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第四話

 スミレが家に来てから、あっという間に三か月が経った。茜の体調もすっかり回復し、もう心療内科に通う必要もなくなったように思えた。

 秋のお彼岸。茜の両親の墓参りにもスミレは付き合ってくれた。この時期の墓地管理事務所は結構混んでいることが多いため、茜を事務所前で降ろし、彼女が手続きをしている間に駐車場に車を停めた聡司とスミレが花を買っていくことになった。車を降りて歩く道から見える河川敷かせんじきには、彼岸花ひがんばなが所狭しと咲き乱れていた。

「綺麗」

 溜息と共にスミレが呟くのが聞こえた。

「子供の頃から、お墓参りで見る彼岸花が大好きで、学生の時ホームセンターで『リコリス』っていう名前で球根が売られているのを見付けて買って帰ったことがあるんです」

 普段は口数が少ないスミレが珍しく話し始めたので、聡司は足を止め、彼女の視線の先に目をやった。群生する赤い花は可憐でもあり毒々しくもあり、何故か物悲しくも見えた。

「大切に育てていたんですけれど、花が咲いた途端、母に捨てられてしまいました。お墓に咲く花なんて気持ち悪い。これは死人花しびとばなって言うのよって」

 死人花、曼殊沙華まんじゅしゃげ。葉を伴うことなく咲くこの花を嫌う人は多い。縁起が悪いなんて、誰が決めるのだろう。

「お墓の近くに咲くからって、何故嫌われなきゃいけないんでしょう。ただ一生懸命咲いているだけのに。そんな話をアカさんにしたことがあるんです」

「茜に?」

 スミレは聡司の顔を見て、優し気に笑った。

「アカさんは、こう言ってくれました。『彼岸花はね、誰にも教えられなくてもお彼岸に咲く賢い花なのよ』って。私とても嬉しかった」

 聡司は口元がゆるむのを感じた。それは正確には茜の言葉ではない。聡司の母親の口癖だ。母と茜はとても仲が良い。体調を崩してからは暫く実家には帰っていないが、久しぶりに顔を出してみようかと思った。

 ベクトルが幸せな方に向かっているように思えた。ずれていた歯車が少しずつ噛み合い動き始めている。そんな気がした。

「あ、白い彼岸花を見付けました」

「どこどこ⁉」

「あそこです。アカさんに見せてあげよう」

 スミレはスマホを取り出して白い彼岸花を写真に納めた。


「インスタのアカウントを新しくしたから、この写真を上げてみたの」

 夕食後にスミレお手製の梅酒シャーベットを食べながら、茜は言った。

「桐谷さんが撮った写真?」

 画面をのぞき込んだ聡司は、赤い花の中に見事な存在感を持って咲く純白の彼岸花に「ほう」と息を吐いた。

「上手いもんだね」

 そう言った聡司に向かって、茜は自分が褒められたように嬉しそうに笑った。

「あの子は多才なのよ。頭もいいし。でも何故かしら。驚くほど自分に自信がないの。引っ込み思案で、人が怖いみたい」

 昨年起きたという事件のせいだろうか。それとも母親との関係のせいだろうか。彼岸花を捨ててしまったという。

「友達もいないって言ってた」

 ふと声のトーンを落とした茜の肩に、聡司はそっと腕を回した。

「大丈夫。桐谷さんには君と、そして僕がいるから」

「ありがとう」

 聡司の手を握ってそう言った茜を、聡司は力を込めて抱き締めた。

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