017:取り巻く情勢
第一王子派による介入が始まったことで、事態は色々と動き始めた。
まず、両派閥が目を付けたのは魔法の授業だ。
何しろ、こちらについてはクラスメートの全員が参加している。
皆に接触しようとした場合、そこを狙った方が効率がいいのは間違いない。
その実習の中で、厳しい訓練を課そうとしていた教官役の騎士たちを、諫めるような騎士たちが現れたのだ。
言うまでもないけど、前者が第二王子派、後者が第一王子派である。
「召喚者たちを早く使えるようにしたいとはいえ、介入しやすい隙を作ってくれたもんだね」
その様子を映像で見ながら、僕は小さく呟いた。
そこまでの間は第一王子派もあまり積極的に動いてはいなかったから、第二王子派にも油断があったことは事実だろう。
けれど、そうして第一王子派の騎士に良い印象を奪われてしまったことは、彼らにとっても痛恨であったに違いない。
魔法を習得することには意欲的でも、厳しい訓練を受けたい者はごく少数だ。
だからこそ、クラスメートたちの人気は第一王子派の騎士たちへと傾いていくのも当然だった。
(とはいえ、全ての問題が解決したわけじゃない――というか、こんな中途半端な状態じゃ解決なんてできる筈もない)
問題となるのはその少数――即ち、魔法にも戦闘訓練にも意欲的な集団。
言うまでもなく、晃司を筆頭としたグループであった。
勇者パーティ、なんて揶揄されることもある集団だけど、自ら志願するだけあってその熱意は本物だった。
メンバーは六人。元々仲の良かった晃司、鏡花ちゃん、そして剛志が入っているのはイメージ通り。
残りの三人は――
「あ、委員長だ」
「こんな時でも真面目だね、彼女」
一人目は、飯島千晶。黒髪ロングとメガネが特徴的なクラス委員。
有している固有魔法は氷晶術と言い、氷の属性に特化した魔法だ。
こんな時でもクラスを引っ張ろうというのか、或いは問題児である晃司の監視のためか――とにかく、クラスメートの模範となるべく頑張っているようだ。
実際、魔法使いとしてもかなり才能はある方で、かなりハイペースで魔法を習得している様子だった。
「で、次が斎藤君だね」
「あー、彼がこっちサイドなのはイメージ通りって感じ」
二人目、斎藤啓一郎。街の剣術道場の跡取り息子。
有している固有魔法は千刃術と呼ばれ、魔力を使って刃物を生み出す能力を持っている。
元々鍛えているし、戦闘のセンスはかなり高い。武器だけで戦えば、晃司や剛志をも上回るだろう。
まあ、頭が固くて融通が利かないタイプのため、卑怯な方面の手段は取れないのが珠に瑕か。第二王子派の干渉に注意が必要だ。
「三人目は――西村さんかー」
「僕、彼女には嫌われてるんだよねぇ」
三人目、西村アカネ。正義感の強いヒーロー気質な生徒だ。
有している固有魔法は操炎術。オーソドックスな、炎を操ることに特化した魔法。
曲がったことが嫌いな性格で、人助けに精を出す晃司のことはヒーロー視している。空手部なので相応に格闘技術もあり。
それはいいのだけど、後ろであれこれやっている僕のことは嫌っている様子だった。猪突猛進なので、こちらも注意が必要。
他にもある程度訓練に参加しているメンバーはいるけど、本気で取り組んでいるのはこのぐらいか。
当然ながら、王子たちの両派閥からも、晃司たちに対する注目度は高かった。
特に、晃司については並外れた才覚を示している。第二王子派にとっては、是が非でも確保したい人材となっているだろう。
尤も、晃司はその裏側の事情を知っているため、勧誘なんてものは逆効果にしかならないけど。
(とはいえ、他の皆はそうもいかないか)
少し負担にはなるだろうけど、この六人組については晃司に目を光らせて貰っておくとしよう。
残りのクラスメートについては、箱崎先生と栗原先生に頑張って貰うしかない。
幸いだけど、二人がメンタルケアに努めてくれているおかげで、部屋に引き籠るような生徒はいなくなった。
正直、先生たちがいなかったらと思うと背筋が寒くなる。
晃司がいたとしても、全員のメンタルケアをすることは不可能だった。
正直、戦闘能力面で見ると先生は最下位クラスもいいところなんだけど、大人が一緒にいてくれるという事実だけでも心の支えになっているようだ。
(……だからこそ、危うい)
クラスメートの状況は、全員モニタリングしている。
晃司達六人以外に第二王子派からの干渉がありそうで、かつ第一王子派のインターセプトが入らなそうな状況であれば、その度に先生に動いて貰っていた。
そろそろ、第二王子派にとっても邪魔な存在として認識されている頃だろう。
ここで問題となるのが、先生の戦闘能力のなさだ。
栗原先生が一緒に付いている時ならともかく、先生一人だけでは一般人相手でも勝てるかどうか。
訓練されている騎士が相手では、ひとたまりも無いだろう。
そしてそれは、第二王子派の面々も十分に理解できている筈だ。
(先生の存在は、召喚者たちのメンタルケアに必要不可欠。けど、そのメリット以上に邪魔であると判断された場合は――)
『マスター、警戒事項への動きを確認しました』
「……噂をすれば、か。アイ、情報を集めて」
『承知いたしました』
監視ゴーレムの制御の一部をアイに預け、僕は集まってくる情報の精査を続ける。
正直、アイがもう一人欲しいところではあるけど、今のラボだけでは人工精霊の生成を行うことができない。
しかも、自意識を獲得した顕霊の生成はクライヴですら成功しなかった分野だ。
しばらくは、今の体制で進めるしかないだろう。
「僕は情報を精査するから、エリちゃんはボードに貼り付けをよろしく」
「おっけー、わかりやすくしとくからね!」
「見易くなるだけでもありがたいよ。よろしくね」
さて、ここからは忙しくなる。
晃司たちがこの世界で活動するための地盤づくりのため、確実に決着をつけるとしよう。
* * * * *
「……郊外演習、ですか?」
「そう。危険な野生動物――いわゆる、『魔物』を相手にする戦闘訓練だそうだよ」
先生からの言葉を聞き、俺は思わず眉根を寄せた。
それはつまり、生き物を殺すということだ。
この世界に来てから魔法を、そして戦闘技術を学んできたけれど、実際に生物を殺す戦闘というのは初めてだ。
けれど――この世界で生きる上で、そして元の世界への帰還方法を探す上で、避けては通れない道だろう。
「戦闘訓練に参加している生徒たちは、全員参加となってしまう……申し訳ないが、これを避けることはできなかった」
「この世界で生きる上では、必要不可欠だから、ですか」
「そうだね、これについてはいわゆる宰相派も同意見だった。彼らが味方してしまっては、その意見を退けることは無理だ――まあ何とか、戦闘訓練メンバーだけに留めはしたけど」
「いや、それだけでも十分です。全員参加になっていたら、流石に皆が参っていましたから」
戦闘訓練に参加しているメンバーは、その中でも魔物との戦いを想定した訓練を一部受けている。
だからこそ、いずれは戦うことになるというのは――覚悟はできていなくとも、考えてはいた。
けど、戦闘訓練に参加していないメンバーはそうもいかないだろう。
生き物を殺すこと自体が無理、というメンバーも少なくはない筈だ。
先生が抑えてくれたことは、本当に良かったと言える。
「ただ今回の件――都築君から警告を受けている。これは、私を始末するための方策であると」
「ッ……!」
息を飲む。裕也からは、第二王子派にとって先生が邪魔になり始めているという話を聞いていた。
だが、もうそんな直接的な手段に出てくるほどになっていたとは――
「都築君は、この機会を用いて第二王子派にダメージを与える方法を提案してきた。私は、それに乗ろうと思う」
「先生! けど、それは!」
「危険は承知だよ。けど、この先私たちが安全に帰還の方法を探るためには、これは必要なことだ」
裕也の作戦だ、信頼はしている。
けど、先生に何かがあれば、クラスメート全員の心の支えを失うことになる。
それだけは、絶対に避けなければならないのだ。
なら――
「……危険が及んだら、必ず駆け付けます」
「それは本来、私が言うべき台詞なんだけどね」
苦笑しながら、先生はそう口にする。どこか、無力感にも似た感情を滲ませて。
どうしても避けられない不安を胸に抱きながら――俺たちは、郊外演習の日を迎えることになったのだった。




