最終話 幸福
温かな木漏れ日が差し込む、森の中。
小屋の側にある切り株に腰掛けて、リンゴに似た果物の皮を剥いていく。
ふと肩に重みを感じて振り向くと、いつの間にか帰ってきていた、彼が肩に顎を乗せて私の手元を覗き込んでいた。
いつか、彼がウサギの形のリンゴにキラキラと視線を向けていた事を思い出す。
ふふ、と笑みを零した。
変わってないなぁ、なんて。
「ラビットの形にする?」
「!!……できる、のか?」
つたない口調でそう言った彼は、興奮したように獣耳をぴこぴこと動かす。
彼の獣耳は、口ほどに物を言うらしい。
「ふふ。切ってあげるから、待っててね」
そう言えば、彼は蕩けたように、私を見つめる。
「……『ありがとう』」
他の言葉よりも、しっかりと紡がれたその言葉。
それに私はふわりと微笑んで、彼の耳元に口を寄せた。
「こちらこそ、ありがとう」
囁いた言葉に、彼の後ろでゆらりと嬉しげに尻尾が揺れる。
横を見れば、私たちの家である小屋がそこにある。
彼の方に視線を戻すと、頬が赤く色付いていて。
私はそれに、リンゴみたいね、と頬をつついて笑った。
ムスッとする彼の口元に、切り分けた果物を運ぶ。
懐かしくも、ちょっと違う甘い味。
それに、二人で笑いあう。
これは心優しい少女と、独りぼっちだった獣人の話。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。




