09:幻影と崩壊
地下、アルルスラントの地下街へと続く地下道を、俺とゼル、イルシィ達と歩いていた。アルルスラント家の当主が俺を呼んでいるとゼルが言ったからだ。正直不安で一杯というか怖い。ゼル曰く俺のやらかした、街の破壊、その被害は軽く20兆円は超えるって話。
これからどういった扱いを受けるのか? それを考えるだけで嫌な汗をかく。額は濡れていて多分青ざめてるんだろうなというのが自分でも分かる。地下道はゴミが散乱していて狭く、電灯も最低限で暗い。そのせいで余計に俺は怖くなる。不安になる。しばらく歩くと開けた場所に出る。
「工場? なんだ? これ……」
ドーム型の建物が並んでいる。ドーム内部が一定間隔で存在するガラス部分から見える。水ではないが、粘性のある謎の青い液体がグツグツと煮え立っている。泡立ち、ゆっくりと膨らんで弾けるを繰り返している。何のためのものかは分からないが何となく地上に置きたくないものだということは分かる。
「地獄兵器の製造プラントだよ。あまり見つめていると気持ち悪くなるよ?」
ゼルにそう促されると、俺は逆に見たくなってくる。くだらないっちゃくだらないけど、純粋な興味もある。そもそも地獄兵器というのがよく分からないけど……
「え……? あれって、人、いや……流魂奴だ! 流魂奴をあのプラントの液体で溶かしてるのか?」
グツグツと煮え立つ液体から逃れようと苦しむ流魂奴が浮かぶのが見えてしまった。流魂奴の口は大きく開いている。叫んでいる、音は聞こえない、絶叫はドームに遮られているから。けど、苦しんでいるのがはっきりと分かる。逃れようとする流魂奴を液体がドーム底に引きずり込もうとしている。流魂奴はやがて疲れ果て、浮かんでこなくなった。
「……こんなことして作る地獄兵器っていうのは一体何なんだ?」
気分が悪くなった。ただでさえ不安だったがさらに不安になった。もしかしたら俺もあの流魂奴のように溶かされて地獄兵器とやらにされてしまうんだろうか?
「だから言ったろう? 見ないほうがいいって。安心しなよ、君がああなることはまずありえないから。けど、そうだね。気になるよね──地獄兵器」
振り返るとイルシィやワンズ兄弟も地獄兵器のことは知らないらしく困惑していた。ゼルがついてこいとハンドサインをする。俺たちはゼルに続き、移動をする。ドームに近づくとドームに接続されたパイプがあるのが分かる。それにそって移動を続ける。パイプは通路に伸びてまだ伸びる。通路が終わり別の開けた空間に出る。
「これ……アルターエゴ……いや違う。けどこれロボット?」
パイプの終わりに巨大な塔のような建物がある。その塔から青い固形物が出てくる。多分流魂奴を溶かした液体の固形物なんだと思う。その固形物をこの地下プラントで働く従業員たちが重機を使い運んでいる。
運んだ先にはレーザー加工の工作機械があった。青の固形物はレーザーに切り出され整形されていく。そして従業員がパーツを運び組み立てている。アルターエゴではない、巨大な戦闘兵器、未完成のロボットを。
「地獄兵器、またの名を人造アルターエゴ。人間の手でアルターエゴを再現した存在だ」
「ちょっと待ってくれ! 再現てどういうことだ? アルターエゴは人間が作ってるわけじゃないってことか? というか、人造アルターエゴの作り方がこれって……これじゃあ……アルターエゴはもしかして……」
「おいおい一度に質問をし過ぎだとは思わないのかい? 君は。アルターエゴは人間が作ってるわけじゃない。アルターエゴは勝手に生まれてくるのさ。地底でね」
「地底で流魂奴がその罪を洗い流す。流された罪は分解されて純粋な意思、欲望のエネルギーとなる。それが地底で固まってアルターエゴになるんだ」
「いや待て待て待て! おかしいだろそんなの! エネルギーが固まってどうして機械になる? あんな精密なものが自然とできるっていうのか!?」
「ははは! そうだよねぇおかしいよねぇ? けれど君はもうヒントを得ているはずだ。オークション出品の過程、そう鑑定の時だ」
「鑑定? ……オウガラスの腕、あれをどう判断してたっけ? ……装甲の形とナノマシン……──っ!! ナノマシンが……意思と欲望のエネルギーの塊を中心として再構築した存在が……アルターエゴ! そういうことだったのか!!」
「だからアルターエゴの性能は基本的に全部同じだったんだ。最初のアルターエゴのナノマシンが散らばって、再構築された存在だから、ってことは……アルターエゴの判別方法は再構築された時代と再構築時のバグ、突然変異による形状、性質変化。じゃあ……そうか、地獄兵器は」
「そう、ナノマシンに頼らずに造る純粋な精神感応型兵器だ。アルターエゴはその性質上、基本的に性能は同じだがこいつは、地獄兵器は違う。アルターエゴよりも高性能、そして精神感応性をより高めた機体だ。といっても、まだ研究段階だ。この流魂奴を溶かして精神感応素材を作る技術自体はすでに出回ってるけどね」
ああ、ダメだ、やはりサガだな、こういう話を聞くとどうしても興奮してしまう。ワクワクしてしまう。例え製造法がおぞましい機体だとしても、一体どんな乗り心地なのかとかアルターエゴと比べてどれぐらい強いのかとか、考えてしまう。乗ってみたい、そう思ってしまう。
「やれやれ、そんなに乗りたいのかい? ちょっと興奮しすぎじゃない? 不気味だよ?」
「ちょ、マスター女の子がしちゃいけないような顔してんぞ……なぁイグルなんとかしてくれよ……」
「アウル、無茶振りはやめてくれ。俺もどうしたらいいのか分からん。そもそも異常性があると分かって俺たちはマスターに着いてきたんだろう? あきらめろ」
「マスター目が凄く大きくなってる。笑ってるのに凄く怖いな。ねぇイグル大丈夫なの?」
みんな俺を心配してる。そんなにマズイ顔をしてるのか? けど、けど仕方ないだろ。俺はこういう特別な機体とかが大好きなんだよ。
「ん? ちょっと、待ってくれ。こんな重要そうな場所に俺たちを入れてよかったのか? 外に情報が漏れたらダメだろ」
「ああそれ? そもそも部外者は基本この区画まで入れないからね。俺が一緒にいるから検閲をスルーしてこれただけだよ。まぁ部外者に見せるのが良いのか悪いのかで言えばそりゃ悪いだろうね。けど俺は問題ないと判断しただけさ。さて、そろそろ行こうか。アルルスラント家当主、イェイルシュテルン・アルルスラントの所へ」
──────
プラントから通路へ移動、そこには通路移動用の小型車があった。縦長で電車のオモチャみたいだ。ゼルと俺、イルシィ達は小型車に乗り込み移動する。そうして通路を移動し小汚らしい通路に似つかわしくないドアが見えた。
ゼルが小型車を止めついてこいとハンドサインをする。ゼルが金細工を施されたドアを開く。どう考えてもここだ。この先にイェイルシュテルン・アルルスラントがいる……どうにもならない、覚悟を決めよう。俺はドアの先へ足を踏み入れた。
「ようこそ、待ってたよ。レン・コウガミ。そう怖がらなくていい、まずは座ってくれ」
ドラキュラ!? 俺のイェイルシュテルンへの第一印象はそれだ。肌は病的に青白く、鋭い目つきに隈がある。白髪のオールバックに白いスーツを着込んだその姿は貴族的で俺は思わずドラキュラを想像した。
しかし、イェイルシュテルンの表情は俺の想像していたものと遥に違った。怒っていないし、何故か笑っている。イェイルシュテルンは俺の顔を見て、手で口を覆いながら笑みをごまかす。なんだ? 何が笑えるんだ?
俺はイェイルシュテルンの向かいにあるソファに座る。何故かゼルが隣に座ってきたので右側に避け、スペースをあける。
「僕はイェイルシュテルン・アルルスラント、このアルルスラントを治めている者だ。といっても君とはそう、できれば対等でいたいんだよ。何故なら僕の友人の想い人だからね。僕のことはイリーと呼んでくれ。僕も君のことはレンちゃんて呼ぶから」
物腰やわらかく、あんなことをやらかした俺に対してこんな態度をとる、不気味でしかない。これから先を想像すると冷や汗をかいてしまう。
「あの、俺、街をめちゃくちゃにして、最低でも20兆円規模の被害額だって……なんでイリーさんは……怒ってないんですか?」
「そうだね、実際は42兆円ぐらいだったかな? 被害額は、けど、それで君を攻めるのはお門違いなんだよ。僕はゼルに頼んだからね。この街を救えって。その結果がこれだ、君たちが全力を出してあらがって、それでこれだ」
「あのエイルとかいう天使モドキは、多分ゼルと君がいてやっと退けられたんだ。そしてエイルは殺して、世界を翼に、自由に変えると言っていた。目的は殺すこと、おそらく人類の滅亡だ。まぁ何が言いたいかっていうと、君があの選択、エゴバーストを行わなければアルルスラント、そしてこの地獄の人間はエイルに絶滅させられていたってことさ」
絶滅? 地獄の人間すべてを殺す……? そんなことが可能なのか? 思い出す。エイルはエゴフィールドを破壊していた。魂を壊すってことだ。そしてエイルは地獄に人の魂が送られすぎて、地獄のシステムを崩壊させて生まれた存在。数えきれない死と罪が積み重なって生まれた。そうか……エイルはもうすでに地獄を、一つの世界を壊したんだ。
「レンちゃんのあの行動は最善だった。君はアルルスラントだけじゃなくて、この地獄の命すべてを救った。だから何もできなかった僕が君を責めるのはおかしい。何より僕は君に勝てないしね。君は世界最強と渡り合える存在だ、僕も今回の件で君に恨みを持つ存在も、誰も君を倒せない。いや、例外はあるか」
「そう、エイルだ。奴は君を恨んでいるだろうね。君はエイルを傷つけた。だから狙ってくるよ、確実に。そして奴は強い、君を殺せる。だからね僕は君を支援することに決めた。エイルを倒せ、殺すんだ。これはもう地獄全体の問題で君がいなきゃエイルはきっと倒せないからね」
「え!? 借金は!? 街をめちゃくちゃにしたのに……借金どころか支援なんて真逆だ」
流石に俺も戸惑う、どうして支援になる? いや理屈では正しいのかもしれないけど。人間そう簡単に割り切れるもんじゃないだろ!?
「レン、借金がないならラッキーじゃないか。俺もてっきり借金払えーってイリーが言うのかと思ったけど。なるほどね。エイルを殺さなきゃ安息はない、確かに確かに、で、どうするんだイリー?」
ゼルがイリーにこれからを問う。俺を支援してエイルを倒せと言う。何をさせるのか、何をすればいいのか? 俺も気になるところだ。
「もうすぐ地獄兵器が完成する。ん? 地獄兵器と聞いてその様子だともう見てきたのか。地獄兵器を使って、エイルを殺す。そして実を言うと居場所もわかってる。やつの居場所はバガイ山、地獄で一番アルターエゴが発掘される場所だ。やつはそこで傷を癒やしてる」
「傷を癒やしてる? どういうこと? アルターエゴが沢山発掘される……それってもしかして、そのバガイ山には意思の塊があるってことで、その意思の塊でエイルは傷を……癒やしてる?」
「そうだ、エイルがやつの説明していた通りの存在ならば、意思エネルギーでやつは出来てる。となれば、意思エネルギーを取り込めば傷は回復する。ということさ」
イリーが説明を終えると指を鳴らす。すると、部屋にアタッシュケースを持った黒服が入ってきた。黒服はソファ前にあるテーブルにアタッシュケースを置き、開いた。中には大量の札束が入っていた。
「これで準備をしてくれ。今はあまり金がなくてね、これだけしか支援はできない。地獄の未来を頼むよ。お二人さん」
──────
「行ったか……しかし、似ているな。あの女に……そういえばあの女に夢中だった時もゼルは同じことを言っていたな。全く、過去の幻影の代わりにされる彼女が可哀想だよ。ゼル、過去を見るお前は、お前らしくないよ」
ゼルとレン達が去った部屋、誰もいない部屋でイリーは一人呟いた。青白い顔は少し赤みがかっていた。顔をしかめて、彼は静かに怒っていた、ただ一人の友人、ゼルカバハ・オーライエンに。
「イェイルシュテルン様!! 大変です!! 地獄兵器が、地獄兵器が盗まれました!!」
黒服が慌ただしく、部屋に入り、報告をする。地獄兵器が、盗まれた。
「は?」
イリーの顔がさらに赤みを帯びる。彼は舌打ちをするとソファにかけていたコートを乱暴に手に取ると、部屋を走り、出ていった。
感想や評価は気軽にお願いします!
モチベに繋がるので!




