プール・ル・メリット勲章
「あ、ラインハルト。大丈夫か?」
ラインハルトはゲオハルトに声をかけられながらゆっくりと目を覚ました。彼は野戦病院のベッドに横たわっていた。
「ゲルト……」
「ん、どうした?」
「僕たちの部隊はどれぐらい生き残った……?」
ラインハルトは自身の容態よりも自分と共に戦った仲間たちの方を気にした。
「……決して、多いとは言えない。だけど、あれだけ絶望的な状況の中にいたのを考慮すれば、よくもあんなに生き残ったと言うべきだな」
「そうか……」
ラインハルトはゆっくりと体を起こした。まだ、体の至る所が痛む。
「無理するな。まだ、怪我は治っていないんだから」
ラインハルトは少し間を置いて言った。
「……僕のわがままでたくさんの仲間を死なせてしまった。申し訳が立たない」
「……」
「僕は生き残ることができたけど、でも……」
「随分、変わったな」
ゲオハルトはラインハルトに言った。ラインハルトはぱっとゲオハルトの方を見た。
「変わった?」
「ああ、変わったよ。ラインハルト。俺の知っているラインハルトは、数学以外に興味なんかまるでなかった。俺が誘わなければ、他人と積極的に関わることなんてなかっただろうな。でも、今のお前は違う。自分の責任を感じている。ちゃんと『仲間』のことを気にかけているように見える」
「……」
「なんで軍人になったんだ?」
「最初は別に軍人になろうと思ったわけじゃなかったよ。ただ、弾道学に興味があったから、実践してみたかっただけさ」
「お前らしいな」
「ふふ。……でも、いつしかその考え方も変わった。みんな、国を守るために戦っている。そして、その人たちが僕に託してくれたんだ。この国の命運をーー」
ゲオハルトは上を向いて言った。
「かー! 言ってみてえなぁ、そんなこと!!」
ラインハルトはきょとんした。
ゲオハルトは笑顔を見せて、ラインハルトの方を見た。
「でもよ、ラインハルト。辛い時は辛いって言うんだぜ? 一人でそんな大きなことを背負ってたら身が持たねえよ。例えば、ほら、恋人とかいねえのか? 今お前、国内で人気だろ?」
「人気ってどういうこと?」
ラインハルトは首を傾げた。
「前線にいると、国内のことはわからないか。今お前、ドイツを守る英雄として大々的に宣伝されているぜ」
「え?」
「いやぁ、俺も鼻が高いね。友人が英雄とは」
ラインハルトは、複雑な心境であった。英雄になろうと思って戦っているわけではなかった。
「お前ともっと話したかったけど、生憎、俺も仕事だ。ラインハルトに負けねえように頑張るさ」
ゲオハルトはベッド脇の席を立つと、個室を出ようとした。
「もう行くのかい?」
「ああ。っと、その前に……」
ゲオハルトはドアの前で立ち止まった。
「あの、アドルフ・ヒトラーとかいう兵士。借りていいか? 俺も一応、頑張って軍曹には上り詰めたんだ。使役する権利はある」
「伝令兵の彼を? 僕は構わないけど」
「ありがとう。それでは、中尉殿。失礼します!」
ゲオハルトは最後、敬礼をして立ち去った。一応、ラインハルトの方が階級が上だということを意識してのことかもしれない。
ゲオハルトが退出してから少し後、軍医が入室してきた。ゲオハルトが呼んだのかもしれない。
「致命傷となるような怪我はありません。このまま数日安静にしていれば完治するでしょう」
「ありがとうございます」
「あ、そうそう。東部方面から中尉殿に宛てて手紙が届いております」
そう言って軍医はラインハルトに、預かっていた手紙を手渡した。
「シュミット君から……?」
ラインハルトは手紙を読んで、眉間に皺を寄せた。
「何かまずいことでも……?」
「……」
手紙にはアグネスについてのことが書いてあった。ラインハルトは、オホートニクがシュミット経由で自分に手紙を出したことをすぐに理解した。
(アグネスに何かあったのだろうか……?)
ラインハルトは胸騒ぎがした。
軍医はラインハルトの様子を伺いながら、告げた。
「中尉、実はあなたに朗報です」
「朗報?」
「はい。どうやら、後日あなたに『プール・ル・メリット勲章』が授与されるようです」
ラインハルトは目を見開いた。プール・ル・メリット勲章とはプロイセン王国最高の名誉勲章である。ちょっとやそっとの戦功ではとても与えられるようなものではなかった。
ラインハルトは思わず、大きな声で尋ねた。
「ぼ、僕がプール・ル・メリット勲章!? そんなもの、なんで僕なんかが?!」
「いえ、むしろ適当な判断であると私は思っております。これだけご活躍なされているのですから」
ラインハルトは恥ずかしくなった。
「そうか……」
ラインハルトは、自分が帝国最高の栄誉勲章を与えられることに気持ちが追いついていなかった。
「プール・ル・メリット勲章ということは、皇帝に謁見することができるということですね」
「皇帝……」
ラインハルトは、かつて帝都・ベルリンで目にした皇帝の姿を思い出した。彼の姿は威厳に満ち溢れていた。
「一介の学生だった僕が、遂に皇帝と謁見か……」
「大変名誉なことであると思われますよ」
ラインハルトは緊張せずにはいられなかったーー。
読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。




