
そして、監察局がPT達をどう分類し直しているかを示す断片。
そのすべてが、ルクス・ヴァルキュリアにとって重要だった。
だが、記録を得たということは、監察局にとっても意味がある。
こちらが何を知ったのか。
何に反応したのか。
どの記録で揺れ、どの言葉で持ち直したのか。
監察局は、それを見ている。
そして、次の手を打ってきた。
レグナリア周辺宙域に、包囲網が形成されていた。
ルクス・ヴァルキュリア艦橋。
前方画面には、帝国中央軍港『レグナリア』周辺の艦隊配置が映し出されていた。
通常軍艦艇。
監察局識別ビーコン。
特殊GD待機反応。
カルディア・ベイ方面から伸びる封鎖線。
研究中枢外層からの離脱経路を塞ぐように配置された誘導網。
黒瀬が状況を読み上げる。
「レグナリア周辺に通常軍艦隊が展開。中心はドレッドノート級殲滅艦『グラトン』。レオン隊です」
ジンが眉を動かす。
「レオンが前に出たか」
「はい。ただし、通常軍の防衛配置としては合理的です。こちらの進路を塞いではいますが、監察局の処置区域へ一直線に誘導する形ではありません」
カイトが画面を見る。
「じゃあ、レオンは普通に止めに来てる?」
「そう見ていいです」
黒瀬は頷いた。
「ただし、監察局はその通常軍配置を利用しようとしています」
画面の一部が拡大される。
通常軍艦隊の後方。
そこに、監察局のビーコン群が薄く広がっていた。
通常軍の防衛線に隠れるように、タナトスの隔離場反応が微かに伸びている。
さらに遠距離には、モルスの座標固定反応が複数浮かんでいた。
ナユが静かに言う。
「偽残響もあります。前より薄いですが、通常軍艦艇の反応に重ねています」
リンが通信越しに低く返す。
『通常軍を盾にしているな』
「はい」
ナユの声は硬い。
「モルスの座標固定が、通常軍艦艇の推進残響と混ざっています。撃つ場所を間違えると、通常軍艦へ当たる可能性があります」
セラの表情が引き締まる。
『それを狙っているんですね』
黒瀬が答える。
「可能性が高いです。監察局は、こちらに通常軍を攻撃させるか、攻撃をためらわせるか。そのどちらでもデータを得られます」
ジンは低く言った。
「性格が悪いな」
「監察局らしいです」
黒瀬の返答は冷たかった。
レグナリア防衛線。
帝国通常軍艦『グラトン』艦橋。
レオンは、前方に映るルクス・ヴァルキュリアを見ていた。
敵艦だ。
第一防衛圏を抜け、レグナリアに接近し、カルディア・ベイへ侵入し、研究中枢外層の記録まで取得した。
通常軍として見逃せる相手ではない。
だから、レオンは前に出た。
だが、彼の配置は、監察局が望んだものとは違う。
クラウスが報告する。
「監察局より再要請。通常軍艦艇を二列後退させ、対象艦を指定処置区域へ誘導せよ、とのことです」
「却下だ」
レオンは即答した。
「防衛線が薄くなる」
「監察局は、処置区域で対象艦を拘束可能と主張しています」
「拘束する前に、カルディア・ベイとレグナリアの中間防衛線が崩れる」
クラウスは淡々と頷いた。
「その理由で返信します」
「加えて伝えろ。通常軍艦艇を監察局の遮蔽物として使用する配置は認めない」
艦橋の一部が静かになる。
クラウスが少しだけ目を細めた。
「かなり直接的な文言になります」
「直接言わなければ分からん相手だ」
「了解しました」
クラウスは端末へ入力する。
その時、監察局系の照合反応が、通常軍艦隊の後方に薄く広がった。
レオンはそれを見逃さなかった。
「クラウス」
「確認しています。監察局ビーコン、通常軍艦艇の推進残響に重ねて展開中。モルス系座標固定反応も混在」
レオンの目が冷たくなる。
「こちらの艦を、偽残響の隠れ蓑にするつもりか」
「その可能性が高いです」
レオンは低く言った。
「監察局ビーコンへ警告。通常軍識別圏内から退去しろ」
「従わない場合は」
「撃ち落とす」
クラウスは一瞬だけ間を置き、頷いた。
「了解」
ルクス側の出撃部隊が、包囲線へ向かった。
カイトのアルタイル・ノヴァ・ブレイスが前衛。
ユイはヴェルディアで支援防護。
ミオはルナ・スケイル・リフレクトで支援網を狭く展開。
ナユはロス・セレネで残響を拾い、リンが護衛。
セラは後方で狙撃待機。
レイは短時間の近接突破に備え、カイルは外周で全体判断に入っている。
ノクス・レクイエムは出していない。
ジンの指示は明確だった。
『研究中枢記録を持ち帰ることが最優先だ。通常軍との全面戦闘は避ける。監察局の誘導には乗るな』
黒瀬が続ける。
『監察局は、通常軍を利用してこちらの判断を分散させようとしています。射撃、切断、支援網拡張、すべて慎重に』
カイトが短く答える。
『了解』
前方に、通常軍の艦隊が見える。
その中でも、ひときわ巨大な艦影。
『グラトン』。
レオンの艦だ。
通信が開いた。
『ルクス・ヴァルキュリアへ』
レオンの声だった。
『これより先は、帝国中央軍港レグナリア防衛圏である。通常軍として、貴艦の通過を認めない』
ジンが通信に出る。
「こちらも、無用な交戦は望まん。研究中枢外層から離脱する。追撃をやめろ」
『それを認める立場にはない』
レオンの返答は冷静だった。
『貴艦は本国圏防衛線を突破し、機密記録に接触した。通常軍としては止める』
「監察局の処置区域へ追い込むつもりか」
『ない』
レオンは即答した。
『だが、逃がすつもりもない』
カイトは思わず呟いた。
「分かりやすいな……」
ユイが静かに言う。
「敵ですが、監察局とは違います」
ジンは通信で返す。
「ならば、こちらも正面突破ではなく、離脱路を探す」
『探せるならな』
通信は切れた。
戦闘は、すぐには始まらなかった。
通常軍は前進してくる。
だが、監察局のように絡め取る動きではない。
防衛線を押し出し、ルクス側の進路を制限する。
一方で、監察局はその隙間にビーコンを忍ばせていた。
通常軍の砲撃予兆、推進残響、通信反応。
その中に、偽残響と座標固定反応を混ぜてくる。
ナユが苦しげに言う。
「通常軍の残響と、モルスの残響が重なっています。見分けにくいです」
リンが周囲のビーコンを斬り払う。
『近づいたものだけ落とす。全部見ようとするな』
「はい」
セラが照準を合わせる。
『撃てる位置はあります。でも、通常軍艦艇の推進残響が近いです』
黒瀬が即座に答える。
『射撃保留。監察局ビーコンと確認できるまで撃たないでください』
その瞬間、タナトスの隔離場が、通常軍艦列の影から伸びた。
狙いはカイトではない。
ミオの支援網と、ナユの残響索敵を繋ぐ節点だった。
ミオが声を上げる。
『隔離場、支援節点へ接近!』
カイトが前へ出る。
『またそこか!』
アルタイル・ノヴァ・ブレイスが隔離場の外縁へ斬り込む。
だが、タナトスは前回と同じように形を変え、支援線だけを裂こうとする。
その背後で、通常軍艦艇が砲撃体勢に入った。
撃てばカイトに圧力がかかる。
避ければ支援線が薄くなる。
そして、その隙間に監察局の処置区域がある。
監察局の意図は明らかだった。
通常軍を壁にし、監察局の装置で絡め取る。
グラトン艦橋。
レオンは、その動きを見ていた。
「監察局ビーコン、通常軍砲撃線に重なりました」
クラウスが報告する。
「タナトス隔離場、我が艦隊の砲撃圧と連動する形で展開中」
レオンの表情が険しくなる。
「こちらの砲撃を、拘束の補助に使うつもりか」
「そのようです」
「全艦、砲撃軸を変更。監察局ビーコンが重なった射線は使用するな」
砲術担当が一瞬戸惑う。
「しかし、それではルクス側への圧力が下がります」
「構わん」
レオンは即答した。
「通常軍の砲撃は、通常軍の判断で撃つ。監察局の拘束装置の付属品ではない」
「了解」
通常軍艦艇の砲撃軸がわずかにずれる。
ルクス側から見れば、それは小さな変化だった。
だが、監察局の計算は崩れる。
タナトスの隔離場と、通常軍砲撃圧の重なりが外れた。
ルクス艦橋。
黒瀬が即座に反応した。
「通常軍砲撃軸、変更。監察局の隔離場との重なりが外れました」
ジンが目を細める。
「レオンか」
「おそらく」
カイルが通信で言う。
『敵に助けられたって言うとややこしいな』
ジンは短く返す。
「助けたわけではない。自分の砲撃を監察局に使わせなかっただけだ」
『結果は同じだろ』
「意味は違う」
カイルは少し笑った。
『はいはい、艦長殿』
前線では、そのわずかなズレが大きかった。
ミオが支援網を繋ぎ直す。
『支援線、再接続できます!』
イリスが補正を入れる。
『右側、通常軍射線がずれました。リーフガード経由で安全な細道ができます』
ナユが残響を拾う。
「偽残響の一つが浮きました。通常軍反応ではありません。監察局ビーコンです」
セラが照準を合わせる。
『確認、位相一致。撃ちます』
黒瀬が判断する。
『射撃許可。対象、監察局ビーコン限定』
セラの射撃が走る。
通常軍艦艇の推進残響の隙間を抜け、監察局ビーコンだけを撃ち抜いた。
偽残響が一部崩れる。
カイトが前へ出た。
『今なら抜けられる!』
だが、監察局も退かなかった。
タナトスが隔離場を広げ、モルスが遠距離から座標固定を重ねる。
通常軍艦艇の配置を利用できないと見るや、今度はレグナリア周辺の固定構造物を使い始めた。
古い補給ドック。
廃棄された誘導灯。
艦艇係留フレーム。
それらの残響に、偽座標を重ねる。
ナユが頭を押さえる。
「また増えました……!」
リンが前へ出る。
『ナユ、数を読むな。形を読め』
「形……」
『前と同じだ。全部拾うな』
ナユは呼吸を整えた。
残響を広げるのではなく、絞る。
広域全体ではなく、ルクスの離脱路に関わる座標だけを見る。
その時、カイルの通信が入った。
『ナユ、外周から見て左下に古い係留フレームがある。そこだけ残響が遅れてる。偽装に使われてるかもしれない』
「確認します」
ナユは残響波を絞り、指定された係留フレームを見る。
そこに、薄い座標固定反応があった。
「ありました。本命ではないですが、偽残響の中継点です」
セラがすぐに反応する。
『撃てます』
リンが周辺ビーコンを斬り払う。
『撃て。こちらは守る』
黒瀬が確認する。
『対象、廃棄係留フレーム内の監察局中継点。通常軍艦艇への被害なし。射撃許可』
セラが撃つ。
係留フレームの一部が砕け、偽残響の重なりが崩れた。
その瞬間、モルスの本命座標固定が露出する。
ジンが命じる。
「回避。リーフガード、防護層を展開。ミオ、支援線を離脱路へ寄せろ!」
『了解!』
ミオの支援網が細く伸びる。
GF-07リーフガードが防護層を張り、ユイのヴェルディアがその隙間を支える。
カイトとレイが前方の通常軍圧力を受け流す。
レオン隊の砲撃は来る。
だが、監察局の拘束と連動していない。
純粋に防衛線としての砲撃だ。
だから、読める。
避けられる。
押し返せる。
監察局管制区画。
局員が報告する。
「通常軍砲撃軸、再度変更。タナトス隔離場との連動失敗。モルス偽残響中継点、一つ破壊されました」
オルフェン・グラードは、画面を見つめていた。
「レオン司令の判断か」
「はい。通常軍艦艇を観測・拘束補助として使用する配置を拒否しています」
「予想通りだ」
「作戦効率が低下しています」
「問題ではない」
オルフェンは淡々と言った。
「レオン司令は、通常軍の防衛任務を守ろうとしている。その結果、対象艦は監察局の処置区域へ入りにくくなった」
「では、通常軍を利用する案は中止しますか」
「部分的に中止。以後、レオン隊を直接利用する配置は効率が悪い」
局員が記録する。
「対象艦は離脱路を確保しつつあります」
「追いすぎるな」
「よろしいのですか」
「研究中枢記録の一部は、すでに彼らが持っている。その反応を見ることが目的だ」
オルフェンは、ルクス側の連携図を表示した。
「今回も確認できた。通常軍を挟んだ状態でも、彼らは射撃を抑制し、支援網を組み替え、残響を絞り、通常軍への誤射を避けた」
「連携構造は維持されています」
「そうだ」
オルフェンは静かに続けた。
「ならば、第三段階ではさらに内側を狙う」
グラトン艦橋。
戦況は、奇妙な形になっていた。
通常軍はルクス側を止めるために前進している。
監察局は通常軍を利用しようとしている。
ルクス側は、通常軍と全面衝突せずに離脱路を探している。
その結果、通常軍とルクス側が正面からぶつかる場面は少なくなり、監察局のビーコンや偽残響が次々と露出していった。
クラウスが報告する。
「監察局ビーコン三基、ルクス側の射撃により破壊。通常軍艦艇への被害なし」
「こちらの損害は」
「軽微。ルクス側は通常軍艦艇への直接攻撃を避けています」
レオンは画面を見つめた。
「避けているのか、避けさせられているのか」
「両方かと」
クラウスが答える。
「ルクス側は記録を持って離脱を優先。通常軍との全面戦闘は避けたい。こちらも監察局の処置には乗らない。結果として、監察局の隠れ場所が減っています」
レオンは短く息を吐いた。
「妙な戦場だな」
「はい」
「だが、これでいい」
クラウスが顔を向ける。
「追撃は」
「防衛線外へ出るまで圧力をかける。だが、監察局処置区域へ押し込むな」
「了解」
レオンは前方画面を見た。
ルクス・ヴァルキュリアは敵だ。
その認識は変わらない。
だが、監察局の実験場に送り込むために戦うつもりはない。
「通常軍は通常軍として戦う」
レオンは低く言った。
「それだけだ」
ルクス側は、細い離脱路を見つけた。
通常軍の防衛線と監察局の処置区域の間。
レオンが砲撃軸をずらしたことで生まれた、わずかな隙間。
監察局ビーコンをセラが撃ち抜き、ナユが偽残響を見分け、ミオが支援網を細く繋いだ道。
ジンが命じる。
「全艦、離脱路へ。出撃部隊を収容しつつ後退。深追いするな。通常軍にも監察局にも必要以上に撃つな」
カイトが前方で応じる。
『了解。前衛、下がります』
レイが通信で言う。
『通常軍の圧力はまだ来るぞ』
カイルが外周から返す。
『受け流せ。相手も本気で潰しには来てない』
ユイが静かに言う。
「監察局の処置区域には入らない。通常軍の防衛線も壊しすぎない。難しいですね」
カイトが苦笑する。
『でも、できてる』
「はい」
ミオが支援網を細く保つ。
『離脱路、維持します。リーフガード、防護層を外周へ』
ナユが残響を確認する。
「モルスの本命座標固定、後方へ移動。追撃は薄いです」
リンが言う。
『ビーコンはまだ残っている。だが、近づくものは落とす』
セラが照準を下げる。
『通常軍艦艇への射線は取りません。監察局ビーコンのみ狙います』
黒瀬が確認する。
「各員、判断良好。離脱優先」
ルクス・ヴァルキュリアは、包囲網の隙間を抜け始めた。
監察局は追撃しなかった。
正確には、追撃しようとしたが、通常軍の防衛配置が邪魔になった。
レオン隊は、監察局の処置区域へルクスを押し込む配置を取らない。
そのため、タナトスもモルスも、決定的な拘束線を張れなかった。
オルフェンは、それを見ていた。
「対象艦、離脱」
局員が報告する。
「研究中枢記録の一部を保持したまま、レグナリア包囲を突破しました」
「よろしい」
オルフェンは答えた。
「よろしい、ですか」
「彼らは記録を持ち帰る。持ち帰れば、解釈する。解釈すれば、次の自己定義が生まれる」
局員は無言で入力を続ける。
「そして、自己定義が増えれば、それを支える構造も増える」
オルフェンは、ルクス側の連携図を再度開いた。
「その構造を分解する材料も、増える」
ルクス・ヴァルキュリア艦橋。
包囲圏を抜けた後も、艦内の緊張は解けなかった。
損傷は軽微。
出撃部隊にも大きな被害はない。
研究中枢記録も保持している。
だが、これは勝利ではない。
通常軍を突破したわけではない。
監察局を退けたわけでもない。
レオンの判断がなければ、もっと厳しい状況になっていた。
黒瀬が報告する。
「研究中枢記録、保持。隔離端末への再保存完了。監察局ビーコンの混入は確認されていません」
ジンが頷く。
「出撃部隊は」
「全機帰投中。ナユに残響負荷、ミオに支援網負荷、セラに高精度射撃負荷あり。休息が必要です」
「すぐに休ませろ」
「了解」
カイトが通信で言った。
『レオン隊、追ってきませんね』
ジンは画面を見る。
「通常軍の防衛線へ戻ったな」
ユイが静かに言う。
「逃がしてくれたわけではありません」
「そうだ」
ジンは頷いた。
「だが、監察局に渡す気もなかった」
黒瀬が記録する。
レオン隊。
通常軍として包囲に参加。
ルクス側への敵対継続。
監察局による通常軍利用を拒否。
結果的にルクス側の離脱路形成に影響。
将来的な一時的利害一致の可能性、上昇。
カイルが通信で笑う。
『敵なのに、だんだん信用できる敵になってきたな』
ジンが短く返す。
「信用はするな。読むだけにしろ」
『了解』
グラトン艦橋。
ルクス・ヴァルキュリアが包囲を抜けた後、レオンは戦況記録を確認していた。
通常軍艦艇への被害は軽微。
監察局ビーコン複数破壊。
ルクス側は研究中枢記録を保持したまま離脱。
監察局処置区域への誘導は失敗。
クラウスが静かに言う。
「本国からの追及は避けられないかと」
「だろうな」
レオンは短く答えた。
「監察局からは、通常軍防衛配置が対象艦拘束を阻害したとの記録が上がる可能性があります」
「上げさせておけ」
「よろしいのですか」
「こちらからも記録を上げる」
レオンは画面を見た。
「監察局ビーコンが通常軍艦艇の識別圏内へ無断展開。モルス系座標固定反応が通常軍推進残響に重複。通常軍艦艇を遮蔽物および誘導補助として利用しようとした疑いあり」
クラウスの口元がわずかに動いた。
「かなり強い報告になります」
「事実だ」
「了解しました」
レオンは、遠ざかるルクス・ヴァルキュリアの反応を見た。
「次に会えば、また止める」
クラウスは頷く。
「はい」
「だが、監察局の網に放り込むためには戦わない」
「それも報告しますか」
「必要ない」
レオンは静かに言った。
「それは、こちらの線だ」
ルクス・ヴァルキュリアは、レグナリア包囲を抜けた。
研究中枢記録は守られた。
通常軍との全面衝突も避けた。
監察局の処置区域にも入らなかった。
だが、監察局は確実にこちらの連携を見ていた。
通常軍を盾にした偽残響。
タナトスの支援節点切断。
モルスの座標固定。
射撃判断の抑制。
黒瀬の承認手順。
ミオの支援網。
ナユとセラの連携。
レオン隊の拒否線。
すべてが記録されている。
第二段階の終わりが近づいていた。
研究中枢の入口を確保し、オリジナル六名の記録を見て、ノクス・レクイエムの意味を再定義した。
そして、レグナリア包囲を抜けた。
だが、第三段階へ進む前に、ルクス側にはやるべきことがある。
傷ついた支援網を修復する。
疲弊した機体を整備する。
ミオの新しい支援管制案を検討する。
ヴァルクレイド・セレスの重装防衛装備を試す。
そして、重い記録を見続けた彼女たちに、少しだけ息をする時間を与える。
包囲を抜けた艦内に、警報はまだ残っていた。
それでも、ほんのわずかに、次へ進むための余白が生まれていた。




