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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第3話「正義のみかた」
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「破邪の太刀」神様と相互助成組合

 目の前に立っていた者は異質な感じがした。

 妖魔に近く、神に含まれる存在。その佇まいは住む世界が違うように思えた。

 じっと見つめていても、正体があやふやで掴めない。それは神だからなのか、それとも別の理由があるからなのか。


「ここでは人目に付きすぎるな。」


 部屋を出て、縁側から裏庭に出る。庭と言うには広い敷地には、広大な芝生、手入れされた四季折々の花のつく木々、いくつもの池、その先には水車が回り、茶室だろう小さな小屋がある。

 神はそのなかでも赤や白の鯉の泳ぐ蓮池の側で足を止める。屋敷からは離れているから野次馬もいない。


「さて、何から話すべきか。一先ず簡単な自己紹介か。俺は元々あやかしものの鶴だが、今は町の教会で御神体をやっている。」


 彼は簡潔に答える。妖魔がなんで御神体になっているのか、なんでお嬢様と一緒にいるのかその辺りが気になるが、黙っておく。


「ワタシは使い魔、鬼の伊呂波デス。此方は民間企業のプロレタリア少年。」


 間違ってはいない。間違ってはいないが。もっと他に紹介の仕方があっただろ。

 そもそも神様やってるやつに横文字なんて分かるのか?と言いたいのをこらえる。詳しい説明をしている間も、いくつか言いたいことは出てきたが、話が進まないから我慢する。

 説明を終えたとき、目の前にいる自称神は告げた。


「はたして俺が出てきたところで何ができるものか。その神が昼間に出てこなかったのなら、もうそこにはいないか、ハナから存在しないかのどちらかだと思うがね。」


 幽霊もいなければ神としているものもおらず、当然祟りもない。勝手に恐れて過剰に反応し過ぎている。

 しかしながら、伊呂波の証言が正しいのなら、依頼人は確かに幽霊らしきものにも遭遇している。髪の長い女。それにそもそも依頼の引き金となった昔の話もある。封印を守るために犠牲になった巫女。


「物語はいくらでも変化するものだ。故意でも、そうでなくてもな。」


 お嬢様を見て、それから僕らを見る。それにどんな意味があったのかはわからない。


「つまり、最初から狂言だった、と言う事でショウか?」

「さあな。本当に幽霊がいたのかどうかなんて真偽は本人にしかわからないさ。いくつか気になる部分はあるが、俺の見解としては、祟りの伝承は後付けで幽霊をみたのは本当の事なんじゃないか。」


 池の鯉が跳ねた。ちゃぷんと音を立て、池全体に波紋が広がっていく。会話が途切れて、静けさに包まれる。一分か五分か、あるいはほんの30秒も経っていないかもしれない。時間感覚がおかしくなるほど、その場にいた誰もが息を殺し、言葉を黙殺した。

 そして沈黙を破った神は、声を潜めて語りかける。


「その伝承を依頼人に伝えたのは誰だった?」


「それは、」


「最初の方で『繧、繝ェ繝、(閲覧不可)』と、名乗ってイたそうデス。その場で知り合ったダケの、全くの初対面だトカ。」

「……イリヤが?」


 少し面食らった様子で、聞き返した言葉には不自然な間が空いていた。


「ええ、『繧、繝ェ繝、(閲覧不可)』と聞いてオリマス。」

「そうか、イリヤ……イリヤか。」


 何事か考え込んでいるようで、腕を組んで忙しなく右往左往している。


「知り合いですか?その繧、繝ェ繝、(閲覧不可)って人は。」


 ぱたりと動きを止めた。顔はある一点で止まっている。屋敷の窓だ。その方向を辿って見ると、そこには面もなにもつけていない、命知らずともとれる見るからに関係者とは呼べなさそうな優男がこちらを見て立っていた。周りに花が咲きそうな優雅な微笑み。ここが人外の巣窟でなければ似合いであっただろう。全員の視線が彼を認めると、彼は手招きする。


「イリヤが表舞台に出てきたとするなら、そのうち解るさ。」


 お嬢様を先頭に、ぞろぞろと手招きする男の方に移動する。

 最後に残った神は、小さく、本当に小さくそう呟いた。聞かせるつもりはあまりなかったのかもしれない。

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