079:持ち帰られた人形
ウルスラ王女からの依頼を終えて、俺たちはファレンジア王国に帰還した。
持ち帰ったものはちょっとした魔道具から始まり、一番の目玉は例の自動人形。
後は、本郷が手懐けた霊獣も一応の成果だと言えるだろう。
俺たちが持ち込んだその品々を前にして、誰よりも喜んでいたのは他でもないウルスラ王女だった。
「うふ、うふふふふふ……あの、クライヴ・ハルツマンの自動人形……稼働する品なんてもう世界に存在しないと思ってたのに……」
野暮ったい前髪の奥で笑っているウルスラ王女は、箱の中の自動人形を様々な角度から眺めている。
そんな彼女に対し、ガーランド宰相は咳ばらいをしつつ声をかけた。
「んんっ、ウルスラ王女殿下。その自動人形とやらは、それほど価値あるものなのですかな?」
「当然でしょう、ガーランド様! 最早、世界に二つと存在しないであろう、完全自律行動可能な自動人形ですよ!?」
「落ち着いて下され。それは、どのような魔道具なのですか?」
「う……し、失礼しました。ええと、自動人形がどういった魔道具であるかは、ご存じですよね……?」
ウルスラ王女の問いに、ガーランド宰相は首肯して返す。
話には聞いていたけど、自動人形という魔道具自体は現在でも作られているものであるらしい。
ただしそれは、ここにあるクライヴ・ハルツマンの自動人形とは比べることすらできない程の差があるという。
「現在の自動人形は、ただ人を模して動くゴーレムの一種という程度のものです……しかし、クライヴ・ハルツマンの自動人形はそもそも規格が異なります」
「具体的には、どのように?」
「学習するのです……人の動きを、言葉を。主人とした者の言葉を忠実に守り、日常業務から戦闘技術まで、教育された内容を覚え、再現することが可能なのです」
その言葉に、ガーランド宰相の目の色が変わった。
正直なところ、それは地球に暮らしていた俺たちにとっても信じがたい内容ではあった。
ロボット工学はすさまじい速さで成長していたけれど、そこまでの性能を持つロボットはニュースでも見たことがなかった。
それを、千年も昔に存在した人物が作り上げていたというのだ。驚きを通り越して言葉も出てこないレベルである。
「しかも、この書類を見る限り、この個体は最上級の高級品です……魔力の供給を必要とせず、多少の損傷ならば回復する。学ばせた情報次第で、幅広い働きをしてくれるでしょう」
「成程、信じがたくはありますが……流石は、クライヴ・ハルツマンの魔道具ですか」
口元に手を当てて、ガーランド宰相はしばらくの間黙考する。
頭の中でどのような計算を行っているのか、俺たちはそれを固唾を呑んで見守ることとなった。
その計算は、およそ一分程度――やがて顔を上げた宰相は、ウルスラ王女へと向けて問いかける。
「これは、陛下に献上することをお勧めしますが、よろしいですかな?」
「う……そう、ですね。その方が良いと思います……」
ガーランド宰相の提案に対し、ウルスラ王女は見るからに渋々といった様子であったものの、同意を返した。
あまりにも貴重すぎる品物であり、かつ有用な能力を持っているため、国王の下で管理するべきということなのだろうか。
流石に国内の政治バランスまではよくわからないので、その辺りに口出しするような余地などある筈もない。
こちらにとって気になる点は、それによって精霊剣を譲り受けることができるかどうかだけだ。
「ですけど、通常時の管理と整備については、こちらにお任せいただければ……」
「それについては陛下と交渉される方が良いでしょうが、魔道具に関する知識が最も豊富なのはウルスラ殿下に間違いございません。管理を任される可能性は十分にあるかと」
「うう……お父様と直接交渉ですか……」
ウルスラ王女は国王のことが怖いのか、あるいは単に人と話すのが苦手なだけか。
どちらにせよ、これに関して俺たちから言えることは何もない。
それよりも精霊剣のことを伝えて欲しいと、じっとウルスラ王女の方を見つめていれば、その視線に気づいた彼女は少し慌てた様子でガーランド宰相へと声を上げた。
「っと……そう、でした。ガーランド様、これで精霊剣の件は良いのでしょうか……?」
「そう、ですな。純粋な価値としても高く、運用可能な魔道具。それに加えて、武器と防具も付いて来たとなれば……純粋な価値は、精霊剣に匹敵することでしょう。陛下の許可をいただく必要はありますが、お譲りすることは難しくないと考えます」
その言葉に、俺は思わず後ろに回していた手をガッツポーズの形に握っていた。
まだ確定というわけではないが、これで精霊剣を正式に使うことができるようになる。
まあ、今と状況が大きく変わるわけではないのだが、それでも遠慮なく使えるようになるというのは精神的に大きかった。
勿論、管理については気を付けなければならないし、その責任はこちらに降りかかってくるわけだから、一長一短ではあるのだけど。
「しかし、これ以外にも魔道具をいくつか……それに霊獣の使役と、かの鍛冶師夫妻とのコネクションですか。この成果は、流石に予想以上と言わざるを得ませんな」
「ガーランド様、あの遺跡の情報はいかにするおつもりですか……?」
「再度の調査という手もありますが……まあ、上手く使いますとも」
どうやら、あの遺跡の処遇についてはこれ以上話すつもりはないらしい。
恐らくウォラーン連邦とのやり取りに利用するつもりなのだろうが――まあ、それは俺たちの気にする話じゃないだろう。
たとえ国の調査の手が入ったとしても、裕也なら上手くやってみせる筈だ。
「それよりも、貴方がたの成長は実に目覚ましい。解析術の有用性もそうですが、固有魔法の術式解釈を拡張させた者も現れた……やはり、外を巡ることは有益なのでしょうな」
「宰相閣下、先にも申し上げていますが――」
「わかっておりますよ、ハコザキ殿。無論のこと、無理強いは致しません。しかし――避けがたい依頼が入ってくることも、ご承知置きくだされ」
その言葉に、俺は思わず目を細める。
普段、言葉の内にあまり感情の色を見せないガーランド宰相。
そんな彼が、ほんの僅かながらではあるものの、どこか苦い感情を滲ませていたのだ。
それには先生も気が付いたのか、僅かに警戒心を高めた様子で問いを返す。
「……何か、あったのですか?」
「こちらとしても立場上断ることのできない話が入ってきましてな。詳細については、こちらではなくティエーリア殿下よりお話があるでしょう」
「王女殿下から……?」
通常、仕事の話はガーランド宰相から入ってくることになっていた筈だ。
それがなぜか、ティエーリア王女から伝えられるという状況には、流石に違和感を覚えざるを得ない。
単純に、彼女の個人的な依頼ということならばいいのだけど――
(……その程度の話で、宰相がこんな反応を見せることはあり得ないか)
となると、可能性として高いのは、ティエーリア王女のバックにいる存在からの依頼だろう。
彼女のバックにいる存在、即ち彼女の派閥の支持母体は――
「……先生」
「わかっているよ、天堂君。だが、まずはその話を聞いてからだ」
正直、現状ではまだ何とも言えない。
けれど、かえって来て早々ではあるが、早くも次なる騒動に巻き込まれつつあるようだ。
果たして、何が起こっているのか――ティエーリア王女がこの場にいないことを含めて、確認する必要があるだろう。




