第16話 真夏の総選挙 <前編>
無慈悲にも、真夏の太陽は地上の少女たちを容赦なく焦がしていく。
その太陽の直下では、3人の少女たちが向かい合っていた。
紋義、そして霊夢と萃香である。
「それじゃっ、真夏の大総選挙、はっじまっるよーっ♪」
紋義はいつもながらこのハイテンションであったが、いつもとは明らかに姿勢が違っていた。
「今更だけど...。
こいつ、敵に回すとややこしわいわね...いろんな意味で」
「うん...いろんな意味で」
彼女はこじらせると難儀なことを、改めて思い出す霊夢と萃香だった。
「よし、そうとなったら私たちが先手で行かせてもらうわ!
萃香!」
「いっちょあがり!」
萃香の掛け声と同時に、霊夢がおなじみのスペルを展開し始めた。
「 霊符『夢想封印』 」
宙に浮かぶ霊夢の周囲に、色とりどりの光球が出現し、霊夢が視線をとがらせたその刹那、紋義のほうへと一斉に、まるで極限まで弦を張りつめ、一瞬のうちに手を離して飛んでいく矢のように、激しく飛び交いながら飛んでいった。
光珠の矢群は紋義の背面の岸壁に突き刺さり、強い衝撃波とともに砂埃が舞った。
「うわっ! げほっ、こほっ...。
...いったぁ...。
...あっ、あなた達専用の握手会だからっ、て、そっ、そんなに激しく握手しなくって、も...ごほっ」
紋義はしょっぱなからの開幕射撃に恐れおののいて、すっかり腰を抜かしてしまっていた。
「ふえぇ...。
もうやだぁ~」
「ほぉ、やるじゃん、霊夢」
「はぁ? 何年妖怪退治してきてると思ってんのよ?
ははっ、ただの妖怪でしょ? それくらいはちょちょいのty」
ドドドドドドドドドドド...
「...えっ?」
気が付くと、紋義はうつむいたまま、怪しい発光をする数多の弾幕を展開しようとしていた。
「ちょっ、この展開はないでしょ...」
「...あたしがこのままへたれるとでも思った?
おバカなファンたちさん」
うつむいていた顔を上げると、そこには何やら企み顔にも見える満面の笑みが覗いていた。
これからが正念場だと、二人は覚悟した。
「霊夢、構えて」
「ええ...」
すると、堰を切ったかのように、数えきれないほどの赤い光球があふれ出した。
「んじゃ、いってみよー!」
『 陽光「日吉山王大権現」 』
岩壁の向こう側からあふれる光球は、まるで山際から見る日の出のようであった。
しかし、そんな美しい光景を目にする暇もなく、光球が霊夢や萃香を逃げ惑わせた。
「くっ、なんなのよしつこいわね!
調子に乗って弾幕濃すぎない!?」
「しかもこれ、ちょっ、まって、熱っ!」
「へへーん、どう?
私のお手製サイン入りミニ太陽弾幕」
「へへーんじゃないわよ!
ってかここ、さっきより日差し強くなってない!?」
それもそのはず、彼女が活性化してからは、明らかに周囲の日差しが激しくなっていた。
酷い日照りにやられたせいか、霊夢と萃香はみるみるうちに体力を消耗させられていく。
「ぜぇっ、ぜぇっ、あぁ~!
暑い!!! 死ぬ!!!」
「えぇ~? もう降参する~?」
「そっ、そんなわけないでしょ!」
「まっ、まだまだぁ」
紋義の目には、明らかに暑さで満身創痍に見えたが、霊夢と萃香はなんとか耐えきっていた。
「じゃあ、もうちょっと遊んでいってもらおっかな~!」
『 神符「猿騒の申示」 』
紋義のスペル詠唱とともに、霊夢や萃香の周囲に小さな猿のような式神が現れ、円陣を組んで彼女たちを取り囲んだ。
そして、紋義が手を振りかざして日光を降り注いだその瞬間、猿の式神たちが一斉に暴れだし、ついさっきよりもさらに小さく煌めく弾幕が辺りに散布された。
「チッ、なんなのよ一体!
おかげであいつを見失なったじゃない......!」
「霊夢!
ほら、奴が逃げてる!」
「...何ですって!?」
弾幕が彼女たちを錯乱させている隙を狙って、紋義は早々と鬼ヶ岳の背面へと逃げ込んでしまっていた。
「もうこうなったら強行突破よ!
萃香!!!」
「あ、うん...」
「ってかこの弾幕どうすんの!?」
オリキャラ解説 No.2
紋義 <その1>
小さなアポロン
狒楽 紋義
Hiraku Mongi
種族:猿神
能力:太陽を操る程度の能力
「猿神」と呼ばれる妖怪の一人。
ただし「猿神」とは、古来から人々の間で神の使いとして信仰されてきた妖怪であるため、「犬神」とは名前は似るものの、全く格の違う別の存在である。
神のお告げを民衆に伝えるのが本来の役割であるが、現在では神との境界線が曖昧になり、彼女たち自身が太陽神としての権限を振ってしまうようになってしまった。
おかげでどこぞの山の神もいい迷惑、といったところだろうか(既視感)。
とにかく明るく、常にアイドル全開で推していく性格。
普段は抜かりなく元気で、まったくかげりの無いようにさえ見えてしまうが、実際は非常に裏表が激しい性質で、一度拗ねると元に戻らない。
この難儀な性格が災いしてか、紋義と話をした人には一様に疲れ顔が見えなくもない。
実際彼女は、幻想郷の妖怪ではなく、もとは外の世界出身の妖怪であった。
しかし、幻想郷に拠点を移せざるを得ない事情が、彼女にはあったのである。
<その2>に続く...




