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第29話 レヴァン ~side Kaito~

アーク・ノア上空。赤黒いGDとユイ機が激しくぶつかり合う。

衝撃波が空気を震わせた。レオン機の槍が横薙ぎに走る。

ユイ機はそれを紙一重で回避し、そのまま距離を取った。

だがレオンは止まらない。

『迷いが動きに出ているぞ、ユイ』

低い笑い声が通信へ混じる。

『そんな状態で戦場へ立つな』

ユイは答えない。代わりに、黒いGDを前へ出す。

その動きは鋭かった。しかし、どこか守りに入っている。

レオンもそれを理解していた。

『……ふん』

赤黒いGDが再加速する。その瞬間だった。

アーク・ノア格納庫。カイトはレヴァンを見上げたまま動けずにいた。

艦内では緊急出撃準備が進んでいる。整備班が怒鳴り合いながら走り回っていた。

ミオは既にガルムへ向かっている。別働隊への出撃要請も飛び交っていた。

なのに、カイトだけが止まっていた。レヴァンへ乗れば、戦場へ出る事になる。

つまり、ユイと戦う事になる。

「……カイト!」

ミオの声が飛ぶ。振り返る。ミオは険しい顔でこちらを見ていた。


「何してんだ!」

「早く乗れ!」

カイトは答えられなかった。頭の中が整理できない。

ユイは敵側にいる。でも、さっきまで必死に戦いを止めようとしていた。

どっちが本当なんだ。何を信じればいい。

その時だった。格納庫全体へ衝撃が走る。

爆発音。警報が一段階大きくなる。

『敵GD、近接防衛ライン突破!』

『上部甲板被弾!』

整備員達の顔色が変わる。ミオが舌打ちする。


「クソ、レオンとかいう奴、滅茶苦茶やりやがる!」

モニターへ映る戦況は悪化していた。

レオン機は明らかに強い。LF部隊が近づけない。

その中で、唯一まともに渡り合っているのがユイ機だった。

しかし。

『……っ』

通信越しに、初めてユイの苦しそうな声が漏れる。

直後、黒いGDが弾き飛ばされた。空中で姿勢を崩す。

ミオの顔が強張った。

「ユイ!」

レオンの声が響く。

『だから言っただろう』

『お前は迷っている』

赤黒いGDが槍を構える。狙いはユイ機だった。

その瞬間。カイトの中で、何かが切れた。

考えるより先に身体が動く。格納庫を駆ける。

ミオが目を見開いた。

「カイト!?」

カイトは止まらない。一直線にレヴァンへ向かう。

その姿を見た整備班が慌て始める。

「お、おい待て!」

「まだ調整終わってねぇ!」

だがカイトは構わなかった。コックピットへ飛び込む。

シートへ身体を固定する。次の瞬間、レヴァンのメインモニターが起動した。

《LF-PT-Y01 起動確認》

《神経同期開始》

警告表示が次々と流れる。

《適正値未調整》

《出力制限未完了》

《戦闘使用非推奨》

全部無視した。カイトは前を見据える。

モニター越しに、ユイ機が再び押される姿が映っていた。

胸の奥が熱くなる。敵とか味方とか、もうどうでもよかった。

ただ、ユイを撃たせたくなかった。その時、通信が繋がる。


『……カイト?』

ユイだった。驚いた声だった。カイトは小さく息を吐く。


「話は後だ」

《レヴァン 発進シークエンス開始》

格納庫前方のカタパルトが開く。

整備班の怒鳴り声が響く。

「本当に出す気か!?」

「止めろ!」

「いやもう止まんねぇ!」

レヴァンの出力が上昇していく。重低音が格納庫全体を震わせた。

その瞬間。カイトは静かに呟く。

「……行くぞ、レヴァン」

次の瞬間。白と淡緑のLFが、夜空へ射出された。

夜空を、淡い翡翠色の光を引いたLFが駆け抜ける。レヴァンだった。

高速飛行による振動がコックピット全体を揺らしている。

だがカイトには、それを気にする余裕は無かった。

正面モニター。そこには、赤黒いGDと交戦するユイ機が映っている。

レオン機の攻撃は重かった。長槍の一撃ごとに空気が裂け、周囲へ衝撃波が広がる。

ユイ機は回避している。だが押されていた。


『……カイト、戻って』

突然、通信が入る。ユイだった。

『レヴァンはまだ調整不足』

『今出れば危険――』

「うるさい」

気づけば、カイトはそう返していた。

通信の向こうでユイが黙る。カイトは前を見据えたまま続ける。


「危険なのは分かってる」

「でも、お前だけ戦わせる気はない」

その瞬間。レオン機が再び突撃した。

赤黒い槍が閃く。ユイ機が受け止めるが、完全には殺しきれない。

火花が散る。機体が大きく後退した。

『……っ』

ユイの苦しそうな声が漏れる。カイトの視界が熱くなる。

次の瞬間。レヴァンが急加速した。爆音。

白い装甲に淡い翡翠色のラインを走らせた機体が、一直線に戦場へ突っ込む。

レオンの目が細くなる。


『ほう』

赤黒いGDが槍を構え直す。

『それが地球側の新型か』

カイトは答えない。ただ、ユイ機の前へ割り込む。

衝撃。次の瞬間、レオンの槍とレヴァンのブレードが激突した。

凄まじい火花が夜空へ散る。重い。カイトは歯を食いしばった。

腕が軋む。レオン機の出力は異常だった。


『面白い』

レオンの声が低く笑う。

『だが浅いな』

直後、槍が捻られる。衝撃。レヴァンが弾き飛ばされた。

カイトの身体がシートへ叩きつけられる。

警告音が鳴り響いた。《右腕部負荷上昇》。《姿勢制御乱れ》


「くっ……!」

何とか機体を立て直す。だがレオンは追撃してこなかった。

赤黒いGDは空中で静止したまま、こちらを観察している。

まるで力量を測るようだった。

『なるほど』

『確かに、ただの量産LFではないらしい』

その声には余裕があった。圧倒的な実力差。

カイト自身、それを理解していた。その時だった。

別方向から白い機体が飛び込んでくる。

ガルムだった。ミオ機である。

『カイト!』

続いて、灰色の量産LFも合流する。アーク・ノアの別働隊だった。


『単独で前に出すぎだ! 援護する!』

二機同時攻撃。レオン機が初めて距離を取る。

その隙に、ユイ機がレヴァンの横へ並んだ。


『……なんで来たの』

小さな声だった。カイトは少しだけ息を吐く。


「放っとけるわけないだろ」

通信越しに、ユイが沈黙する。その時。

上空で空間が歪んだ。全員の表情が変わる。

帝国側転移ゲートだった。そこから、新たなGD部隊が姿を現し始める。

ミオが顔をしかめる。

「まだいたの!?」

別働隊のパイロットが舌打ちする。

『チッ、キリがねぇ!』

だがレオンは逆に動かなかった。赤黒いGDがゆっくり後退する。


『今日はここまでだ』

その言葉に、ユイの表情が変わる。

『レオン、待て――』

『任務は完了している』

レオンは淡々と言った。

『アーク・ノア戦力確認』

『LF-PT-Y01確認』

『そして――』

赤黒いGDの視線がレヴァンへ向く。


『お前達の反応もな』

嫌な言い方だった。

まるで、こちらの反応を最初から試されていたみたいだった。

次の瞬間。レオン機が転移ゲート方向へ上昇する。

他のGD部隊も続いた。ユイ機だけが、その場へ残る。

短い沈黙。やがてユイが小さく呟いた。


『……ごめん』

その声は、酷く疲れて聞こえた。カイトは何も返せなかった。

ユイが苦しんでいる事だけは分かったからだ。

その時だった。アーク・ノア側から緊急通信が入る。


『全機帰投せよ!』

『新たな熱源反応を確認!』

ミオが眉をひそめる。

「また帝国?」

だが通信士の返答は違った。

『識別不明!』

『……大型飛行物体接近中!』

その瞬間。遠くの夜空で、巨大な影が動いた。

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