初戦最強。異世界の王様。
健師は気だるそうな体をゆっくりと起こし、パソコンに向かう。が、寝起きなためやる気が全く起きない。スマホを取りだしイヤホンを着け、音楽を流す。キーボードに手をかけパスワードを入力し、画面に「ようこそ」の四文字を表示させる。マウスを動かし、「神鈴団」と書かれたアイコンにカーソルを合わせ、ダブルクリックする。すると、パソコンの画面上に「World distortion」と書かれたウィンドウが出てくる。これを見て健師はため息を吐く。
「まあ、この有様だしな…」
ウィンドウ内には大量の「Safety」の文字。歪みを引き起こす存在の討伐が仕事なのに、その仕事が一件もないと苦しくなる。
「これが神鈴の現状なんだよねー…」
「絶望的スぎるな…」
しかし、色々な世界を見すぎて気づかなかったが、自分達のいる世界に赤色の「Danger」の文字が光っている。これを確認し、すぐさま「Danger」をクリックする。それと同時に健師はイヤホンを外し、二人に話しかける。
「おい、これって…」
すぐさま帳之が回答する。
「…あぁ。討伐対象だな。スぐに倒しに行こう。」
帳之が発言した直後、健師は音楽を流していたスマホを操作し、耳に当てる。
「…もしもし、青山か?全員を本部に集めてくれ。」
『ようやくっすかぁ…最近金欠なんで、ドカンと行っちゃいましょうか!!』
三人はエレベーターで下に降り、車に乗る。乗車してから一分少々経過した時、運転席に男が乗ってきた。
「すいません…遅れてしまいました。」
男の申し訳なさそうな発言に健師は、
「いや、いいよ。河部もやりたいことがあるだろ?」
と優しめに回答した。
「目的地はどこなんでしたっけ?」
河部の質問に、
「渋谷。千葉から高速だったら遠いけど、異世界使えば近いだろ?」
と回答と質問で返した。
「そうですね、15分くらいには短縮されます。」
「花音と南と池野いるから、三人の所在地寄ったらどのくらいかかる?」
「30分かからないくらいですね。もう出発してしまって大丈夫ですか?」
「ま、いいだろ。」
「では出発します。御三方とも、シートベルトしといてくださいね。」
河部がアクセルを踏み、車が勢いよく動き始める。それと同時に健師は助手席の青いボタンを押す。
「青山?ビルの下出たぞ。残りのメンバーはGPS起動してその場で待機って連絡して。青山は達川と一緒に俺らのフォローよろ。」
『へい。りょーかいっすー。』
青山が気だるげに答えたのを確認し、健師はスマホを取る。メールを送るような動作をみせ、車酔いしないうちに光と共に手元から消して見せた。
「健師くんー。スマホを異世界管理庫に入れてるのは不便じゃないのー?」
「取り出すのに2秒くらい使うのは問題だけど、戦闘の時にかさばらないからね。」
異世界管理庫というのは、異世界にある神鈴のアイテム管理庫。念じるだけで出し入れできる優れものだ。
それから1分ほど経過し、車は学校の前で止まった。
「ホームルーム終わった直後に呼び出すとか正気?今日が五時間授業じゃなかったら終わってたんだけど。」
こういう文句をたれつつ、健師達より一回りくらい小さい少女が乗ってきた。
「花音。スマン。人材不足なのは分かるだろ?」
健師が諭すと、花音という少女は、
「お兄ちゃん…仕方ないなぁ…」
と言ってシートベルトを閉めた。そしてすぐに
「ねえ瑠花おねぇさん。次の敵の情報ってあるの?」
と聞いた。
「うーん…実はまだこんなやつ!って情報がないんだよねー。現地に着くまでに調べられるかは分からないから現地確認の可能性もあるねー。」
瑠花はちょっと曇った顔をしながらそう言った。
そして、またも車が止まった。そこには金髪の少女と目付きの鋭い男がいた。
「遅せぇよ。何やってたんだよ。」
「池野。そんな責めないであげて。河部くんだって頑張って来てくれたんだから。」
「フン。仕方ねぇな。次はもっと早く来いよ。」
この二人の会話に河部が対応する。
「南さんは優しいですね。それに対して登くんと言ったら…」
「なんで俺だけ下の名前なんだよ!!あと亜衣乃と比べんなゴラァ!!」
この二人の喧嘩のようなやり取りに南は、
「池野さぁ…そんな喧嘩腰で色々話すんなら池野のこと嫌いになるんだからね!!」
「えっ!?嘘だろ!?頼むから嫌いにならないでくれっ!!」
池野は今までの喧嘩口調を変えてこんな情けないことを口にした。
「登くんは南さんには弱いですよねぇ。さ、こんな所で油を売りたくないので出発しますよ。シートベルト、してくださいね。」
河部の一言で車は動き始めた。そして、異世界を通って渋谷までの距離を短縮した。
「スクランブル交差点、スっげぇ人がいるな。こんな人の集まるところに歪みの元凶なんか本当にいるのか?」
「帳之よぉ。いなかったら来ねぇだろうがよ。どうせ空きビルとかに居んだろ?なあ瑠花よぉ。」
「池野くんごめいとー。交差点とかから外れた所にあるビルにいるっぽいですー。」
こんな会話のあと、花音が質問してきた。
「ねぇ、瑠花おねぇさん。結局相手はどんなやつなの?」
「うーん…それがねー…見た目のシルエット的なのすら掴めないのー。ビルの最上階にいて、手下が割といるって言うのは分かるんだけどねー。」
この二人の会話に健師が割り込む。
「手下って面倒くさそうか?」
「まあねー。ゴーレムみたいなのがいっぱいいるっぽいよー。」
「じゃあボス倒してからの方が楽そうかな。」
戦略をねり始めた瞬間に、車が止まる。
「お話のところ申し訳ございませんが、到着致しました。皆さん行きましょう。」
全員が近くの扉から出て、ビルを見すえる。そして車を池野が異世界管理庫にしまう。そして健師が口を開く。
「屋上から攻めるか。池野、テレポート頼めるか?」
「ええ。分かりました。皆さん集まってください。」
そして一瞬にして七人は屋上へと消えていった。
「サンキュー池野。とりあえずあの扉から入れそうだな。鍵の確認しようか。」
七人が健師を先頭にして金属製の扉に近づく。その扉についているドアノブを回そうとするも、回らない。
「鍵かかってるっぽいわね。こんな時はこの亜衣乃におまかせ!」
「亜衣乃ちゃんの神ピッキング来たー!!」
「瑠花ねぇ、私のピッキング、見てて!」
南は但木と仲良しな会話をしつつ、工具ボックスを取り出した。そして、カチャカチャと鍵穴の中にピックを差し込み手馴れた手つきで一際大きなカチャッという音を出させた。
「さ、空きました!」
「おお。さすが万能!!」
「いや、胸あるシ、バンニューだな。」
「確かにねー。」
「何よその呼び方っ!!」
こんな他愛もない会話からはこれからボスと戦う雰囲気は感じられない。そこで池野が喝を入れる。
「おい。おめぇら。やる気ねぇなら帰れ。」
「お前一人でボス倒せんのかよ。」
喝は呆気なく薄れた。だが、確実にやる気は出たようで、
「行こうか!ボス潰そうぜ!」
「おー!」
七人はドアノブをまわし錆びたような音を立て扉がひらく。そして、ゆっくりと階段を下へと降りていく。踊り場を周り、開けた場所に出る。ビルの最上階だ。
「見た感ジ、怪シいのはどう考えてもあの赤いドアの部屋だな。」
そこには、周りのドアより二回り大きく、かつ赤くデザインの豪華なドアがあった。
「…開けるか。」
七人は歩き出す。その禍々しいオーラをまとったドアへ向かって。
「行くぞ…」
ドアを開ける。ギギギっと言う大きな音と共に強めの光が目に飛び込む。そして、威勢の良い声が耳に入ってくる。
「ようこそ!!!!王の間へ!!!!」




