第二部 5
楽しんで頂けると嬉しいです!
いつまでそうしていただろうか。
ノアの温もりが心地良くて離れがたい。
「ナディア、寝ちゃったの」
ノアの話す声が柔らかで安心する。
いつの間にか深い夢の中へ誘われる。
「僕はウォール国から来たんだ。だから、僕の事は他の人に言ったらダメだよ」
自分の事を話さないし病院には行きたくないと言っていたから、普通の人ではないと思っていた。
体の調子も良くなり、だいぶ打ち解けたと私は思っていた。
そんな時、彼は話してくれた。
自分は孤児で不当な扱いを受けていた。生活は想像を絶するものだったと。死にそうになった時に運良く貴族に拾われ間者の様な仕事をさせられていると語っていた。
私は彼に同情して涙し、彼が少しでも私といる時は笑っていて欲しいと思っていたと思う。
彼のお世話をしていて不思議に思うことがあった。所作がとても綺麗だった。貴族しか身に付かない礼儀が隠し切れていなかった。
私は彼との関係が心地良く感じて、気付かない振りをした。
別に彼は何者でもよかった。私が生きてる意味を感じたかっただけ。生きた証が欲しかった。
彼を助けて2週間ぐらい経った頃。
『ありがとう』
一言書き置きが置いてあった。
私はまた、生きる意味を探す事になった。
いろんな人と関わり、自分が出来る事をしていた。
そして、私は地下牢に入れられる。
彼は現れて全てを諦めた私に逃げてと言うのだ。
なんでこんなに彼の事が心に引っかかるんだろう。
「いつか報われる日が来る。今は我慢の時なんだ。だから、生きて。僕が迎えに行く」
今度はそう聞こえた気がして、涙が出た。
「……エルム」
ベットの上で目が覚める。
走馬灯のようにあの時の出来事を夢に見た。
手に温もりを感じて顔を横に動かすと、戸惑った表情をしたノアが私を見ていた。
「ノアごめんなさい。寝てしまって」
「ねぇ、エルムって誰?」
ノアの一言で自分が声を出して名前を呼んでしまった事に気がついた。ノアはエルムは知らないはずだし、何とかなるはず。
「夢の中だからわからないわ。ごめんなさい」
「……トーマを見てエルムって言った?」
呟いた言葉は誰かの耳に届いていた。誤魔化しは出来ないと悟った。血の気が引いていく。
本当の事を言ったらノアにどう思われる。気味悪がられるかも知れない。気持ち悪いと言われたら。
もしかしたら、間者と間違われるかも知れない。信じてもらえなかったら私は……。
「そ、それは……」
「それに、ラクール公爵は孤児や浮浪者の話はしないよね。ナディアが街の治安が悪い場所はいけないでしょ。じゃ、誰から聞いた話なの?」
ノアの顔が悲しい表情になっていく。ノアの手は優しく私の頬を触る。
「ナディア、君を疑いたくないんだ。だから、本当の事を話して欲しい」
「……わかりました。嘘みたいな話ですが私の人生なんです」
私は口を開き全てを話した。
3度死に今は4度目の人生を生きている。死んだら、婚約発表した日に戻ること。
1度目は皇帝陛下に毒を盛ろうとした罪。
2度目はウォール国の貴族と繋がり間者となった罪。
3度目は知識を高め国家反某を企てた罪。
2度目の時に街で孤児や浮浪者を支援していた。
その時に街の路地で助けたのがエルムと名乗るウォール国の人だった。
黒い髪に赤い瞳のトーマ殿下に似ていた。
彼が私が地下牢に入れられた時に助けに来てくれた事。
その出来事を夢見ていた事。
わたしの話は支離滅裂で、自分でもこんな話信じられない。
ノアにどう思われるのか、心臓が強く動いて手足が震えてる。
私の話を黙って聞いていたノアは、しばらくして私に視線を合わせる。
「……あの時。ルードとの婚約を待ち望んでいたはずの君が、瞳が冷たくて全て諦めてるように見えたんだ。僕が守らないと消えてしまうんじゃないかって思った」
ノアは私を抱きしめる。無意識に一歩引いてしまう。でも、ノアは抱きしめる力を強くする。
「僕はナディアを信じる。でも、少し時間をくれないかな。……エルムの事も話したいから、整理させて欲しい。僕がナディアを愛してる事実は変わらないよ。大丈夫だよ。ゆっくりおやすみ」
ノアは額に口付けを落とし私の部屋を出ていく。とっさにノアの服を掴もうとして止まる。
扉が閉まる音がやけに大きく聞こえた。
ノアが居なくなり部屋の中が嫌な静寂に包まれる。
眠れそうになかった。今は何も考えたくない。
1人部屋を出て中庭に向かう。
三日月や星々で暗い中庭に少しの光が差し込む。
しばらく眺めていると後ろから声が聞こえた。
「あら、こんな夜更けに警戒心がないんですね」
リーファ姫が笑いながら近づいてくる。
笑い方が不気味な気がして後退りする。
「あら、ノア様に夜に1人で出てはいけませんて教えてもらってないんですか?」
もう後ろに下がれない。リーファ姫は距離を詰める。狂気じみている笑顔で言う。
「なんで貴女なの?前は誰かの婚約者で今度はノア様の婚約者。我がまま過ぎません?」
怖くて声が出ない。
「もう、幸せ味わいましたよね。じゃ、ノア様は私に任せてください」
リーファ姫が言っている意味がわからない。
「何を言っているんですか」
リーファ姫の後ろから出てきた数名の人が私を捕まえようとしてる。
私は抵抗するが何も出来ないまま捕まってしまう。
「殺しはしません。ただ、大切な物いただきますね」
「いや、助けて。ノア」
「汚らわしい声でノア様の名を呼ばないで!」
甘い匂いがして力が抜ける。立ってられない。逃げないといけないのに。
「これは要りませんよね。では、おやすみなさい。ナディア様」
リーファ姫は私の指からノアからもらった婚約指輪を取り花壇に投げる。私は指輪を追おうとすると、お腹に激痛が走り思考が停止する。
誰かの悲痛な声がして私は目を開ける。
「ナディア良かった。どこか怪我はしてない?」
凄く心配していたんだろう。悲しい顔をしていたのが私の顔を見ると笑顔を見せた。
「貴方はどなたですか?」
私の知らない方が手を伸ばしていた。
私にはルード様がいるのに手を取るわけにはいかない。親切にされるのはありがたいけれど。
「自分で起き上がれます。お気遣いありがとうございます」
なぜか胸が痛かったけど、私はやっとルード様と婚約出来たんだから。今はルード様に興味を持ってもらえないかも知れないけど、いつかきっと私を見てくださる様に頑張らないと。
見渡しても私の知っている場所ではない。
「ナディア。僕が分からないの」
「申し訳ありません。どこかでお会いした事あったんですね。ですが、私はルード様の婚約者です。ご無礼をお許しください」
何でそんな泣きそうな顔をしているんですか。私はそんな顔を見たくない。なんで、見たくないんだろう。なんで……。
急に体が重くなり目の前が暗くなる。
『ナディア』
誰かの優しい声が頭の中で聞こえて、何かを思い出しそうなのに頭が割れるぐらい痛い。
『ナディア愛してるよ』
誰かが笑顔で愛おしく囁く。私は嬉しく思っている。
私の意識は途切れた。
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