056:少年たちの旅
ウォラーン連邦、そこに隠されているという、古い時代の遺跡。
そこにあるであろう、クライヴ・ハルツマンの魔道具の回収――それが今回、俺たちに依頼された仕事だ。
その目的達成のため、俺たちは選抜されたメンバーで、北へ北へと向かっていた。
ただし、そのメンバーは当初の予定とは少々異なっている。状況を鑑みて、メンバーの再選定が行われたのだ。
「結局、穂美香ちゃん先生が来ることになったんだね。箱崎先生は来る気満々だったけど」
「ええ、まあ……少ないとはいえ、危険は無視できない遠征ですから。多少なりとも戦える私の方が適任、ということで」
この場には、元々同行する予定だった箱崎先生に代わり、栗原先生が付いてくれていた。
その理由は彼女が語った通り、戦闘能力の違いだ。
箱崎先生は汎魔法は使えるものの、戦闘能力はほぼ無きに等しい。
それに対し、栗原先生は顕霊を身に宿したことで、俺たちの中でもトップクラスの戦闘能力を手に入れることができた。
最低限の自衛どころか、大抵の相手なら一人で制圧できてしまうレベルの強さなのだ。
それならば、栗原先生が付いて行った方が安全だろうということで、このような采配になったのである。
「まあ、それに……個人的にちょっと顔を合わせづらかったというか、整理する時間が欲しかったので……」
「……? 穂美香ちゃん先生、何かあったの?」
「それは穂美香が――ミカ、それは喋らなくていいから、黙ってね」
栗原先生は勝手に喋ろうとした顕霊を制し、誤魔化すように笑う。
栗原先生と箱崎先生の間で何かがあったことは聞いているけど、生憎と裕也はその内容については教えてくれなかった。
まあ、どうやら結構プライベートな内容のようなのでそれは仕方ないけど――裕也がそれに配慮して言葉を濁すというのも中々珍しい。
流石に、本気で言いたくないようだし、そこは追及しないでおこう。
また、一緒に来ているメンバーについては、もう一人だけ変更があった。
変更というよりも追加なのだが――本郷駆が、追加メンバーとして同行しているのである。
ただ、彼については立候補ではなく、他のメンバーからの推薦があって同行するようになった形だ。
「本郷、魔力は大丈夫かい?」
「あいよー、回復できる範囲でやってるから、心配すんなって」
本郷の持っている固有魔法は乗騎術という。
単純に表現するなら、その術式効果は『自分が乗っている乗り物を強化する』という内容だった。
俺たちが今乗っているのは、事前に準備して貰った馬車である。
流石に国の刻印が入っているようなものは、今回の仕事内容の関係上使わせて貰えなかったが、それでも十分に質の良い馬車を用意して貰っている。
そこに本郷の魔法が付与されていれば、ほとんど振動もなく移動も速い、優れた移動手段に早変わりというわけだ。
「この間、郊外演習に出た時に馬車には乗ったけどよ、ありゃ酷い振動だったぜ? 本郷の魔法って便利だよなぁ」
「いや、大倉みたいにめっちゃ戦える術式の奴に言われると微妙なんだけどな……個人で乗り回せる乗り物が無い以上、自由に使える魔法ってわけでもないし」
「馬とか、購入してみたらどうだい? 乗れるものなら生物でも適用可能なんだろう?」
「わかるけどさ、そんな簡単に買えるもんじゃないだろ。世話もしないといけないし」
つまるところ――本郷の魔法は、使用する場面が限られてしまう難しい魔法であった。
とはいえ、こうして移動手段を確保する上では非常に有能である。
移動のたびに仕事をして貰うというのは申し訳ないが、今後も頼りにしたいところだ。
「それより、道はこっちで合ってるか? 特徴がないからわかりづらいんだよ」
「こっちだってそんな詳細な地図を貰ったわけじゃないからね? 分かれ道とかでは一応看板とか立ってるでしょ?」
「……まあ、途中まではそれでいいけどさ。しばらくしたら街道を逸れるんだろ? そこからはきちんとナビゲートしてくれよ」
しばらくの間は、ウォラーン連邦へと続く街道を進むだけでいいだろう。
しかし、途中からは道を外れ、更に北の方角へと向かわなくてはならない。
目標となる遺跡は、今まで発見されていなかったというだけあって、かなり辺鄙な場所に存在している。
途中からは、道を間違えないように注意する必要があるだろう。
「それと、魔物が来たらお前らの仕事だからな? 俺は戦闘は苦手なんだよ」
「ゲームは強いのにな、本郷」
「操作するのと体を動かすのは全く別の問題だっての」
勿論、戦いとなったなら俺や剛志、それと西村さんが出るつもりであるし、馬車の護衛は鏡花ちゃんや栗原先生に任せておけば問題ないだろう。
だからこそ――
「江崎はちょっと手持ち無沙汰になるかもしれないけど、しばらくはゆっくりしててくれ。現地に付いたら、やることも多いだろうから」
「あはは……でも、外の景色も楽しんでるから、大丈夫だよ」
この数日で多少は仲良くなった江崎へと、そう声をかける。
しばらくの間、解析術の使い手である江崎の仕事は少なくなってしまうかもしれない。
現地に到着して、魔道具を発見してからが彼の仕事なのだ。
――そう考えると、少しだけ申し訳なくなってしまうが。
「今更だけど、悪いね。この剣のことで、ここまで連れてくることになって」
腰に佩いている白い剣をポンポンと叩きつつ、俺は江崎へと向けてそう告げる。
比較的安全な依頼であるとはいえ、魔道具の回収という内容でなければ、江崎がここまで付いて来ることは無かった筈だ。
そう考えると、俺が原因で危険に巻き込まれてしまっている、とも言える。
既に一度、それに関して謝ってはいるものの……やはり、申し訳ないという思いを抱かずにはいられなかった。
けれど、江崎はそれでも、穏やかな表情で笑みを浮かべながら声を上げた。
「大丈夫だよ。僕もこの数日で覚悟は決めたし、これだけメンバーもいるわけだからね。むしろ、旅行気分で楽しんでるよ」
「そうか? それならいいんだけど……何かあったら、すぐ知らせてくれ」
「了解。そういうのの痕跡を調べるのは、僕の方が得意だろうからね」
どうやら江崎は、出発までの数日の間に、心の準備を整えることができたようだ。
正直、一番心配だったのは繊細な部分がある彼のことであったため、余裕ができたのなら良かった。
「しっかし、ホントに何もトラブルなくて退屈だよなぁ。探索者ギルドもさ、何かあると思ってたんだぜ? ガキだからって絡んでくるような先輩とかさ」
「何で行く先々でトラブルを起こそうとするのよ。平和に登録できてよかったじゃない」
「そうだね、下手に争いにならなくて良かったよ。前に登録しに来た人と揉め事があったらしいし、同じことにならなくて何よりだ」
俺たちはウルスラ王女からの依頼を請けるにあたり、探索者として登録することになった。
と言っても、登録したのは戦闘訓練に参加しているチームメンバーだけだけれども。
当然、登録は探索者ギルドで行うことになったわけだけど……剛志の言うように、そこでは何らトラブルに遭うこともなく、淡々と登録が済んだ。
どうも、先日登録に来た人物がとんでもない実力者で、絡みに行った探索者たちが全員叩き伏せられてしまったらしい。
そのおかげで、新人に絡みに行くのは自粛する流れができていたんだそうだ。
(固有魔法使いだったって話だし、もしかしたら裕也たち――いや、まさかね)
脳裏に浮かんだ考えを、頭を振って忘れつつ、外の景色へと視線を向ける。
以前に経験した馬車よりも、早い速度で流れていく景色。
ここに至るまで、順調な旅だ。ここからも、できる限り平和に進んでいきたい。
けれど――そんな考えを否定するように、江崎の声が上がった。
「……天堂君。あそこ、何か変だ」
「江崎、何かあった?」
馬車の外に広がる景色、横合いの一点を指差しながら、江崎は告げる。
その瞳は、解析術の発動を示して青白く輝いていた。
「魔法によって、何かが覆い隠されてる。馬車が進んだ痕跡もある――誰かが、あそこに隠れてるんだ」
――それは、これまでの平穏を破るような、事件の発生を告げる言葉であった。




