「破邪の太刀」降神遙
二年ほど間が空いたのですが生きてます。
お待ち頂いた方、ありがとうございます。
次回もまた間が空くかもしれませんが気長にお楽しみください。
「昼間、君たちは泉さんの所に行ったのかな?」
「幽霊の噂を流したのは貴方のようですね」
「否定はしないよ。まあちょっとした実験さ……さて、そろそろいい頃合いだろう。私は先にお暇させてもらうよ。」
言うだけいって、あの『先生』は去っていった。
「一寸ワタシ、あの人嫌いデス。貞香サン、あの人の名前はわかりマス?」
「さっきここでは名前を教えるなって言われたばかりだから、ダメだよ。」
「イエ、名を知られても自分は大丈夫だと言う根拠の無い自信は何処からきているのかという純粋な疑問デス。人間社会では偽名を使うのは厳しいものがあるのではないのデスか?少なくとも妖魔や神霊の類いではなく、人間だというのなら、祓い屋関係だと思ったのデスが、見覚えがなくて……」
「イリヤは、人間ではない、しかし怪異でもない」
そっと事態を見守っていた白鶴が会話に乱入する。
「あいつも言っていた。試しても無駄だと」
「……先生の名前は『入谷五十鈴』。もしかして、これも偽名なの?」
「少なくとも、本当の名前ではない」
「謎が深まるばかり、デス。何がやりたいのか全く不明!デス!嗚呼、律子の方も心配デスねぇ」
考えても無駄だ。時間が惜しい。と言うより無駄に時間を過ごさせられた気がしてならない。『降神』を名乗る者、連珠、昼間の事件、それから盗まれた狗吼丸の行方。まだ終わってないことは沢山ある。
「せめて狗吼丸がどこにあるか判れば……!」
居ても立ってもいられず、部屋を飛び出そうとした。
「おや。そんなに慌てて、危ないよ」
部屋を出た先には人が居た。ぶつかりそうになっていたらしい。
「すみませんね。急いでいたもので」
背はそこまででもない。髪の長い男だ。この人間も目立つ洋装である。
「きみ、さっき掲示板前で刀を奪取する依頼を探してたよね。ひょっとして関係者?」
「だとしたら、どうだって言うんですか」
「僕、この界隈で『降神遙』って名乗ってるんだよね」
なんともまあ、出来過ぎている。偶然なのか、それとも見計らっていたのかは知らないが、どちらにせよ絶好の機会だ。
伊呂波は相手に逃げられない様、そっと相手の背後に立って乱入する。
「アナタが探偵社からカタナ、持ってッタ人デスか。カタナ狩りが流行ったのはだいぶ昔のことデス。連珠とイイ、何故狗吼丸を狙ったノデスか?」
「ふふ。探偵社の人間ならまあ推察出来るだろうけど、降神美緒は僕の妹だよ。そしてあの刀は美緒の就職序に預けた家宝だ。元々こちらの物だから少し借りていくくらい、見逃して欲しいな。」
「それならなぜ依頼を出したんです?それこそ降神さんにでも言えば良かったじゃないですか。大体、その妹も今朝から無断で居なくなられて迷惑です。」
「連珠も狙ってるなら、美緒だけじゃ不十分だからね。それなら腕のいい賞金稼ぎに護送してもらった方が安心だろう?」
「じゃあ、こっちで取りに行きます。どこに行ったんです?」
顔が隠れて見えないものの、おそらくにっこりと擬音がつくであろう。それくらい表情に変化が起きたと察せられる。
「おやおや」
「おやおやおや」
「取りに行けるものなら行ってご覧よ。行けるものなら、ね」