第9話 初ヒットへの道
相変わらずメンタルの上下はあるものの、気持ちが入った時のコージは本当に凄かった。ストイックさは誰にも負けないほどだった。
指導してくれるテツヤも
「最初の頃はどこから手をつけていいか分からないほどのレベルだったのに上達の速度が速い。将来が楽しみですよ」
コージの父に言ってくれたものだ。
練習の熱意が認められて試合でも使ってもらえるようになった。と言っても代打出場がメインだ。
この頃は、いわゆるノーステップ打法で打っていた。テツヤ直伝の打法で、体のブレを少なくしてミートをしっかりする狙いだ。
「よし、行くぞ!」
代打で呼ばれて気合い充分に打席入り。しかし、結果は簡単には出ない。
ボテボテのゴロや三振……。
それでも、バットに当たると一塁にヘッドスライディングだ。コージは必死に頑張った。早くヒットが出るといいのだが。
コージは分かりやすい男だった。
試合で三振したら、なかなか家に入ろうとせずに素振りをずっーとやっていた。そして、家に入ってラーメン食べてフテ寝を決め込む。
父は提案した。
「コージが初ヒットを打ったら記念に何か買おう」
母も同意した。
「そうね。ソファーが古くなってきたから、コージが打ってくれたら買い替えようね」
提案したものの、ちょっと不安だった。
「ヒット打てるかな?出なかったらソファーこのままだな」
父はかなり年季の入ったソファーを眺めて呟いた。
次の試合もその次もノーヒットに終わる。
ノーステップ打法から足を上げて打つ打法に変更したが結果が出ない。
ヒットがないままシーズン最終戦を迎えた。
ここで出なかったら数ヶ月は試合の予定はない。冬の時期に入ってしまうからだ。