お嬢様の欲しい花 第2話
わたくしを待っていて下さったのは短髪にきりっとした眉、スーツ姿という洋装をした麗人住友真由さんでございます。
「春江様やっといらっしゃいましたね。」
「真由様こそ。」
「真由様はやめて下さい。下級生なのですから。」
真由様もわたくしに手紙をくださる娘達と同じ1年生なのです。
「いえ、わたくしこそ春江様なんて。わたくしのが年下なのですから。」
わたくしが真由様と出会ったのは入学式の次の日の事でした。お昼休みにいつものように薔薇のあーちをくぐって中庭へ向かいました。わたくしがいつも座るテーブルに彼女がいたのです。先客がいたのなら仕方ありません。わたくしが諦めて帰ろうとした時です。
「あの!!」
彼女がわたくしを呼び止めます。
「入学式でピアノ弾いてた方ですよね?」
「ええ。」
わたくしの事認識してくださってたようです。
「ええ。貴女新入生?!」
「はい。宜しければ一緒に食べませんか?」
わたくしは向かいの席を勧められ一緒に昼食を取る事に致しました。
彼女は住友真由さんと言って住友財閥の令嬢でした。初等部の頃長らく入院していて高等科に上がられてから復学されたそうです。
「2年も入院してたから同じ教室の娘は知らない娘ばかりなんだ。」
2年?!その一言がわたくしの中で引っ掛かる。
「だから僕、今年で15才なんだ。」
真由様はわたくしより1つ年上でした。大人びた顔付きの理由はそれだったのでしょう。
「貴女にお願いがあります。」
「わたくしに?」
「はい、宜しければ僕のためにピアノを弾いてくれますか?」
「わたくしで良ければ。」
「ありがとう。」
真由様はわたくしの手を握ります。
その日から部活のない放課後は1時間だけわたくしと真由様の時間になりました。
「お待たせ。」
わたくしが音楽室に行くと先に真由様が待っていてくれます。わたくしは持ってきた楽譜を出そうとします。
「あの、この曲をお願いしたいんです。」
真由様が取り出したのは歌曲集です。
「課題曲がこの中に入ってるんです。」
「課題曲?」
真由様曰く来年西の方に少女歌劇団というものができるそうです。団員は全員女の子だけで男の役も女の子がやるのです。真由様がやりたいのはその男の役だそうです。
「それで男のような装いを?」
「はい。だけどこの通り身体が弱くてね。だけど一度だけならという条件でお母様も許可してくれたのだよ。」
試験には歌唱があり、わたくしに歌唱レッスンの伴奏をお願いしたかったそうです。