034:人工精霊の魔道具
「はい、エリちゃん。こんなものでどうかな?」
「うわぁ、ありがとう! にひひっ、凄いね! こんな細かい細工もできるんだ!」
そう告げて僕がエリちゃんへと差し出したのは、紫色の石が嵌ったペンダントトップだった。
嵌っているのは、ビー玉ほどの大きさの封入器であり、中に入っているのは言うまでもなく、闇属性の人工精霊だ。
銀が絡みつき、螺旋を描いて楕円形を為したそれに、エリちゃんは用意しておいたチェーンを通す。
普通の装飾品としても、それほど悪くないデザインなのではないだろうか。
「注文通り、術式は周囲を暗闇で封鎖する結界だ。単純な術式だから、範囲は広くしておいたよ」
「ありがと、ユウ君。これでどこでも、影で包み込めるもんね」
単純な術式であるため苦労はしなかったのだけど、これをエリちゃんの固有魔法と組み合わせると凶悪なんてものではないだろう。
エリちゃんの固有魔法は、闇や影を操る術式だ。
その干渉力、効果範囲はかなり広く、非常に強力な魔法であると言える。
けれど、影が無い場所では出力が大幅に下がってしまうという弱点があった。
しかしながら、この魔道具があれば周囲一帯を闇に包むことができる。
どんな場所であろうとも、エリちゃんは最大の出力を発揮できるようになるというわけだ。
「これに精霊が入ってるなんて、信じられないよねぇ」
「まあ、僕らの言うところの精霊って、どちらかというと顕霊の方のイメージに近いからね。こんな小さなビー玉の中に入っているっていうのは、確かに驚くかも」
色々な方向からペンダントトップを眺めつつ、エリちゃんは上機嫌に笑っている。
正直、こういった装飾品の外見にはあまり自信は無かったけど、気に入って貰えたようで何よりだ。
サイズ的に、指輪にするには大きいし腕輪にするには小さい、そんな大きさだった。
ペンダントにしたのは特に理由もない思い付きだったけれど、間違いではなかったらしい。
「使い方は簡単だよ。その宝玉部分に、魔力を込めるだけ」
「へぇ~……こんな感じ?」
エリちゃんがそう口にした瞬間――周囲一帯が、目の前すら見通せない程の暗闇に包まれた。
想定していた通りの結果に満足するべきか、或いはもうちょっと注意事項を口にしておくべきだったと反省しなければならなかったか。
ともあれ、この人工精霊は僕の作った通りの効果を発揮してくれたようだ。
そして次の瞬間には、周囲を覆っていた暗闇は何事も無かったかのように消滅していた。
ペンダントを持ったエリちゃんは、その効果に目を丸くしながら声を上げる。
「びっっくりしたぁ……ほんのちょっとしか魔力込めてなかったのに、こんなに効果があるんだね」
「そうそう。だからこそ、クライヴは人工精霊の研究をここまで突き詰めていたんだよ」
単純に、属性の効果を得るだけであるなら、何も人工精霊を使う必要はない。
人工精霊の有効性は、何よりもこの出力されるエネルギーの違いにあるのだ。
少ない魔力の入力で、強大な属性の出力を得ることができる点。
これこそが、人工精霊という存在の最大の利点なのだから。
「汎魔法を刻印することで、普通に属性の魔法を起動することはできる。でも、それは普通に魔法を使うのと変わらないし、汎用性は低い。けれど――」
「人工精霊なら、同じ魔力を使うだけで、何倍も大きな結果を得られるってことだね!」
「そういうこと、だね。人工精霊を自在に生成できるようになるだけで、作れる魔道具の幅はかなりに広がったよ」
「じゃあ、ユウ君の使う魔道具も作るんだよね?」
「まあ、それは勿論、構想はあるよ」
ただ、僕が考えている魔道具は今のところ構想段階だ。これを形にするには、今しばらく時間が必要だろう。
この世界で活動する以上、どうしたところで戦うための手段は必要となる。
誰もが魔法を使えるということは、誰もが武器を携帯しているのと同じことだからだ。
生憎と、僕の固有魔法自体はあまり戦闘には向いていない。直接攻撃する類の魔法は、ほぼ存在しないと言ってもいいだろう。
けれど、構わない――僕が弱くとも、僕の作り上げたものが強ければよいのだから。
「まあ、その辺は少しずつ作っていくよ。どちらかというと、術式理論を作り上げる方が苦労するだろうから」
「ユウ君の固有魔法ってホント変わってるよねぇ……それで、人工顕霊の方はどうなったの?」
「そっちは今のところ未着手だよ。というか、まだ取っ掛かりも無くてね」
そもそも、どうやればよいかの想像すらできていない状況だ。
果たして、どうすれば顕霊を生み出すことができるのか。
そして仮に生み出すことができたとして、どうすれば彼らの反逆を防ぐことができるのか。
「課題は山積みだよ。正直、魔道具の作成だけでもかなり手一杯な状況だからね。急いでるってわけではないけど……」
「そっか……誰か、専門家でもいればいいんだけどね」
「そうだね。正直、僕たちだけだと新しい意見が出てくるわけじゃないから――」
エリちゃんの言葉を聞いて、ふと気づく。
そうだ、何も僕たちだけで解決しようとする必要は無いのではないか、と。
(今後一切、僕たちだけで研究を進めるべきか? それよりも、本場の魔法研究の専門家に、知恵を借りた方が効率はいいんじゃないだろうか)
どれほど機械化しようとも、僕とエリちゃんだけでは手が足りなくなる時が必ず来る。
それならば、誰か協力者を探す方が効率的だろう。
この施設を解放したことで、居住のためのエリアは増えている。
人を増やすこと自体は、不可能というわけじゃない。
仮に何かあったとしても、僕がマスターキーを持つ限りは止めることも可能なのだから。
「……ユウ君? 急に黙っちゃって、どうかした?」
「ああ、ごめん、エリちゃん。その意見、結構ありかなと思ってね」
「え、専門家のこと?」
「そう。僕は機甲術についての知識はあっても、魔法に関する専門家ってわけじゃない。僕らの知見だけだと、どうしても足りない場面が出てくるでしょ?」
つまり、この世界の協力者が必要なのだ。
勿論、リスクがあることは間違いない。けど、今後の技術開発を加速させていく上で、魔法研究の専門知識はどうしても必要になる。
そんな僕の提案に、エリちゃんはぱっと表情を明るくして声を上げた。
「それなら、あの人にしようよ! リシーちゃん!」
「……リシー? 誰のこと?」
聞き覚えのない名前に、思わず首を傾げる。
その問いに対し、エリちゃんはけらけら笑いながら続けた。
「ほら、この間会ったエルフの人だよ」
「ああ、リリエーラさん……え、何でそれがリシーになったの?」
「リが四つで、リシーちゃん。いいニックネームでしょ?」
彼女のフルネームは確か――リリエーラ・リオネラ・リーエイン。
成程、確かに『リ』が四つ入っているが、四をシと読む文化は日本だけなのではないだろうか。
まあ、ニックネームなんてそんなものなのかもしれないが。
「ま、まあ……彼女が候補っていうのは、悪くないと思うよ」
学院の魔法使いであるため、魔法知識は十分にあるだろう。
その割にはクライヴの技術に対する忌避感が無く、自ら遺跡に足を運んで調査するほど。
それに、精霊の研究を行っているという点もありがたい。
彼女ならば、人工顕霊の生成に協力してくれるかもしれない。
「でも、リシーちゃんに協力を求めるとして、どうするの?」
「接触すること自体は難しくないけど、まずは彼女の人となり、それに能力を調べないとね。そのためには……少しばかり、貴重な道具を放出するとしようか」
尤も、それは僕にとってはそれほど重要な道具というわけではないのだけど。
先日エリちゃんが見つけた道具の姿を脳裏に浮かべながら、僕はリリエーラさんに接触するためのプランを構築し始めたのだった。




