恋情乙女
恋は愛らしい花であり、友情は甘い果実である。
アウグスト・フォン・コッツェブー(1761-1819)
「えっと、ケリー。まずはごめん。最後に会った時に君に失礼なことを言った」
ラインハルトはこの間のことを謝った。だが、ケリーはまったく気にしていないそぶりだった。
「別にいいわ。私が戦争のことをよく知らなかったのが悪いんだし」
ラインハルトはほっとして、話題を切り替えた。
「じゃあ、まず自己紹介だよね……」
皮肉なのか偶然なのか。ラインハルトとアグネスとケリーが今いる場所は、ラインハルトとケリーが最後に会ったカフェである。三人はとりあえず、自己紹介をすることにした。
「私は、ケリー・パウバルよ。ラインハルトとはベルリンで知り合ったの。私は大学生ではないけれど、ラインハルトの大学終わりにはよく、迎えに行っていたわ。ここ最近、いなくて心配していたのに、ひょっこり現れて、ほんとどういうつもり?」
「ごめん、これからちゃんと説明するから……。さあ、アグネスも自己紹介を……」
アグネスは黙ったままケリーをじっと見つめている。見つめている、というよりは睨んでいる、の方が正しいかもしれない。ラインハルトとケリーは困惑する。
「アグネス、どうしたんだい?」
「ケリーさん、あなたは中尉殿のなんなんですか?」
「え?」 「え?」
ラインハルトとケリーは各々、違う意味で反応した。
「アグネス、どういう意味?」 「ラインハルト、中尉ってどういうこと?」
二人は同時に聞いた。会話は成り立っていない。アグネスは、ケリーから目を離さない。
まず、ラインハルトが説明する。
「えっと、うん。ケリー、実は僕、軍人になって……。今は、中尉なんだ……」
ケリーは驚きのあまり飛び跳ねた。
「ラインハルトが軍人!?!」
ラインハルトは決まりが悪そうにする。
一方でアグネスは、質問に答えろと言わんばかりの表情をしている。ケリーはラインハルトの身の上のことが気になって仕方がなかったが、アグネスの質問に答えなければいけない気がしてとりあえず切り替えた。
「……いいわ、その話は後でゆっくり聞かせてちょうだい。で、アグネスちゃんだっけ?私はラインハルトのただの友人よ」
「本当ですか……?」
アグネスはなぜか疑っている。ラインハルトはアグネスがなぜ、そんなにも不機嫌そうにしているのか分からずにいた。よもや極度の人見知りなのではとも思ったが、ケリーの方がむしろ理解するのは早かった。
(あ、なるほど) 「アグネスちゃん、安心して。私は別にラインハルトとは恋人でもなんでもないから」
アグネスはそれを聞いて、胸を撫で下ろした。そして言う。
「そうなんですか。すみません、非礼をどうかお許しください。申し遅れました。私は、アグネス・フォーゲルです。今はラインハルト中尉殿の付き人をしております!」
「へー。え?女の子なのに軍隊に付いていっているの?」
「はい!」
ケリーは驚いて開いた口に手を当てた。ラインハルトは場の空気に付いていけていない。
なんだかんだ女子二人の会話は弾み、その成り行きでケリーはこれまでのことを聞いた。
「なるほどね……。ラインハルト、あなた。とんでもない人材だったのね……」
「僕はそんな自覚ないけど……」
「だって、タンネンベルクの戦いでドイツ軍が勝った時なんか凄かったのよ。みんな、熱狂」
ケリーはベルリン市内の様子を色々教えた。アグネスはラインハルトの戦功についての話になると、首を大きく縦に振って聞いていた。
「そうだったんだ……」
「中尉殿はすごい方なんですから!」
アグネスの方が誇らしげにしている。ケリーは面白い子が来たものだと思った。
ラインハルトは途中、用を足すために席を外した。ケリーはアグネスに顔をぐっと近づけると聞いた。
「アグネスちゃん、ラインハルトのこと好きなんでしょ?」
アグネスは顔を真っ赤に染めた。口をぱくぱくしている。
「命を救われたらねぇ、惚れるよねぇ。ラインハルトは顔もイケてるしね」
ケリーは冗談まじりに言う。
「その様子だと、まだ想いは伝えていないみたいだね。気をつけるのよ。彼、とんでもなく鈍感っぽいから」
アグネスはなんとなく気が付いてはいた。これまでも、ラインハルトの鈍感っぷりは側で見てきた。
「それと……」
ケリーは付け足した。
「人の愛し方も少し勉強した方がいいかもね」
「それってどう言うことですか?」
アグネスは気になって尋ねたが、ラインハルトがちょうど戻ってきてしまったため、答えは聞けずじまいになった。
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