舞い降りた守り神の娘
「失礼します!通してください!」
「なんだね君は!?女性看護婦はここを通ってはならないぞ!」
「看護婦ではありません!将校です!えーと、階級は……」
アグネスは作戦室になかなか通して貰えず、焦った。見た目は男性兵士のように着飾っているが、顔が美しすぎて女性だとすぐにバレてしまう。警備兵はアグネスを看護婦と勘違いしたのだ。
しばらく問答を繰り返していると、中から声が聞こえた。
「何事か?」
「いえ、この女が……」
するとルーデンドルフが顔を出した。
アグネスはすかさず挨拶をした。
「突然すみません!ラインハルト・シュライザー中尉より派遣されてきました、アグネス・フォーゲルです!」
「そうか、君か……」
ルーデンドルフはにっこりとすると言った。
「入りたまえ」
作戦室には、ヒンデンブルクやホフマンがいた。彼らはアグネスを見ると興味深げな反応を示した。
「おお、やっと来たか。フォーゲル君と言ったね」
ヒンデンブルクがその険しい顔ににこやかな表情を浮かべて立ち上がると、アグネスに近づいた。彼は今や、ドイツ軍のみならずドイツ国中の英雄として見られていた。
アグネスは緊張で顔がこわばる。
「は、はい!初めまして、アグネス・フォーゲルと申します!!」
「はっはっはっ!緊張することはないぞ!」
ヒンデンブルクは大きな笑い声を上げた。
「少女を戦場に……。シュライザー中尉は面白いことを考えるな」
ホフマンは小さな声で呟いた。
ルーデンドルフは自分の席に着くと言った。
「フォーゲル君、君のことはシュライザー中尉から電報で頼まれている。事の次第はわかった。早速、ロシア軍と対峙してほしい」
「シュライザー中尉が……」
アグネスはすでに根回しされていることに驚いた。ラインハルトに対する尊敬の念が一層に高まった。
アグネスはすぐに戦線に向かった。
アグネスが前線へ赴くと数人の将校や下士官が歓迎してくれた。
「フォーゲルさん、お待ちしておりました」
「はるばるありがとうございます」
自分が軍に付き従い始めた頃よりもだいぶ対応が変わったように感じた。彼らは、『砲撃王』と行動をともにするアグネスにも期待をかけていた。
「みなさん、ご対応ありがとうございます。早速、戦況を教えてください」
ロシア軍は攻勢初期の時点で、正確な砲撃を行い、そしてそれに伴う大規模な突撃を敢行した。それは、今までのロシア軍の攻撃手段とは違っており、オーストリア軍は二十万人に及ぶ捕虜を出した。
すでに、戦線はボロボロの状態だ。
「正確な砲撃……?」
「はい。奴ら、的確に我々の主要陣地に砲撃を行なってくるのです」
「大砲の重要性に気付いたのか……」
「ですから、我々としてもフォーゲル殿のお力を借りて報復砲撃を行いたいのであります」
「わかりました。とにかく、作戦を練りましょう」
アグネスは作戦室に入った。
「ブルシーロフ司令官、少し軍を進めすぎたのではないでしょうか?」
ブルシーロフは地図を眺めていた。彼は、一言「ふむ」と言うとまた黙り込んだ。
ロシア軍は目覚ましい進撃を行い、見事にオーストリア軍を撃破した。しかしそれは、戦線が一気に伸びることも意味していた。ロシア軍は、進撃速度を少しずつ緩めていった。
ブルシーロフは顔を上げて言う。
「エーヴェルト殿が、援軍を送ってくださるかどうかにかかっているかもしれぬな……」
エーヴェルトはブルシーロフの攻勢計画に真っ向から反対した人物である。援軍は見込めなかった。
「司令官、それは少し厳しいのでは……?」
「だろうな……。これだから我が軍は勝てぬのだ……」
ブルシーロフは思わず愚痴が漏れた。彼は肘を机につき、頭を掻いた。
「ドイツ軍が動き出す前に方をつけたかったのだがな、やはりやり合う他ないか……」
ブルシーロフは机上に広がる作戦地図に描かれる東部戦線を指でなぞりながら呟いた。
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