第115話 材料としての命
警報は、地下区画全体に鳴り響いていた。
古びた赤色灯が回り、煤けた壁を不規則に照らす。
子供達が耳を塞ぎ、大人達は水タンクや工具箱を抱えて走り出す。
誰も大声で叫ばない。
恐怖に慣れているからではない。
叫んでも、工場は止まらないと知っているからだった。
トウマは壁の端末に飛びつき、表示された警告文を睨んだ。
「くそ……本当に早まった」
「第六居住区の解体ですか」
レータが確認する。
トウマは短く頷いた。
「ああ。地上側の解体機が動いてる。外壁を切り始める前に止めないと、地下の支柱までやられる」
「支柱を?」
「ここの天井は、昔の居住区と工場基礎を兼ねてる。上を雑に削られたら、地下まで崩れる」
カイトは奥歯を噛みしめた。
居住区を解体する。
それは、建物を壊すというだけではない。
ここで生きている人達の空気、水、熱、そして逃げ場まで奪うということだ。
ユイが端末を覗き込む。
「解体対象は、旧第六居住区の外郭部。生命維持設備の一部も含まれています」
「生命維持設備まで?」
ミオの声に、怒りが滲む。
レータはさらに解析を進めた。
「工廠AIは、生命維持設備の電力を工場側へ再配分しようとしています。理由は、生産ライン再起動のための電力不足」
「つまり、住民の空気や水を削って、工場を動かすつもりか」
「はい」
その答えに、カイトの表情が変わった。
「ふざけるな……」
低い声だった。
だが、抑えきれない怒りがそこにあった。
「人がいるんだぞ。ここで生きてるんだぞ。それを、電力不足だからって」
「カイト」
ユイが静かに声をかける。
カイトは振り返る。
「止める。今すぐ」
「止めます。ですが、工廠AI本体への攻撃はまだ駄目です」
「分かってる。でも、解体機くらいなら――」
「その解体機も、工廠管理網につながっています。無理に破壊すれば、工廠AIは外部攻撃と判断します」
「もう攻撃してるようなもんだろ!」
「違います」
ユイの声が、わずかに強くなる。
「工廠AIにとっては攻撃ではありません。処理です。だからこそ、まだ止め方を選べます」
「選んでる間に、ここが壊されたらどうするんだ」
「だから、急ぎます。ただし、怒りだけで動けば、救えるものまで壊します」
カイトは言い返そうとして、言葉を止めた。
ユイの言っていることは分かる。
でも、納得できるかは別だった。
トウマが口を開く。
「彼女の言う通りだ」
「トウマ?」
「工場を力任せに壊せば、地下の水循環も空調も止まる。俺達は地上で暮らせない。空気も水も、まだ工場設備の残骸に頼ってる」
「でも、このままじゃ」
「ああ。このままでも死ぬ。だから難しいんだ」
トウマは苦く笑った。
「壊せば終わりなら、とっくに誰かがやってる」
その言葉は、カイトの胸に刺さった。
敵を倒せば終わる。
何度もそういう戦いをしてきた。
だが、ここは違う。
敵に見えるものが、同時に命を支える設備でもある。
レータが端末を操作し、地上側の映像を表示した。
「外郭部に解体機が接近しています。数は三。加えて、警備ドローン六機。作業用重機型の自律機械が二機」
「兵器ですか」
セラが問う。
「元は作業機械です。ただし、装甲切断用レーザーと圧砕アームを持っています。機体相手にも十分危険です」
「出ます」
セラは即答した。
ミオも頷く。
「私も出ます。居住区の外壁を守りながら、解体機だけを止めればいいんですね」
「はい。ただし、中央管制への通信線は切断しないでください。完全破壊ではなく、作業腕と移動機構の無力化を優先します」
レータが素早く指示をまとめる。
「カイト、ミオ、セラは機体で地上へ。ユイは私と一緒に地下側から工廠AIの判定を遅延させます」
「ユイは出ないのか」
「今は出ません」
ユイはカイトを見た。
「私が機体で出れば、工廠AIはさらに高品質な部品と判定する可能性があります。まずは認識を乱します」
「……分かった」
カイトは深く息を吐いた。
「でも、危なくなったら来てくれ」
「はい。あなたが突っ込みすぎた場合も、止めに行きます」
「そこは信用ないんだな」
「ありません」
「即答かよ」
わずかなやり取りだった。
だが、それでカイトの怒りは少しだけ形を取り戻した。
暴れるためではない。
守るために動く。
そのために、今は出る。
地上へ出た瞬間、熱と粉塵が機体の装甲を叩いた。
カイトのLFが旧第六居住区の外郭部に立つ。
視界の先では、巨大な作業機械が三体、ゆっくりと近づいていた。
車両ではない。
多脚式の重機だった。
前面には圧砕用のアーム。
上部には切断レーザー。
背面には回収した部材を載せるコンテナがある。
それらは、敵機のように構えてはいなかった。
ただ、作業予定地点へ進んでいるだけだった。
だが、その先にあるのは、地下で人々が暮らす居住区の外壁だ。
《解体対象、旧第六居住区外郭》
《作業予定、開始》
《障害物を排除します》
機械音声が地上スピーカーから響く。
続いて、小型の警備ドローンが上空へ展開した。
工場の屋根や搬送レールの陰から、無人の作業兵器が姿を現す。
LFに似ているが、違う。
人型ではあるものの、頭部はなく、腕は工具と武装が一体化している。
帝国のGDとも、地球側のLFとも違う。
工業用の機械に、無理やり戦闘能力を持たせたような姿だった。
ミオが通信で言う。
《無人工業機、確認。こちらを捕獲対象として見ています》
《攻撃許可は?》
セラの声が入る。
カイトは正面を睨んだ。
《解体機の移動部と作業腕を止める。炉心につながる管制ケーブルは切るな》
《了解》
《了解しました》
セラのフェンリオン・リサイトが先に動いた。
肩部の照準補助が展開し、警備ドローンだけを正確に撃ち落としていく。
爆発は小さい。
燃料系や主電源を避け、推進部だけを撃ち抜いている。
撃墜というより、落として止めているに近かった。
ミオのルナ・スケイル・リフレクトは、居住区外壁の前に出る。
反射シールドを展開し、切断レーザーの照射を受け流した。
赤い光がシールド面で曲がり、工場の壁に焼け跡を残す。
《出力が高いです。長時間は受けられません》
《すぐ止める!》
カイトは機体を走らせた。
足元の搬送レールが火花を散らす。
解体機の一体が圧砕アームを振り上げた。
カイトはそれを避け、腕部の関節へ斬撃を入れる。
完全には切らない。
駆動軸だけを潰す。
重い音を立てて、圧砕アームが垂れ下がった。
《第一解体機、作業腕停止!》
《移動機構はまだ生きています》
レータの声が地下から届く。
カイトは舌打ちし、機体の脚部で解体機の前脚を踏み砕いた。
だが、その直後、壊したはずの関節部から補修用の小型アームが伸びる。
内部から金属材を押し出し、損傷箇所を塞ぎ始めた。
《自動修復?》
《はい。工廠機械は簡易自己修復機能を持っています》
レータの声が緊張を帯びる。
《完全に止めるには、制御中枢か動力伝達部を潰してください。ただし爆発させないように》
《注文が多い!》
《フォージでは必要な注文です》
カイトは歯を食いしばり、解体機の側面へ回り込む。
その時、無人工業機が二体、両側から襲いかかってきた。
片方は溶接トーチを武器のように突き出し、もう片方は捕獲用のクランプを開いている。
《未登録機動兵器、捕獲対象》
《高出力反応炉、回収価値あり》
《装甲材、再利用可能》
「人の機体を勝手に値踏みするな!」
カイトは片方の腕を弾き、もう一体の胴体を蹴り飛ばした。
だが、無人工業機は倒れてもすぐ起き上がる。
装甲が厚いわけではない。
壊れた部分を、その場で補助アームが固定している。
完全な修理ではないが、動き続けるには十分だった。
セラの狙撃が、その膝関節を撃ち抜く。
《カイト、胴体を狙わず関節を》
《助かった!》
《怒るのは後です》
セラの声は冷静だった。
だが、その奥にある緊張は伝わってくる。
彼女もまた、撃てばいいだけの戦いではないことを理解していた。
ミオが叫ぶ。
《第二解体機、外壁へ接近!》
赤い切断レーザーが、居住区外壁に触れようとしていた。
その向こうには、地下区画の支柱がある。
そのさらに奥には、人がいる。
カイトは機体を加速させる。
だが、その進路を別の無人工業機が塞いだ。
捕獲クランプが機体の腕を掴む。
装甲表面に固定具が食い込み、引き剥がそうとする。
《未登録機動兵器、分解準備》
《高品質資材、確保》
「邪魔だ!」
カイトが出力を上げようとした瞬間、ユイの声が通信に割り込んだ。
《カイト、出力を上げすぎないでください》
「でも!」
《工廠AIがあなたの反応炉出力を再評価しています。上げれば上げるほど、回収優先度が上がります》
「じゃあどうしろって」
《力で振りほどくのではなく、接続部を切ってください。右肩側、クランプ基部に隙間があります》
「分かった!」
カイトは機体の出力を抑え、腕部ブレードを短く振る。
クランプの基部だけを断ち、捕獲アームを外す。
そのまま滑り込むように第二解体機の横へ回り、脚部駆動軸を斬った。
巨体が傾く。
ミオがシールドで押し込み、解体機を外壁から引き離した。
《第二解体機、停止確認》
《完全停止ではありません。再起動まで三分程度》
「三分あれば十分だ!」
カイトは息を吐く。
だが、安心する間はなかった。
地上の工場全体が、低く唸り始めた。
遠くの煙突から炎が噴き上がる。
搬送レールの向きが変わり、複数の無人台車が一斉に移動を始めた。
載せられているのは廃材ではない。
工業用の拘束フレーム。
装甲切断用の固定台。
機体を分解するための設備だった。
レータの声が響く。
《工廠AIが、回収手順を進めています》
《対象は?》
《カイト機、ミオ機、セラ機。全機です》
《こっちを本気で分解するつもりか》
《はい》
工廠AIの声が、街中に響く。
《高品質資材、回収優先》
《未登録機動兵器群、再利用可能部品として登録》
《装甲材、反応炉、精密制御系、武装部品》
《中央生産ラインへの搬入準備》
《生産命令、継続中》
カイトは、モニターの中の文字を睨んだ。
敵意ではない。
殺意でもない。
ただの分類。
ただの処理。
だからこそ、腹の底が冷えるほど気持ち悪かった。
地下では、ユイとレータが工廠AIの認識を遅らせていた。
古い端末は反応が鈍い。
帝国系の上書き命令が複雑に絡み合い、元のフォージ管理AIの権限がほとんど見えなくなっている。
それでも、完全に消えてはいない。
生活維持設備。
避難区画管理。
都市工業制御。
その古い層が、まだ奥に残っている。
ユイはその層を探りながら言った。
「工廠AIの最上位命令は、帝国への納品命令です」
「その下に、フォージ本来の都市管理命令が残っています」
レータが続ける。
「問題は、優先順位です。生産命令が生活維持命令より上に置かれています」
「入れ替えられるか」
トウマが問う。
「ここからでは無理です。中央炉心区画の主制御炉に接続する必要があります」
「やっぱり、そこか」
トウマは拳を握る。
その時、ユイの表示に別の項目が浮かんだ。
「これは……避難民区画の分類が変わっています」
「分類?」
「第六地下区画が、非稼働資産として扱われています」
「非稼働資産って何だ」
トウマの声が低くなる。
レータが答える。
「工廠AIにとって、現在生産に使われていない設備、または資源化可能な構造物という意味です」
「俺達がいる場所を、ただの使ってない設備扱いしてるってことか」
「はい」
トウマは壁を殴った。
乾いた音が通路に響く。
近くの子供がびくりと肩を震わせ、ミオが通信越しに気づいたように一瞬声を詰まらせる。
ユイは表示を見つめたまま言った。
「工廠AIは、生きた人間を直接材料にしているわけではありません」
「それでましだと言うのか」
「いいえ」
ユイの声は静かだった。
「もっと冷たいだけです。人間を見ていない。人間がいる場所、使っている空気、飲んでいる水、眠っている床を、資源として扱っている」
「……最低だな」
トウマは吐き捨てた。
ユイは否定しなかった。
「はい」
地上戦は、さらに悪化していた。
カイト達は解体機を完全破壊せず、動力部と関節だけを止めようとしていた。
だが、工廠機械は壊れるたびに補修アームを伸ばし、周囲の廃材を使って応急修復を行う。
倒しても倒しても、少し形を変えて動き出す。
まるで、工場そのものが敵を作り直しているようだった。
さらに厄介なのは地形だった。
道路は道路ではない。
搬送レールだ。
一定間隔で方向が切り替わり、足元の台車が勝手に動く。
溶鉱炉から流れる排熱で視界が揺らぎ、床の一部は高温になっている。
不用意に踏み込めば、機体の脚部に熱が入る。
ミオがシールドで解体機を押さえながら叫ぶ。
《この場所、戦いにくすぎます!》
《工場側にとっては作業場です。こちらに合わせて作られていません》
レータの返答は冷静だったが、内容は容赦なかった。
セラは高所を取ろうとした。
だが、工場の煙突上部にいた警備ドローンが一斉に照準を向ける。
彼女はすぐに位置を変え、狙撃を続ける。
撃つたびに、落とすべき場所を選ばなければならない。
燃料管を撃てば爆発する。
制御線を切れば工場全体が異常判定を起こす。
だから、関節だけを撃つ。
駆動部だけを撃つ。
簡単ではなかった。
《第三解体機、外壁へ接近》
《セラ!》
《見えています》
フェンリオン・リサイトの照準が収束する。
一発。
解体機の前脚が砕けた。
続けて二発目。
切断レーザーの旋回軸が停止する。
だが、解体機の背面から補助脚が伸び、再び姿勢を立て直した。
《しつこいですね》
《工場だからな。壊れても直すのが仕事なんだろ》
カイトはそう言いながら、無人工業機の一体を搬送レールへ叩きつけた。
レール上を走っていた台車が衝突し、機械の下半身を巻き込む。
完全には壊れない。
だが、少なくとも動きは止まった。
その直後、工廠AIの音声が変化した。
《未登録機動兵器群、抵抗を確認》
《回収難度、上昇》
《破損許容率、再設定》
《部品単位での回収へ移行》
「部品単位……?」
カイトが聞き返すより早く、地上の複数地点から小型ドローンが飛び出した。
切断用の薄いアームを持った、群れのようなドローンだった。
狙いは機体全体ではない。
関節。
センサー。
武器の接続部。
装甲の隙間。
ミオがシールドを広げる。
《細かいのが来ます!》
《撃ち落とします》
セラが迎撃する。
だが、数が多い。
カイトは機体を下げ、居住区外壁を背にする。
下がりすぎれば外壁を巻き込む。
前に出すぎれば捕獲される。
動きが制限される中で、ドローンの群れが迫る。
カイトの中で、怒りが再び膨れ上がった。
ここで一気に工場中枢を叩けば。
この気味の悪い声を止めれば。
目の前の機械を全部壊せば。
そんな考えが頭をよぎる。
その瞬間、ユイの声が飛んだ。
《カイト、駄目です》
「まだ何も言ってないだろ」
《言わなくても分かります》
「……」
《中央炉心を壊せば、地下区画の生命維持も止まります。炉心冷却が失敗すれば、ここ一帯が吹き飛びます》
「分かってる」
《分かっていても、怒りで忘れます》
「……分かってる!」
カイトは叫び、機体を前へ出した。
ただし、突撃ではない。
ミオのシールド範囲を抜けない位置で、群がるドローンを一機ずつ叩き落とす。
力任せではなく、最小限の動きで。
ユイに言われたことを、無理やり自分に叩き込む。
セラがその隙を逃さず、第三解体機の主駆動部を撃ち抜いた。
今度は正確に、動力伝達軸だけを止める。
巨体が沈み、火花を散らしながら停止した。
《第三解体機、停止》
《外郭解体機、全機一時停止を確認》
レータの声が入る。
カイトは大きく息を吐いた。
勝った。
いや、違う。
止めただけだ。
しかも、一時的に。
工廠AIの通信は、まだ止まっていない。
《回収失敗》
《高品質資材、移動中》
《再捕獲計画を更新》
《生産命令、継続中》
ミオが静かに言う。
《これ、終わっていませんね》
《ああ》
カイトは灰色の空を見上げた。
《本体を何とかしないと、ずっと続く》
地下端末では、解体機停止の影響で一部の工廠ログが開いていた。
レータはその隙を逃さず、中央生産ラインの記録へアクセスする。
トウマが隣で息を詰めて見守る。
ユイは帝国系コードの遮断処理を行いながら、必要な部分だけを抽出していた。
「出ました」
レータが表示を拡大する。
そこには、部品リストが並んでいた。
外殻部材。
反応制御管。
神経系接続端子。
自己修復素材適合フレーム。
そして、黒い中枢部品の名称。
ヴェルデで見た侵食核と、ほぼ同じ構造だった。
「侵食核の部品……」
トウマが呟く。
「やっぱり、ここで作っていたのか」
「少なくとも、外殻と接続部品はフォージ製です」
レータが言う。
「製造ライン番号も一致しました。ヴェルデの侵食核に使われていた部品は、アース・フォージの中央生産ラインで作られています」
「確定ですね」
ユイの声は静かだった。
だが、その瞳は鋭い。
「では、誰が作らせたのか」
レータはさらにログを追う。
発注記録。
納品先。
転送経路。
多くは破損している。
だが、一部だけ残っていた。
「製造依頼元は……フォージ内部ではありません」
「帝国ですか」
「帝国の正規軍需命令とも違います」
表示に、奇妙な経路図が浮かぶ。
フォージ中央生産ライン。
そこから、外部ネットワークへ。
さらに別の中継演算網を経由している。
レータの表情が変わった。
「これは、別の地球系ネットワークです」
「別の地球?」
カイトの声が通信越しに入る。
レータは一瞬ためらい、それから答えた。
「はい。製造依頼は、フォージから直接出されたものではありません。外部の設計最適化ネットワークを経由しています」
「設計最適化……」
ユイが目を細める。
「アース・ネオジェネシス系の演算網と、構造が似ています」
「次の目的地の?」
ミオが問う。
ユイは頷いた。
「まだ断定はできません。ただし、フォージは部品を作った。設計と発注の最適化は、別のネットワークで行われた可能性があります」
「つまり、ここは工場で」
カイトが言う。
「設計した奴は、別にいる」
地下区画に沈黙が落ちた。
フォージは悪の中心ではなかった。
少なくとも、すべての始まりではない。
ここは利用された場所だ。
作らされ、動かされ、止まれなくなった工場。
そこに住む人々は、今もその命令に削られている。
トウマは拳を握った。
「じゃあ、俺達の星は……」
「利用された可能性が高いです」
ユイが答える。
トウマは笑わなかった。
怒鳴りもしなかった。
ただ、静かに目を伏せた。
「そうか。工場にされた上に、誰かの道具にもされたのか」
その声は、とても低かった。
カイトは通信越しに言う。
《トウマ》
「何だ」
《中央炉心へ行こう》
「……」
《解体機を止めただけじゃ終わらない。ここで作られたものが、他の地球も傷つけてる。だったら、ここを止める》
「簡単じゃないぞ」
《分かってる》
「壊せば終わりじゃない」
《それも分かってる》
「本当に?」
《さっき怒りで突っ込みかけた》
「正直だな」
《だから、今度は間違えない》
少しの沈黙の後、トウマは息を吐いた。
「中央炉心への旧整備路がある。今は半分潰れてるけど、外部の機体と地下からの誘導があれば、入り口までは行けるかもしれない」
《案内してくれるか》
「ここまで来て、しないわけないだろ」
トウマは古い手順書を握りしめた。
「俺達の星を、これ以上誰かの工場にはさせない」
その言葉と同時に、地上の工廠群が再び低く唸り始めた。
解体機は止まった。
だが、遠くの炉心区画から新たな機械反応が複数立ち上がっている。
工廠AIは、次の手順へ移ろうとしていた。
《中央生産ライン、再評価》
《高品質資材、回収失敗》
《生産命令、継続中》
《防衛工程へ移行》
《中央炉心区画、封鎖準備》
ユイが表示を見つめる。
「工廠AIが、こちらの目的に気づき始めています」
「次は中央炉心か」
カイトは機体の拳を握った。
地上には赤い炉の光。
地下には、まだ人の息遣い。
その間で、機械だけが命令を繰り返している。
人を直接材料にしているわけではない。
だが、人が生きるための場所を削り、空気を奪い、水を奪い、機体を部品として分解しようとする。
命を見ないまま、命の周りにあるものを奪っていく。
それが、フォージの冷たさだった。
敵を倒せば終わるわけではない。
止め方を間違えれば、救うべき人達が死ぬ。
だから、彼らは壊すためではなく、止めるために進む。
中央炉心区画。
止まらない工廠の心臓へ。




