~第6幕~
野神晶子は明神翔の強襲を受けて、館地下から続くルートから裏庭を通って野神邸エリアを抜けだした。急いでタクシーを捕まえたはいいが、行く宛てが特に思いつかなく「遠くへ! 遠くへ!」と連呼し、運転手の「遠くってどこ?」に対して「青葉区の公園!」と適当に返事した。
館にはいくつか遺体があって、また敵の来襲に備えて様々なトラップを館のいたる場所に仕込んでいた。しかし光体と化して破壊神となった明神翔のまえでは簡単に破られる障子でしかなかった。
修也は無事なのだろうか? ときどき肩に痛みが走る……
肩に手をやると生ぬるい感触があった。
「ああ! お客さん! 血が出ていますよ! 大丈夫ですか!?」
血……? 必死になって逃げていたからか、全く意識していなかったようだ。しかしここにきてその痛みを激しく感じるようになった。
「病院に!! どこでもいいから病院に連れてって!」
「わ、わかりました!!」
タクシーは街中にある大学病院前へと停車した。そこで降りた途端に出血は止まっていく。いや、引いていくと言った方が良いのか? 真っ赤に染まったブラウスと反比例して、いつの間にか両肩の肌は健全そのものになった。
「どうなっているのよ……」
修也は明神から逃げたのだろうか? 安心出来るようで出来ないような状況だと感じてやまない。晶子は携帯を懐から取りだした。するとそこに修也から着信が入っていた。彼は無事なようだ。マナーモードになっていたし、この逃亡の中で着信に気づかなかったのだろう。彼女はすぐに電話をかけ返した。
『やぁ、ご機嫌は宜しいか? 野神のお嬢さん』
「アンタは!?」
電話に応じたのは明神翔。なんと最悪の展開か。すぐに電話を切ろうとしたが、なぜか通話状態を止めることが出来なかった。
「クソがぁ!!」
晶子は携帯電話を地面へと叩きつけた。通話画面は尚も作動している。それどころか、相手の音量がマックスの状態でスピーカーから溢れ続けた。
『信じるも信じないも君次第だが、修也君と改めて同盟を結ぶことにしたよ。俺が指揮権を握るという条件下でね。さきほど負わせた肩の傷はこちらの力で治してやった。話を飲みこんでくれたら、それだけ延命はできるということだ』
明神は画面越しにこちらを見ているというのだろうか? 彼女は息を飲んだ。
『まったく応じないと言うならば、容赦なく彼にとどめを刺すことになるぞ。もしくはそちらに向かって君を始末することで終わらせてやってもいい。電波越しに君の所在地はわかるからな。あと……そうそう、君の家は炎上しているようだが、遺体は燃えてしまっても残る。この世界の警察は君を必死で追う事にもなるだろう。安全な地獄をとるか? 危険な地獄をとるか? 考えたまえ』
晶子はもう黙ってはいられなくなった。
「何よ? 何が目的だって言うのっ!?」
思わず叫んで返事し返した。
『目的? それは元々そちらが提案したものだ。このゲームが終盤にくるまで我々が一蓮托生だと言うことだ。今度は俺主導で』
「そんな……修也がそんなことを認める訳が……」
『君も他のゲーム関係者もリアルな警察から睨まれているよ。今から俺が指定する山のとあるスポットまで来い。そこで3人で落ち合おう。隠れながら戦うことができなきゃあ、君の戦いはチェックアウトだ。考えたまえ』
そして翔は山とその中にあるスポットを口答で示した。そして電話を切った。
「ちょっとマッ……」
晶子が問いただそうとするも、電話は無情に切られた。そして携帯電話自体、完全にショートして使い物にならなくなった。
明神翔の言うとおりだ。野神邸の事情が露わになってしまえば、この世界のリアルな警察がリアルに捕まえて、リアルに法の裁きを下されることとなる。しかし明神翔の言う事を素直に聞いていいものか甚だ疑問だ。
季節は肌寒い秋の暮れ。それなのに彼女の頬には冷たい汗が滴っていた。
大丸山の中腹、かつて同盟を結成した場所で明神翔と野神修也は拠点を構え始めていた。
「あの姉貴が敵の言う事を聞くとは思えないね~。ボクが電話すれば良かったのでなくて?」
「お前が俺を信用しても、俺はお前を信用していない。療養期間と謳いながら勝手にドローンや虫を飛ばしてくれたからな」
「パトロールだったからって言っても信じてくれないか(笑)」
「いずれにしても、警察はお前の姉を追うことになるだろう。お前の姉がどう判断するかはわかったものじゃないが、使えるなら使わせて貰うよ」
「じゃあ、姉貴がここに来ずに逃げた場合は? ボクを殺すのか?」
「ほっとくさ。こちらにはこちらの計画がある。そのまま遂行する」
「ふうん、明神さんって面白いね!」
「面白い?」
「いやいや! 何でもないよ!」
修也は顔にこそださなかったが、内心ではまだチャンスがあるとうっすらと微笑んでみせていた――
∀・)6月の6日になりました。たまたまですが第6幕の公開になりましたね(笑)もう熱くなっているのかなぁ。今回の話ではホラーで定番の「切ろうにも何故か切れない電話」ってのを使ってみました(笑)この2人の死神って何か腹の探りあいみたいなのがあって、書いてて楽しいです。また次号!




