アグネス・フォーゲル
暗闇の中、人の役に立つようランプを運ぶことを喜ばないものがいようか。
F・スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)
ビュー ビュー
「さむい…!」
ラインハルトは12月の凍てつくような寒さの中、大砲の整備を行っていた。冬は大砲が凍りつく可能性があったため、念入りな整備が必要であった。
ラインハルトが大砲の整備にあたっている最中、少し遠くの方で騒ぎがあるのを感じた。
(なんだろう?)
ラインハルトは兵士同士のいざこざだろうと思っていたが、どうやら違うようであった。そこには二人の兵士に腕を掴まれながら暴れる少女がいた。
「離して!!離してください!!!」
少女の側にはGew98が落ちている。
ラインハルトはすぐに事情を聞いた。
「何があったんですか?」
「ちゅ、中尉殿!すみません、この小娘が銃を盗んでいこうとしたものでして…」
「銃を?」
ラインハルトは不思議に思った。何故、この可愛らしい少女が銃なんて物騒なものを奪おうとしたのか。ラインハルトは取り押さえられている少女に尋ねた。
「君はなぜ、銃を盗もうとしたんだい?」
少女は甲高い声で叫ぶ。
「私の村を、村の人たちを、…助けるためだ!!!」
「村を?」
ラインハルトは詳しい情報を聞くために少女を自分の露営地に誘った。見ればその少女はしもやけがひどく、相当な距離を彷徨ってきたのだろうと検討がついた。
露営のためのテントは簡易的なものであったが、ストーブがいい感じに空間を暖めてくれた。
少女は少し震えている。
「コーヒーだけど、飲める?」
少女は小さく頷く。毛布にくるまっている姿は案外可愛い。
少女はコーヒーで舌を火傷しそうである。
「はは、熱すぎたかな?ところで、君は何歳なんだい?」
少女はコップに唇をつけながら答える。
「17歳…」
ラインハルトは自分と大差ないと思った。
「そうなんだ。僕とほとんど変わらないな」
少女はコップから口を離し、ラインハルトの方を見る。
「あなたは何歳なの?」
「僕は今年で20歳さ」
少女は驚いていた。自分とさほど年齢の変わらない目の前の青年が、数人の兵士を連れて戦場にいることが意外なようだ。
ラインハルトはまた、尋ねる。
「君は一体、どこから来たんだい?」
少女は答える。
「ハイデル村…。ここからちょっと歩く…」
ラインハルトは机に置いてあった地図を見て、場所を確認する。だが、それらしい村の名前は記載されていなかった。
「そんなに有名でもないから、地図には載っていないかもしれない…」
そう言って少女は村の場所を指差す。
「なるほど。ちょうど東部戦線のど真ん中…、なぜ避難しなかったんだい?」
少女は少し沈黙してから言う。
「私たちは、世間とほとんど隔離されたように暮らしていたわ。そんな田舎者が突然、疎開したって行くあてはないでしょう?余計に住みにくくなるだけ。それよりも、祖国の防衛と進撃を祈って村に残る方がよっぽど、国民として模範的でしょう?」
ラインハルトは、少女がやけに知的なように感じた。
「ふ〜ん。あ、君の名前を聞いていなかった!まず、僕の名前だけど、ラインハルト・シュライザーと言います。君は?」
「私の名前は、アグネス。アグネス・フォーゲルよ。アグネスでいいわ」
「そうか、アグネス。よろしく」
ラインハルトは手を差し伸べて握手をしようとしたが、アグネスに無視された。ラインハルトは仕方ないと思いながら、次の質問をする。
「アグネスは銃を持ってどうするつもりだったんだい?」
「さっきも言ったけれど、私の村を解放するためよ。ロシア軍に占領されているの」
「君一人で奪還するつもりだったの?」
アグネスは黙った。どうやら図星らしい。
少ししてアグネスは声を荒げて主張した。
「仕方ないじゃない!私の村は戦略的に重要な地点ではないわ!それなのに私の都合で、軍にお願いして村を解放してくれなんて頼めないじゃない!」
ラインハルトは腕を組んでアグネスの悲痛な叫びに耳を傾けた。村を救うために一人ででも戦おうとするその熱意にラインハルトは感心した。
(17歳の僕なら勉強のこと以外、何も気にしていなかっただろうなぁ…)
ラインハルトはそんなことを思いながらも、一度大きく頷くと地図をじっくり眺めて黙り込んだ。
アグネスは不思議そうにその様子を見る。
しばらくしてラインハルトは口を開いて告げた。
「アグネス、村を取り返しに行くよ」
読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。




