初めての風紀委員会 1
「それじゃあ、記念すべき第一回目の風紀委員会を始めまーす」
椅子に座りながら、嬉しそうに両手を広げて言う小森先生に、ルネ君が盛大な舌打ちをした。私はというと、この犬におもちゃでも投げてやろうかとバッグの中を漁る。
「ちょっと、そこの二人。先生の話をちゃんと聞きなさぁーい」
「貴方の話の九十八パーセントがどうでもいいと思ったんで聞かなくていいですか?」
「待ってルネ君、それ酷い! 助けて灯織ちゃん、この人がひどいよ!」
「私に話を振らないでください、困ります」
味方を失った小森先生の耳が垂れさがる。
しかし「あの、委員会はじめないんですか?」と言う声がかかり何とか元気が出たようだ。
「そうだね、じゃあはじめちゃおう。まずは風紀委員と副委員長を決めないといけないんだけど……誰か立候補はいる?」
ぐるりと教室を見渡すも、面倒な仕事、誰も率先してやろうとはしない。そのうち「お前がやれよ」と言う声が、一人の先輩にかけられた。
「え、俺?」
一番廊下側の席の一番前。三年一組が座る席なので、その先輩が三年一組だと分かる。
ふんわりとカールした髪は色素が薄い。ルネ君ほどではないので、元々色が薄い人なのだろう。高めの鼻に、薄い唇。制服はだらりと着崩している。
「行けよ、要!」
後ろの席の人に背中をつつかれ、じゃあ、と渋々手を挙げた。
「おお、すごいすごい。君、名前は?」
「霧生要です。珍しい名前なので憶えやすいと思います」
「そうだね、覚えやすい。えっと、…………何だっけ、灯織ちゃん」
席が一番前と言う事もあって、私にひそひそと助け舟を要求してくる。スルーしようと思ったが、私の次はきっとルネ君に行く。今の彼はただでさえ機嫌が悪いので、とりあえず答えておくことにした。
「霧生要先輩ですよ。ちゃんと覚えてください」
なるべく目立ちたくないので、視線を外してこっそりと教える。
答えを聞くと、「そうだったね、要くんだ」と嬉しそうに、決してきれいとは言い難い字で黒板に名前を書いていく先生。
「何かあの人、苦手かも……私よりキャラが立ってるし」
「そういう問題なのか? それより、副委員長って学年関係ないんだよな」
「ううん、一年一人に二年一人。いわば、一年代表と二年代表ってことかな?」
「……そうか」
お前、死んでもそれになれ位の事を言われる覚悟だったのだが、意外と何も言われないのにビックリする。
「じゃあ、それは俺がなったほうがいいかもな」
「そうだねー………………え?」
あまりにも自然に言われたのでびっくりして思わず聞き返す。どうした、私聴力検査受けた方がいいのかな……。
耳を叩いていると、「何やってるんだ、キモいからやめろ」と言う容赦ない言葉が胸に突き刺さる。うん、今完璧「ぐさっ」って効果音が付いた、完璧に。
「お前はなるべく目立たない方がいい。むしろ生徒会に目をつけられる。俺は一回生徒会に勧誘されてるから、お前ほど目をつけられることはないと思う」
「なるほど。じゃあ生徒会の裏の顔も言わない方がいいのかな」
「そうだろうな。特に笠田だ」
生徒会顧問の名前が出てきて、私は思わず驚く。思いもしなかった人だ。
「何で笠田先生?」
「あいつは熱血だ。ばれたらあいつら怒鳴り散らすだろ。そうすると怒りの矛先は告げ口をした俺らに向かう。そうなると面倒臭い」
「確かに……」
うんうんと頷いていると、副委員長の一年生を決めるらしく、小森先生が「それじゃあ、副委員長かっこ一年生を決めまーす!」と張り切っていた。目線は完全こちらに向いている。
そうだよね、ここには何と元・生徒会会計のルネ・ブランジェ君がいるんだもの。そりゃあやってほしいよね、分かる分かる。
「じゃあ手を挙げるのめんどくさいからお前が言え」
「……何で私が…………」
「良いから早く」
「………………はい」
むう、と唇を尖らせながらも手を小さく挙げる。
元気よく「はい、灯織ちゃんどうぞ!」と指名され、私はしぶしぶ立ち上がった。
「えっと、私は――」
「はい、皆灯織ちゃんに拍手ー。ぱちぱちぱちーっ!」
「……はい?」
突然拍手をし始めた先生に、私は大きな声で反論する。が、なぜか教室内にぱちぱちと乾いた拍手の音がまばらに響く。
私とルネ君は呆然して目を見合わせる。いつもは眠そうな瞳をぱっちりとあけていて、心底意味が分からないようだ。
いや、混乱しているのは私の方なんだけど。
「あの……?」
時間がたって、拍手が完全に消えた時、おずおずと聞いてみる。先生だけはまだ拍手をしている。
「ん? 何?」
ようやく拍手をやめたものの、手にはチョークを持って何かを書こうとしている。嫌な予感がするんですけど……。
「あの、先生は何をしようと……」
「いやぁ、副委員長の名前を書こうと思ってね。松葉杖取ってくれる?」
「はあ……じゃなくて! 誰なんですか、副委員長って」
すると、こてりと首をかしげてから、ニコリと笑った。
「もーう、何々灯織ちゃん、そんなに言ってほしいのー? 自分の名前」
……待て待て待て。私は何を聞き間違えているんだ、何で私が副委員長何て……っ。
「それではみなさん、副委員長の橋田灯織ちゃんにもう一度拍手をー」
再び起こる拍手の中、ルネ君と視線を交わしたのだった――。
何で、私が。
要君は次回たくさん登場する予定です←
それより、何してるんだ犬ッ! と言いたくなりますね
犬は基本犬です。人の話に耳を傾けないと言う得意技を持っています←
それより一体何人のキャラを登場させる気なんだろう、自分……